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俺の推しは裏切らない!  作者: ゆき
165/183

165 ブッシュドノエル

 コンビニで買ったホットコーヒーを飲みながら、駅から家までの距離を歩いていた。

 ツイッターを見ると、『VDPプロジェクト』が1時間前に配信をしていたようだ。

 明日のライブや今日のリハについて話したんだろうな。

 あいみんが楽しそうに話す様子が目に浮かぶ。


 なんか、推しの配信をリアタイできないって、ダメージでかい。

 明日もイベントなんだよな。『VDPプロジェクト』のライブに行けるなら体力も出てくるんだけどさ。明日は何も起こらないことを祈るしかない。


 カナは電車の中で、仕事の話を一切することはなかった。

 大学の課題の話や、レポートの提出を気にしていること、絶対落とせない授業の単位を話したりした。

 アイドルが終わってマスクをしていたら、普通の大学生だ。

 数時間前にステージにいた子とは、全く違う子と話しているみたいだった。


 クリスマスイブだからか、電車の中はカップルだらけだったな。

 カナも可愛いし、彼氏がいてもおかしくないのに。

 佐倉みいなみたいに、どこからもリークされないよう、同棲しているって可能性もあるな。ゲームクリエーターとか、プロデューサーとか、会社社長役員、漫画家、芸能人いろんなところに人脈があるし、出会いも多い。彼氏ができないほうが不自然だ。


 カナは徹底したアイドルだから、友達であっても言わないだろうけど。 




 ガタッ


「さとるくーん。お疲れ様ですー」

「!!」

 家のドアを開けようとすると、隣の家からゆいちゃが出てきた。

 髪の毛先がぴょんと跳ねている。

「ゆいちゃか・・・びっくりするな」

「あー、あいみさんかと思ったんですね? 残念、ゆいちゃですー」

「思ってないって」

 もこもこの部屋着を着たゆいちゃがついてくる。


「つか、ついてくるのかよ。明日はライブ本番だろ?」

「今日の出来事を一通り話したら帰ります。面白いんですよ。他のアイドルとかも来ていて、Vtuberとも会っちゃったりしてとか、そんなエピソードを話したいです。あと重大な、重大なお話もあるんです」

「何? 重大って」

「まぁまぁ。ほら、今日作ったブッシュドノエルも持ってきましたので、中でゆっくり。ふわぁ・・・外はとっても寒いです」

 ゆいちゃがぶるぶる震えながら入ってきた。

 部屋は冷え切っていた。疲れた体にこたえる寒さだ。


「寒いな。すぐ暖かくなると思うけど」

「ブッシュドノエルは、今日の配信で4人で作ったのです。ほとんど食べちゃいましたが、さとるくんもどうぞ。って、お腹すいてます?」

「どうも。おにぎりくらいしか食べてないから、かなり腹減ってるよ。疲れた時には甘いものだしな。すごい、めちゃくちゃ美味しそうじゃん」

「へへ、よかったです」

 ゆいちゃがお皿にケーキを切り分けていた。

 チョコレートのスポンジ生地がふわふわしていて、サンタが描いてあるクッキーが載っていた。


 これを、推しが作ったのか・・・尊いな。あとでセリフ暗記するほどアーカイブ見よう。


「さとるくんは、きっと今日の配信リアタイできなかったから、少しでも楽しかった気持ち分けてあげようと思いました」

「へぇ・・・そ」

「クッキーは最後がおすすめです。最後にサンタさん食べるのが、いいと思います」

「・・・・・・」

 ゆいちゃは、クリスマスイブに男の家に来ることに抵抗ないのか?

 しかも夜だし、何かあってもおかしくないだろ。

 まぁ、俺を男として見ていないからだろうけどさ。


「明日のライブはいろんなアーティストが出演するので、ステージ裏もワイワイしていて楽しかったです。Vtuber兼歌い手の子とか、ネットでバズった女子高生ダンサーも出るみたいで、TikTokの振り付けしたりで、盛り上がりました」

「楽しそうだな」

「はい! 歌い手の人たちとは曲作りについても話したんです。いい刺激になりました。それに、前のイベントよりもずーっとずーっと、パワーアップしてるんですよ」

 にこにこしながら説明していた。

 『VDPプロジェクト』が出るのは、女性アイドルグループや駆け出しの声優、Vtuberなど、最近のツイッターのトレンドの上位を占める女性アーティストが出演するクリスマスライブだった。

 注目度が高いらしく、チケットの倍率は10倍だったらしい。(結城さんは啓介さんの力を使って、なんとかチケットを購入できたと話していた)


「なんの曲歌うの?」

「ダメです! それはお楽しみです。ちゃんと配信アーカイブ見てくださいね。私のソロパートもすっごく上手くなってるので、期待しててください」

「はいはい」

「本当に上手くなってるんですからね。さとるくんがびっくりするくらい」

「ゆいちゃは上手いよ。高温が綺麗だしな」

「あっ、ありがとうございます。なんか、そういわれると照れます・・・」

「いつかゆいちゃもいい曲作れるといいな」

 ケーキは甘くて美味しかった。

 今日差し入れにあった、なんとかって有名なお店のお菓子よりも美味しいな。


「そういや、重大ニュースってなんだよ? またイベントの予定とか?」

「違います、えっと・・・絶対誰にも言っちゃだめですよ」

「ん?」

 ゆいちゃがにやにやを抑えながら、口に人差し指を当てていた。


「なんと! ナツとのんのんがいい感じらしいです」

「えっ!? ・・・っごほ・・・」


 喉が詰まりそうになって、慌ててお茶で流し込む。

「いい感じってどうゆうこと? 付き合うことになったの?」

「それはまだ確定していないのですが、ナツからかなり進展があったって聞きました」

「か・・・かなりの進展?」

 息をのむ。かなりの進展って、どうゆうこと? まさか・・とか・・・・とかしたってこと?


「クリスマスマジックです」

「クリスマスマジック・・・」

 クリスマス前にデートの約束を取り付けたって張り切っていたけど・・・。

 マジで付き合うことになったのか。

 お似合いって言えば、お似合いだけど、のんのんがよくOK出したな。ナツの粘り勝ちか。


「はぁー、話せてスッキリしました」

「誰にも言ってないの?」

「もちろんです。あいみさんとりこさんには内緒です。のんのんにも、直接は言えないし・・・ってナツに口止めされています」

「俺に言ってよかったの?」

「さとるくんはいいんです。ぜーったい、誰にも言わないでくださいね」

「あ、そ」

 どうゆう意味だよ・・・ってつっこみたかった。

 ま、いいけどさ。


「なるほど、それを言うのに、俺を待っていたと」

「えっと・・・半分はそんな感じです」

「じゃあ、もう半分は?」

「その、さとるくん・・・ちゃんと帰ってくるかな? とか・・・思ったり。だって、ななほしⅥと仕事ですし、今日はクリスマスイブですし。なんか予定入ったりして泊まりとかあったりして・・・とか」

 髪を触って、もごもごしながら話していた。

「そりゃ、帰ってくるだろ。俺、そうゆうバカ騒ぎみたいなの苦手だし。明日も仕事だしな。何より、あぁゆうバカ騒ぎって、お酒が飲めないと意味ないんじゃないの?」

「・・・・・・・」

「一応、未成年だからなー」

 ケーキのチョコレートの部分を口に放り込む。ちょっと、紅茶の味がした。


「ん? どうした? 食べたいのか?」

「いえいえ、えっと、そうですよね。そうですよね。これで安心して眠れます」

「?」

「私も帰らなきゃ。明日ぼうっとして、歌詞間違えたら大変です」

 ゆいちゃがぱっと立ち上がって服の裾を伸ばした。


「メリークリスマスイブです。さとるくん」

「あ、あぁ・・・」

 ちょっと屈んでほほ笑んでいた。


「真っ赤なお鼻の~ トナカイさんはー、いつもみんなの~んん・・んん~ん~」

「・・・・・・・」

 鼻歌を歌いながら、機嫌よく帰っていった。

 なんだったんだ? さっきの間は・・・。 

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