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俺の推しは裏切らない!  作者: ゆき
161/183

161 アイドルと過ごすクリスマスイブ②

「本番まで暇だねー。かーななん、どこか行こうか?」

「疲れたから寝ようかな」

「ルカミクは?」

「私は特に」

「だるいからどこにも行かない。つか、出かけたらファンにバレるでしょ」

 ななほしⅥのメンバーが直前リハから戻ってきていた。

 今は、音響と照明の最終調整をしているらしい。


 俺もここから2時間は休憩時間だ。

鬼塚さんは関係者のところで打ち合わせしたり何かと忙しそうだったが、俺は休めるときに休んでおいてくれとのことだった。ステージ撤収も手伝ってほしいらしい。

 ちょっと早いけど、あいみんの動画を見ながらご飯でも食べるかな。

 ツイッターを開いて、テーブルに置いたおにぎりに手を伸ばす。


「ねぇ、ちょっと外出したいんだけど」

 リノが声をかけてきた。

「ダメだって。もう、あと1時間もすれば会場の外にファンも集まってくるんだから。帰りにしてくれ」

「本当、融通利かないマネージャー」

「・・・・・・・」

 今のは、俺、悪くないだろ。

 無視だな。いちいちリノの文句に付き合ってられない。


「・・・高校の友達が来てるの。会場の近くのセブンにいるって」

「高校の?」

「迎えに行ってくれない? 楽屋案内するって約束したんだ」

 スマホを両手で握りしめていた。リノが声をかけてくるなんて、珍しいと思ったら・・・。

「・・・はぁ・・・・わかったよ。鬼塚さんに連絡してから連れてくる」

「お願い、5人で来てくれてるらしいから。あまり待たせたくないの」

「あぁ・・・」

 おにぎりを置いた。せっかくの休憩時間なのに。

 寒いし、気が乗らないけど、行ってくるか。

 早く用事を済ませて、『VDPプロジェクト』の動画で温まりたい。




 リノに言われた通り、コンビニの駐車場に行くと、すぐにわかった。

 高校生らしき男女のグループ5人がホットスナックを食べながら、スマホで動画を撮影していた。


 ガラが悪いというかなんというか・・・。こんな奴らと友達なのか?

 まぁ、人の交友関係にとやかく言うつもりはないが。

「リノのお友達ですか?」

「はい! 私、りーのんとは、中学からの仲良しで」

「あ、そう・・・」

 女の子が前に出てきて、にこっと笑った。

 見るからに不良って感じだ。高校生なのに、もう化粧が濃いし。


「マジか、マネージャーすか?」

「一応・・・」

「へぇ、なんか芸能人って感じね。楽屋って、ななほしⅥのメンバー全員いるのかぁ。ルカとかもいるのかな。実物めっちゃかわいいだろうね」

「他の芸能人もいたりして。ほら、コラボ相手とかさ」

「可能性あるある。お笑い芸人もファンだって公言してたりするし」

 世間のアイドルのイメージってこんな感じなのか?

 楽屋に、すげー夢抱いてる気がする。とりあえず掃除しておいてよかったな。

「裏口から案内するので、こっちに来てください」

 少し離れて先頭を歩く。


「におわせ動画とか撮っちゃう?」

「やめてよー」

 なんか、こうゆう人種って苦手だ。リア充のベクトルが違うんだよな。

 俺の一生の中で、関わるのはこれきりだろう。

 

「でさー・・・・・・」

「ウケる。それ・・・っしょ」 

 イヤホンを耳に入れてなるべく会話を聞かないようにしてたけど、なんとなくリノと仲いいわけではないような・・・。

 あまり仕事のこととか知らないみたいだし。気のせいか?



 トントン


「入ります」

 楽屋に入ると、リノだけがぽつんと残っていた。

 友達の顔を見て、ぱっと明るくなる。

「あー、いっちゃん、本当に来てくれたんだ」

「あれ? みんなは?」

「鬼塚さんとアニメプロデューサーに挨拶に行ってる。私も少ししたら来てほしいって言われてるんだけど・・・」

 リノが俺を避けるようにして、友達のほうに近づいていった。


「今日は来てくれてありがとう。あ、この辺のお菓子ね、限定ものなの。すごくおいしいの。余っちゃうから食べていって」

「えっ、なんで他のメンバーいないの?」

 女の子が急に態度を変えた。

 スマホを持って、鏡越しに5人の様子を眺める。あからさまに、さっきまでのテンションと違っていた。


「他の子たちは忙しくて・・・・」

「意味ないじゃん。せっかく、藤堂くんたち呼んできたのに」

「え・・・で、でも、ここが楽屋だよ。ほら、衣装とか・・・」

「うわー俺、かななんに会いたかったんだけど」

 男が鏡を見ながら、自分の髪を触っていた。


 なんだ? こいつら。


「楽屋にリノしかいないなら言ってよ。それなら絶対来なかったのに」

「そ・・・・・・」

「電車めっちゃ乗り継いで、ここまで来たのに。ないわー」

「でもっ、ライブもあるし。ライブは楽しんでもらえると思うんだよね」

「ななほしⅥのライブとか、絶対オタクばっかじゃん」

 馬鹿にするように笑っていた。


「私たち、別にななほしⅥのファンじゃないんだよね。芸能人がいるなら見たかっただけで・・・」

「ほら、そうゆうコネとかあるじゃん。俺、将来的に芸能関係の仕事つきたいからさ。Youtubeもやってるし」

「そうそう、私もよく原宿で声かけられたりするし。こうゆうとこ来れば、スカウトとかあるんじゃないかって期待しちゃった。ななほしⅥって知名度あるからー」

 どう見ても性格悪そうな女が、鏡を見ながら言っていた。

 こいつがスカウトとか、ありえねーだろ。

「ここ来るまで、そこのマネしか会わなかったし、リノしかいないなら、来る意味なかったっつーか。他の人たちいるときに呼んでよ」

「・・・・・・・・・・」

「ハハ、マジでそれ。リノしかいない楽屋に来てもな。俺たちだって暇じゃないんだし」


 リノが青ざめてわたわたしていた。

 こいつら、クズすぎるだろ。


 ガシッ


「用が終わったなら、帰ってもらえる?」

 男の腕を掴んで引っ張った。


「は? なんだよ、お前」

「あんたらの今の様子、動画で撮影したから。これを関係者にばらまけば、要注意人物として出禁になるよ。つか、もう上の人には見せて、関わらないように言っておくけど」

 スマホを見せながら言う。


「!?」

「どうしてそんなことを?」

「楽屋に来たファンが変なことしないか、撮影するのは当然でしょ。出て行ってくれない?」

「私たち、リノの友達なのよ」

「友達に見えなかったからさ。この動画見て、友達だって思う人のほうが少ないでしょ」

 リノの友達って言ってた女の子が、渋々引き下がっていった。


「あと、俺、あんたらに関係者カード渡してないんで、そのままうろうろしてたら捕まるから。よろしく」

「はぁ? ふざけんなって」

「早く出て行ったほうがいいよ。ガタガタ騒ぐと、変なファンが入ってきたって通報されるから。ここ、セキュリティ厳重だからさ。じゃ、俺はあんたらと一切関わりないんで、これで」



 バタン


 抵抗する男を無理やり追い出して、勢いよくドアを閉めた。

 ちょっと色々と強引な気がしたが、馬鹿はこれくらいでも信じるだろう。

 物音がしていたが、しばらくするといなくなったのか聞こえなくなった。


「わ、私の友達に何すんのよ!」

「あんなの友達じゃないだろ」

「そんなの、あんたに決められたくない!」

 リノが顔を真っ赤にして怒っていた。

「だって、だって、唯一の高校の友達で、仲良くしなきゃいけなかったのに! あんたのせいで、友達いなくなったらどうしてくれるの!?」

「じゃあ、追いかければ? 俺はあんな奴ら知らん」

 動画を眺めながら、鬼塚さんに送ろうか迷っていた。

 後で口頭で説明しておくか。


「余計なことばっかするんだから・・・・・」

「あいつらなんかとつるんでいても、メリット無いだろ? 冷静になれって。お前は、誰もがうらやむ声優アイドル、ななほしⅥのメンバーなんだから。あんな様子ファンにさらしたら、締めに行くぞ」

「うるさい・・・うるさい」

「・・・・・・・・」

 頭を掻いた。これだから、面倒なことには関わりたくないのに。


「・・・泣くなよ。本番前だろ」

「泣いてない・・・・・」

 瞬きすると、大粒の涙がこぼれていた。タオルを渡してやると、声を押し殺して泣き出した。

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