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俺の推しは裏切らない!  作者: ゆき
160/183

160 アイドルと過ごすクリスマスイブ①

 クリスマスイブ。

 多くのカップルがいちゃこらしたり、恋愛の駆け引きをしている中・・・・。

「磯崎君、こっちの荷物手伝って」

「はいっ」

 俺はバイトだ。さっきからステージ裏を動き回っている。

 最推しのあいみんにDMを送る暇すらない。


 今までぼっちのクリスマスを嘆いてきたけど、ぼっちだと推しを応援したり、推しを画面に映してクリスマスケーキを食べたり、何気に充実していた気がする。

 まぁ、高校の時の推し、佐倉みいなは結婚したけどな。


「この箱2つね」

「っと、結構重いですね、何入ってるんですか?」

「ファンからななほしⅥへのプレゼントだよ。まぁ、明日のほうが多いんだろうけど。あ、そっちはかななんね」

「マジですか・・・」

 全部で20個近くある段ボールを、鬼塚さんとアルバイトスタッフと一生懸命移動させていた。

 クリスマスイブに、こんなに貢物があるのか。ファンの熱量ってすごいな。

 いや、俺だって推しへのプレゼントだったらこれくらいする。


「!?」


 やばい。

 クリスマスプレゼントとか、存在自体忘れてた。

 もうクリスマスイブだし、明日もバイトだし、今から選んでクリスマス過ぎたプレゼントになってしまう。バイトと課題と失望感で、記憶の片隅にもなかった。

 バイト以外は『VDPプロジェクト』を全力で推すっていう俺の信念が・・・。

「ん? どうしたの? 眩暈でもした?」

「すみません、ちょっと寝不足でぼうっとしてしまって」

「はは、今日から年末にかけてずっと忙しいからね。体力温存できるときにしておいて」

 鬼塚さんが軽く笑いながらスマホを眺めていた。


「磯崎君が作ったスケジュール管理アプリ、本当に使いやすいよ。将来有望だね。もし、ななほしⅥが上手くいけば、いちごっ娘にも使いたいな」

「よかったです。でも、すみません。授業の一環で作ったので、微妙な部分もあるかもしれませんが・・・」

「いやいや、すごくいい。スケジュール見やすいし、メンバーとも連絡取りやすいし。次は・・・もう、ななほしⅥの楽屋入りだったか」

「そうですね。俺、スタッフさんからの差し入れ持っていきます」

 箱をエレベーター前に置いて、テーブルに置いてあった袋を手に取った。


「あぁ、頼む。僕は先にステージ関係者に挨拶行ってから、向かうから」

「はい」

 自分が作ったスケジュール管理アプリを褒めてもらえるのは嬉しかった。やっぱ、エンジニア志望していてよかったと思う。

 ただ、ほとんどテストしてないからハラハラするんだよな。

 同じ学部のカナも確認していたから、おそらく大丈夫だろう。



「わぁ・・・寒いね。りーのん、ホッカイロ貸して」

「自分で持ってきてよそれくらい。ほら、マネージャー来たから持ってるんじゃない?」

「磯崎君、ホッカイロ、ホッカイロ」

 ツカサが手をこすりながら近づいてきた。小さいホッカイロを2つ渡す。


「1,2,3,4,5・・・なんで5人しかいないんだ?」

 楽屋に行くと、カナ、リノ、ツカサ、ルカ、ミクしかいなかった。

 マミがいない。優等生過ぎて気に留めたことのないマミがいない。


「マミは・・・」

「おはようございます」

 マミが楽屋に入ってきた。差し入れの袋を持っている。

「すみません、磯崎君、荷物運ぶの大変そうだったので、手伝おうと思いまして。はい、これ、ファンからの差し入れらしいです。持ち帰ってもいいそうなのですが」

「あーそれ、原宿パンケーキのお店が出してるお菓子だ。限定もので、かなり並ばなきゃ買えないって言ってたのに・・・。写真、撮っておかなきゃ」

 リノが俺を押しのけて、差し入れの袋を奪っていた。


「あ、ありがとう・・・わざわざ手伝ってくれて」

「こちらこそ、クリスマスイブなのにありがとうございます。大変なことがあったら、私もできる限り手伝いますね」

 緩やかに巻いた髪を触りながら、にこっとほほ笑んだ。

 この混沌としたメンバーの中に一人舞い降りた天使に見えた。

 どうして今まで目に入らなかったんだろう。



「磯崎君、TikTokに載せる動画手伝って」

「TikTok? やってたの?」

「これから、始めるの。早く」

 カナが急にスマホを渡してくる。

 メイクはほとんどしていないけど、相変わらず顔だけは可愛かった。

「もうちょっと上。あ、動かさないで」

「はいはい」

「磯崎君、それが終わったら、私のSNSに上げる動画も手伝ってもらえるかな?」

「あぁ」

「ルカ、随分、磯崎君と仲良くしようとしてるね。急にどうしたの?」

「別にー。カナには関係ないでしょ」

「・・・・・・・・」

 なんだかピリピリしてる。

 性格と顔って比例しないんだな。ななほしⅥといて、アイドルの現実がだんだんわかってきた。

 マミは一人話の輪から外れて、鏡の前に座っている。

 唯一の味方かもしれないな。一人だけでも、まともな子がいるとありがたかった。




「はぁ・・・・・」

 メンバーは直前の音合わせに行って、一人で楽屋を掃除していた。

 嵐が去った跡みたいだった。

 着替えの衣装を、皺を伸ばして並べていく。

 ゲームのクリスマスイベントに合わせたものだ。かなり凝った衣装デザインになっていた。

 鬼塚さんお墨付きだし、あとで、ななほしⅥの公式ツイッターアカウントでも宣伝しておかないとな。


 時計に目を向ける。『VDPプロジェクト』も今頃リハしてるんだろうか。

 羨ましいな。見に行きたい。

 スマホを出して、あいみんのツイッターを開こうとしたときだった。

「失礼します。あの・・・磯崎君」

「ん? 何か忘れ物でもした?」

「ううん・・・・」

 ミクがツインテールをくるくるいじりながら近づいてくる。

 大人しくて、何考えてるかわからないんだよな。

 ツカサとは違った意味で、つかみどころのない子だった。

「えっと・・・・・」

「これ、クリスマスプレゼント。磯崎君に」

 可愛らしい袋に入ったものを渡してきた。甘い香りがする。


「え? 俺に?」

「そう、磯崎君に。美味しいお菓子、作ったの。家に帰ったら食べてみて」

 ふわっとした笑みを浮かべた。


「・・・・ありがとう、でも、どうして急に?」

「だって、磯崎君、私推しなんでしょ?」

「へ?」

 高速で俺が『VDPプロジェクト』以外を推すって言った記憶を思い出していた。

 絶対ない。俺の推しは・・・。

「だって言ってたじゃん。ななほしⅥのゲームで、私を選ぶって。私推しなんでしょ?」

「・・・・・」

 なんかそんなこと言った気がする。

 実際、俺は今、ミクルートで攻略しようとしているし。でも、推しなわけじゃない。

「ごめん。あれはゲームの中の話で・・・選ぶとか、そうゆう意味じゃなくて。もちろん、ミクのことは応援してるんだけど、ななほしⅥには特定の推しがいるわけじゃ」

「照れちゃってるの? 大丈夫、みんなには内緒にするから。好きになってもいいよ? 私が認めよう」

 ちょっとふんぞり返りながら言った。

 思ってたキャラと違う。


「いやいや、好きって・・・・・」

「いいのいいの。私、ファンをとっても大切にするから。マネージャーだからとか気にしなくていいよ」

 小悪魔っぽく笑う。てか、笑ったところ、初めて見た気がする。


「私を攻略するんでしょ? シークレットまでいくとすごいから、楽しみにしててね。シークレット解放出来たら教えて?」

「え・・・いや・・・」

「あー」

 ミクが時計を見て、はっとしていた。

「もう休憩終わっちゃう。じゃあ、みんなに心配かけるから、リハの続き行ってくるね」

「ま・・・・・」

 圧倒されているうちに、行ってしまった。

 ミクがこんな性格だったとは思わなかった。しばらく、呆然としていた。

 袋を開けると、クリスマスツリーやベルをモチーフにしたクッキーと、カップケーキが入っていた。

 手作りか・・・。俺のために? どちらにしろ、どうやったら穏便に誤解が解けるんだろう。


 スマホを出して、アイドルストーリーのゲームを起動する。

 ミクを選んでしまったけど、マミを選んでおけばよかった気がした。

 マミなら大人の対応を理解してくれる気がする。

 もう、仲良しゲージも溜まってきたし、みんなの前で言ってしまった手前、今更選び直しはできないけどさ。

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