154 『VDPプロジェクト』のオフ日
今日は1日オフだった。
幸い、ツカサからのメンヘラLINEも届いていない。仕事の連絡もない。
課題も終わらせていた。
こんなに自分の時間を満喫するのも久しぶりだな。
スマホにダウンロードしてしまった。アイドルストーリーのゲーム。
全然興味ないのにな。
プロローグにR18の要素はないし、鬼塚さんは俺が興味持つように適当な嘘でも付いたのかもしれない。
まぁ、仕事だから、やってみるけどさ。
『VDPプロジェクト』一色のスマホに、ななほしⅥが混ざるのは微妙だ。
ななほしⅥのメンバーはアニメのキャラクターだけど、どこか6人に似ていた。
画質もいいし、このキャラ見て6人を見たら、確かにアニメのキャラみたいに見えるだろうな。
性格は置いておいて。
面倒くさい。『VDPプロジェクト』だったら、1日中やってるんだろうけどさ。
「何見てるの?」
「わっ」
ソファーから飛び起きた。
「そんな驚かなくても・・・」
「ん? どうしたの?」
あいみんとりこたんが並んで、こちらを見下ろしている。
あいみんは赤いサンタ、りこたんは青のサンタのコスプレをしていた。
めちゃくちゃかわいくて固まった。
「いつのまに・・・」
「さっき来たの。今日はクリスマス前、特別配信の日よ」
「ファンのみんなに、いつも応援ありがとうって配信だよ。もしかして、忘れてた?」
あいみんが腕を組んで頬を膨らませていた。
「忘れてないって。でも、21時じゃなかった? まだ、18時じゃん」
「配信前に、私の家でパーティーしよってなったの。さとるくん、お腹空いてる?」
「・・・・そうだな。夕食用意してないし」
バン
ドアが開いた。
「みなさん、準備できましたー」
ゆいちゃがトナカイの角をつけて入ってきた。ショートパンツに黒いタイツを履いている。
予想外のコスプレに、少し視線を逸らす。
「のんのんが、りんごのパウンドケーキを焼いたら、完了だそうです」
「いい匂いがする。今日はね、私たちみんなでご飯を作ったの」
「え・・・」
「さとるくん、いこいこ」
「あ、あぁ・・・」
あいみんが服をちょんちょんとつまんできた。
スマホをポケットに入れて、あいみんの後についていく。
「おじゃまします・・・いい匂いだな」
部屋に入ると、テーブルに料理が並んでいた。
ピザにサラダ、ビーフシチュー、パウンドケーキ、ちょこっとした前菜も並んでいた。
「あ、さとるくん。このパウンドケーキ、見て。キャラメルとナッツを使った自信作なの」
オレンジのサンタコスを着たのんのんがパウンドケーキを見せてきた。
「美味しそうだな。つか、4人で作ったの?」
「そう。私はこの辺の前菜、りこたんがサラダ、のんのんがピザとお菓子、ゆいちゃが・・・・」
「ビーフシチュー作りました。美味しいのです。ぜひ食べてみてくださいね」
ゆいちゃがコップを並べながら得意げに言う。
腹が鳴った。
最近、ななほしⅥとばっか関わってたから精神的に疲弊してたけど、やっぱり『VDPプロジェクト』は神だな。
一瞬で頭の中のもやもやとか吹っ飛ぶ。
「お酒、かいきーん。ふわぁ、美味しい」
あいみんがレモンサワーを開けて飲んでいた。
「いただきまーす」
「ドレッシング作ってみたの。ちゃんとできてよかった」
りこたんがカクテルを注ぎながら言う。
「これ、マジで上手い。ハーブも効いてるし、レストランで食べてるみたいだな」
「でしょでしょ? へへ、私が作ったの」
サーモンとチーズを重ねた料理を食べていた。あいみんが作ったって言ったやつだ。
推しの手料理が食べれるなんて・・・感無量だな。
あいみんが照れながら、ビーフシチューをよそっていた。
「私たちも最近はクリスマスライブに向けて練習してて」
「そうそう。配信のとき、うとうとしちゃって大変だったわ。寝顔なんて絶対見られたくないし」
「のんのん、酔っぱらうと寝ちゃうじゃないですか」
「リラックスしてるだけよ」
のんのんが向かい側に座っていた。
ナツとのクリスマスデートについて聞いてみたい気持ちもあったけど、この場で話題に出すのは野暮だよな。プライベートなことだし、ナツの報告を待つか。
「みなさん、お酒の飲みすぎには気を付けてくださいね。これから配信があるんですから」
「はーい」
「そっか。さとるくんとゆいちゃは未成年だもんね」
俺とゆいちゃだけジュースを飲んでいた。
「俺は来年飲めるけどな。ゆいちゃはまだだな」
「意地悪いですね。すぐに追いつくんですから」
ゆいちゃが口をとがらせる。
「へへ、お酒飲めると、ふわっとして楽しいこといっぱいなんだよ」
「あいみ、お酒回るの早すぎ」
「だって最近飲まなかったんだもん。はぁ、恋しかったよー私のレモンサワー」
「そういえば、アイドルストーリーのゲームがリリースされたんだよね?」
「そうそう、さとるくんやってみた?」
あいみんがぺたんと座り直してこちらを見る。
「ま、まぁ、仕事で言われたから・・・」
「恋愛シミュレーションゲームかぁ。なんか、私もやってみようかな? 面白そうだもん」
「こう、空き時間でスマホでぽちぽちするのがほしいのよね。アイドルストーリーは音ゲーも入ってるみたいだし、私も入れようかしら? こうゆうのも勉強だし」
「・・・・・・・」
だよな。表向きは、R18指定になってないんだから、違和感はないよな。
いや、俺が騙されてる可能性もあるんだけど。
「で? で? さとるくんは、誰を選ぶのですか?」
「え?」
「とぼけないでください。恋愛シミュレーションってことは、ななほしⅥの誰かを選んで攻略するんですよね? そこんところ、どうなんですか?」
ゆいちゃが睨んでくる。
「仕事で入れなきゃいけなくてやってるんだから、別になんでもいいわ。誰を選択したって一緒よ」
「でも、気になるよね? さとるくん、ななほしⅥなら誰が好みなんだろう」
「そ、そうだよね。選ばなきゃいけないんだもんね。さとるくん・・・誰を選んだの? もしかして、かななん?」
余計なことを言いやがって・・・。
「ミクだよ。ミク。好みとかそうゆうので選んでないって」
スマホでゲームを起動して見せる。
「じゃあ、どうしてミクなのですか?」
「い、一番攻略が難しいって、聞いたからだよ。難しいのを攻略したいだろ?」
「ふうん」
「もしかして、ゲームをやってて、はまっちゃって、推しになっちゃうとかあるのかしら」
りこたんが頬を抑えながら言う。
「えぇっ!?」
「ないって。ゲームなんだから」
「そうよ。さとるくんが、そうなるわけないでしょ?」
「でも・・・・」
ゆいちゃがぐぐっと身を乗り出してきた。
「好きになっちゃだめですよ?」
「な・・・・・」
「絶対だめです」
「・・・・・・・・」
黒い瞳でじっと見てきた。一瞬、ドキっとした。
「さ、さ、さとるくんみたいに、免疫がない人って、2次元とかすぐ好きになっちゃうから心配してるのです」
「俺をどんな人間だと思ってるんだよ」
「Vtuberの同人ばっか集めてる・・・」
「わー、ゆいちゃー」
「あいみさん! いきなりどうしたんですか?」
急に、あいみんがゆいちゃに抱きついていた。
「なんだか、ふわふわしてー、いい気分。ゆいちゃ、なでなで」
「あいみん、もう酔っぱらったの?」
「お酒のペース早すぎますよ。なでなでは嬉しいですけど」
「そうよ。ほどほどにしないと、配信があるんだからね」
「はーい」
「ねぇ、さとるくん。このピザ生地から作ったの。美味しいでしょ?」
「あぁ。どおりでもちもちしてると思った」
「よかったー昨日から頑張ったかいがあったわ」
のんのんがお酒で少し顔を赤らめながら、にこっとした。
「ファンのみんなに、酔っぱらってるあいみん公開しちゃおうよ」
「へへへ、あいみんはー、酔ってもー、あいみんだよ。みんなで酔えば、怖くないよー」
あいみんがピースをしていた。
『VDPプロジェクト』は可愛い。こんなん、推すしかないだろ。
 




