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俺の推しは裏切らない!  作者: ゆき
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164 アイドルと過ごすクリスマスイブ⑤

「お疲れ」

「ん、あぁ。お疲れ」

 階段でスマホを見ていると、ルカが近づいてきた。

 渋谷で見かけるような、ラフな私服に戻っていて、化粧も少し落としたようだった。

「何してんの?」

「鬼塚さん待ってるんだよ。明日の進め方とか聞かなきゃいけないし、チェックするものとか、色々あるんだ」

「へぇ、仕事熱心だね」

 横の壁に寄りかかって、コーヒーを飲んでいた。


「休んでなくていいのか? 一日中準備だとかライブだとかあったんだから、疲れただろ?」

「私はみんなよりも体力あるからね。これでも、中学の時は、陸上部で地区大会優勝して、全国大会まで行ったんだ」

「すごいな」

「声優にならなかったら、あのまま陸上続けてたかな。長距離が得意だったんだよね、練習はかなりきつかったけど」

 そういや、プロフィールに県大会優勝って書いてあった気がする。

 アイドルってとことん何でもできる奴多いよな。

 主にカナだけど。


「ねぇねぇ、ステージ裏で見てたでしょ? 誰が一番可愛いと思った?」

「一番って・・・みんな可愛いんじゃない?」

「その中でも一番を決めるとしたら?」

 しゃがんで、じっとこちらを見てきた。金色の髪がふわふわしている。

「お前らそうゆう順位決めるの好きだよな」

「そりゃ、一応これでもアイドルだし。誰推しなのか気になるじゃん」

「みんな応援してるって」

「一番が知りたいんだけど、濁さないでくれない? 誰なの?」

 ぐぐっと迫ってくる。

 よく聞かれるんだけど、別にななほしⅥで誰を推すとか、考えたこともない。

 俺の推しはVtuberのあいみんで間違いないし。


「じゃあ、ミクだよミク。今ゲームで攻略しようとしてるからな」

「あ、そ。ふうん」

 つまらなさそうに腕を組んで、缶の蓋を鳴らしていた。自分で聞いてきたくせに。

 ミクも地雷だってことに気づいたから、一番常識あって角が立たなそうなマミに変更したかったけど、もう面倒だしどうでもいい気がした。

 この時点でマミに変更したほうが、がーがー言われそうだしな。


「で、どこまで攻略したの?」

「えっと、今回のクリスマスイベントでは、好感度満タンになったよ。アイドルとしても、クラスのアイドルから、きらきらアイドルになったよ。って、聞いてもよくわからんと思うけど」

 ゲーム自体は面白かった。ミニゲームは、移動時間の暇つぶしにもなったし。

「そんなことないよ。きらきらアイドルの次はぴかぴかアイドルでしょ? レベルは20くらい? この短期間にしては、進みが早いんじゃない?」

「え、ゲームやるの?」

「もちろん、ゲームはかなりやりこんでるよ。ギャルゲーはあまりやらないけど、アイドルストーリーは自分たちのゲームだし、ちらちらチェックしてるかな。今ならA-PEXとかバイオハザードとか人狼ゲームも好きだし・・・あとは、ドラクエはお兄ちゃんがよくやってたから、かなり詳しいよ」

 急に饒舌になった。


「なんか、意外だな・・・ゲームとか全然興味なさそうなのに」

「あー公開してなかったからね。でも普通だよ。だって、アイドルってストレス溜まるんだもん。ゲームだと偽名でできるし、向こうもアイドルだって思ってないから気を使わないし、ものすごい楽なんだよね」

「そう・・・・」

「今度、なんかプレイしてみる? パソコンが良ければ、おすすめ探しておくけど」

「いや・・・今は大学の課題に追われてるから。落ち着いたら、聞くよ」

「了解」

 一緒にプレイしている人も、まさか、ななほしⅥのルカがチームにいるなんて思っていないだろうな。俺だって、人狼やってるプレイヤーがあいみんだったらビビる。 


「そういえば、カナとはあれからどうなの?」

「どうって、何が?」

「実は裏で付き合ってました・・・とかないの? ライブ中も、ずっと カナのこと気にかけてたみたいだし、なんかあるのかなって思ってたけど」

「あるわけないだろ。カナが無理して倒れやすいから見てたんだよ。実際、ステージ以外はふらついてたしな」

 文化祭でカナといるところを見られて以降、変な疑いをもたれていた。

 ネットの噂は下火になってきたっつーのに。


「ま、アイドルとマネージャーが付き合っても、表には出せないかー」

「変な噂流すなよ。事実無根なんだからな」

「さぁね。約束はできないかな」

「・・・・・・・・」

 ルカがにやっとして手をひらひらさせた。コーヒーを飲みながら離れていく。

 



 鬼塚さんと明日のスケジュールについて認識合わせして、楽屋に戻ると、全員バラバラでスマホを見ていた。

 疲れているんだか、仲悪いんだか知らないが、ライブの一体感とかは皆無だ。

 あいみんたちだったら、絶対互いに写真撮ったりして、盛り上がってるのに・・・。

 まぁ、ステージであんなに人を感動させるようなパフォーマンスができるんだから、素直に尊敬するけどな。


「お疲れ、みんな遅くなってごめんね」

 鬼塚さんが汗を拭きながら楽屋に入ってくる。

「これから僕と、藤堂君の車で送っていくよ。神奈川方面が藤堂君で、東京方面が僕」

「はい、藤堂です。お願いします」

 藤堂は事務所の専属ドライバーらしい。20代くらいの、無口な青年だった。

 俺の仕事もやっと終わったな。長いクリスマスイブだった。


「じゃあ、お疲れさまでした。また明日、よろしくお願いします」

「ん? あ、ついでだから送っていくよ。確か、カナの家のほうだったよね?」

「いやいや、申し訳ないので。まだ電車ありますし、このまま帰ります」

 リュックを肩にかけて、軽く頭を下げた。

 帰りの電車は『VDPプロジェクト』のアーカイブを見て、ゆっくり癒されながら帰ろうと思った。

 仕事で疲れた後の、推しって最高なんだよな。


「私も電車で帰ります!」

 カナが手を上げて駆け寄ってきた。

 イヤホンを落としそうになった。


「え? カナも? 大丈夫? 体調悪いんじゃない?」

「そうだよ。ステージ裏でフラフラしてたじゃん」

「もう大丈夫なんで。それに、車で帰ると、ルカの後だからかなり遅くなっちゃうし、それなら電車で早めに帰ったほうがいいです。ここからなら、大体30分くらいですし」

「カナがいいならいいんだけど・・・でもなぁ、途中で倒れたりしないか心配だな」

「途中まで磯崎君と帰るので、大丈夫ですよ」


「!?」

 俺と? 俺は推しの動画・・・いや、推しと帰りたいんだけど。

「それはアウトでしょ。クリスマスイブに男といるところ見られたら・・・」

「そ、そうだよ。絶対疑われるって!」

 リノとルカがすごい勢いで反応した。ミクも何か言いたげだ。


「電車で帰るだけなんだから、そんな過剰になることないでしょ。今までだってスタッフと帰り道に一緒になったことあるし」

「でも・・・・ほら、ファンからのプレゼントとか荷物もあるし」

「どうせ今日じゃ持ちきれないし、ほとんど事務所に行くでしょ? リノ、そんなに引き留めようとするってことは、何か他に理由でもあるの?」

「そうゆうわけじゃないけど」

 カナがリノを睨むと、リノが口をもごもごさせていた。

 可愛い顔して、めちゃくちゃ気が強いんだよな。

 じゃなきゃ、不動のセンターなんてやってられないのかもしれないが・・・。


「まぁまぁ。じゃあ、悪いんだけど磯崎君、カナのことお願いね」

「・・・はい。わかりました」

 全然、気乗りしないが、断れない。

 帰りくらいは『VDPプロジェクト』を見たかったな。

 あわよくば、ライブ前ちょこっと配信もリアタイできるかもしれなかったのに。


「では、失礼します。あ、あとで、公式アカウントで今日のライブのことを載せておきますね」

「あぁ、そうだったね。色々バタバタして忘れてたよ。了解、お願いね」

「お疲れ様でーす」

「明日もよろしく。なんかあったら連絡して。お疲れ」

 鬼塚さんが笑いながら手を振っていた。

 鬼塚さんって時々仏なんじゃないかって思う。ななほしⅥのわがままも受け止めて、今日のライブで上手く進行しないときも、冷静に動いていたし。

 周囲の信頼も厚く、次から次へと仕事を取ってこれる理由もわかる気がした。



「外、寒いかな?」

「ホッカイロあるよ。使う?」

「うん、手袋忘れてきちゃったから」

 カナが手をこすりながらほほ笑んでいた。

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