153 新作ゲームがR18 ってマ?
「私たち、ななほしⅥです」
「今日はアイドルストーリーのゲームイベントを見てくださって、ありがとうございます!」
うぉおおおおおおお
ななほしⅥがイベントステージに現れると、ファンがステージに集まっていく。
画面の後ろに映し出されているアイドルストーリーの衣装と同じものを着ている。2次元好みの衣装だった。
できれば、『VDPプロジェクト』にも着てほしい。
「磯崎君、撮れてる?」
「はい。スマホなんで、撮影用のカメラみたいに上手く撮れないかもしれませんが」
「いいよいいよ。SNS用だから。こうゆうスマホで撮った映像のほうが味がある。配信用は別にあるしね。じゃ、俺裏側にいるから」
「わかりました」
鬼塚さんが足早に関係者通路のほうへ歩いて行った。
「わ・・・私たちのファンがこんなに・・・? 嘘みたい」
「私は信じてたよ。だってアイドルになるんだもん」
「私はどっちでもいいけど、でも、嬉しい」
「私の出番なの? じゃあ、はりきっていこー」
ななほしⅥが、次々にキャラのセリフを話していた。
さすが声優だけあって、切り替えが上手い。周囲からはおぉっと声が上がっている。
「ななほしⅥがいるの? マジかよ」
「中の人まで可愛いんだよな。歌もうまいし、そのままでもアイドルデビューできたよな。俺はツカサ推しだな」
「全員性格よさそうだしいいよな」
ななほしⅥへの声がちらほら聞こえてきた。
スマホに今の声が混ざったらSNSに上げられないから、別の角度でも撮るか。
本性知らなければ俺だって騙されてるかもしれない。アニメ補正入ってるんだろうけど。
楽屋に戻って撮った動画を見直す。
ななほしⅥの公式Twitter、TikTok、インスタグラムの担当になっていた。
帰ってから、少し修正して動画を上げるか。
今は、とりあえず、さっき入り口で撮ったアイドルストーリーのゲームのパネルとアップして・・・と。
「はぁ・・・疲れた」
「喉渇いた。飲み物は?」
「そこにペットボトルが置いてあるよ?」
戻ってきたメンバーに、並べて置いたペットボトルを指す。
「ありがとー。あ、お菓子もある」
「私、いちごみるくが飲みたいのに。もっとちゃんと気持ちがわかってくれる人がマネージャーだったらいいのになー」
リノがぐちぐち文句を言っていた。
無視だ。構うと文句が10倍になって返ってくる。
「ねぇ、磯崎君はアイドルストーリーのゲームインストールした?」
「リリースまだだろ?」
「今、リリースしたんだよ。インストールしてみて。すごいクオリティ高いから」
「そうそう、わっと驚くから。音もいいんだよ」
カナとツカサが興奮気味に寄ってくる。
「いいよ。試作品なら鬼塚さんに見せてもらったし」
容量的に、余計なゲームを入れたくなかった。
『VDPプロジェクト』の配信切り抜き集を入れたほうがいい。
「SNSの公式アカウントでも宣伝してほしいから、鬼塚さんにやってみてって言われると思うよ」
「う・・・・・」
カナの言う通りだ。
つか、試作品やったときにちらっと言われた。流したけど。
「・・・じゃあ、帰ったら入れとくよ」
「ねぇ、誰攻略にするの?」
「は?」
ツカサが聞いてくると、カナとリノが反応した。
「誰攻略って。キャラ見てないし、い・・・家に帰ってから選択するよ」
「今ここでやって。誰を選択するのかきになる、気になって夜も眠れない。言ってくれないなら、LINEスタンプたくさん送りつけるから」
「・・・・・・・」
また、ぶっ飛んだことを言ってくる。
無茶だろ。
リノなんて蛇みたいにこっちを睨んでるし。
何言っても、キモいって言われるのが目に見えてる。
「も、もちろん、テスト的にやるなら、私でしょ? 一番攻略しやすそうだし」
「カナは王道。やるなら、私のほうがいい」
ソファーに座っていたルカが入ってきた。
「ルカ、さっきから何なの?」
「別に、磯崎君はマネージャー補佐なんだから、仲良くしておきたいだけ。カナもそうなんじゃないの? そうじゃないってこと?」
スマホの画面をスクロールしていた。
ルカがしゃべると、なんか、脅されてる気がする。
「わ、私は別になんでもいいんだけど」
「マネージャーが自分のキャラ攻略するとか心底キモい」
「じゃあ、リノは無しでいいでしょ。私のキャラが一番可愛い可愛いだから、私でいいよね? ジェラーちゃん」
ツカサがカバンからジェラーちゃんを引っこ抜いて話しかける。
「うわ・・・ボロボロじゃん。そのぬいぐるみ」
「ひどい。リノがひどいこと言ってくる。ジェラーちゃんかわいそう」
「本当のこと言っただけじゃん」
「あーあ、もうやだ。ななほしⅥはリノがいるからヤダ。ジェラーちゃんと引きこもりたい」
「は? そうすれば? 私、全然困らな・・・」
「わかったわかったって。誰攻略か言っておけばいいんだろ?」
リノとツカサの間に入った。
ツンとしながら言い争いが終わった。
この2人だけの会話が始まると、ろくなことがない。
「誰にするか決まった?」
「そうだな・・・」
「・・・・・・・」
みんなじろじろこっちを見てくる。
ぶっちゃけ誰でもいいんだけど。恋愛シミュレーションゲームとか興味ないし。
カナを選ぶとルカに画像とかばらまかれそうだし、ルカを選べば同大のカナとやりにくくなる。ツカサを選べばリノが騒ぎそうだし、リノを選べばストレートにきもいと言われる。
八方ふさがりだ。むしろ、誰にすりゃいいんだよ。
ふと、端のほうで本を読んでいたミクが視界に入る。
「ミクにするよ」
「えっ・・・」
「俺あまり恋愛シミュレーションゲームとかやったことないから、選択しただけで終わりそうだけどね」
全員がミクのほうを見ると、ミクがちらっと顔を上げた。
「・・・・・・・・・・」
なんでこんなに驚いてるんだ? 自分たちから聞いてきたくせに。
カナが何か言おうとしたとき、ドアがかちゃっと開いた。
「みんな、お疲れ。最高のパフォーマンスだったよ」
鬼塚さんが入ってきた。助かった。
「ありがとうございます」
「カナとリノのハモり、よかったよ。他のゲームプロデューサーも驚いてたね」
「嬉しいです」
鬼塚さんの前ではぎゃーぎゃー騒がないし、こうゆうとき来てくれると神に見える。
「あ、さっき撮った動画、周囲の声入ってるんで帰ったら公式SNSに上げます」
「ありがとう。ななほしⅥのSNSは動いてないから、定期的に動かしてもらえるとありがたいよ。今の子はSNSで宣伝しないと広まらないからね」
ソファーに座る鬼塚さんに、お茶を出す。
ななほしⅥのメンバーから離れると、ほっとした。
「アイドルストーリーのゲームダウンロードした?」
「えっと・・・帰ったらやります」
「はははは、結構面白いから楽しんで。ちなみに一部R18指定なんだけど、磯崎君、19歳だよね」
「えっ・・・は・・・はい・・・・一応19歳です」
「じゃあ、大丈夫」
何が? どこが? R18ってどうゆうこと????
そんなの、試作品段階で聞いてなかったんだけど。
「あの・・・R18って・・・?」
「まぁ、シークレットモードだからね。全員が辿り着けるわけじゃないから、まだ公にはしてなくて、プレイした人からじわじわ広がっていくのを目的にしてるよ。あ、もちろん、ゲームもかなり面白いよ。歌も入るし」
「!?!?!?!?」
どうゆうこと? R18のせいで、全然頭が働かない。
「ここだけの話、シークレットモードは課金する必要ないから。僕はSNS苦手だから、しっかりゲームの宣伝頼んだよ」
「は・・・はい・・・・」
ななほしⅥのほうを見ると、みんなそれぞれスマホを眺めていた。
誰を攻略するとかばっかで、んなこと一言も聞いてないんだけど。
R18、って・・・・・。
 




