151 クリスマス付近の予定は?
舞花ちゃんがやってるさよさよチャンネルを見ると、アンチがコメント欄に湧いていた。
かなり荒れてる。擁護しても、擁護しても、湧き出てくる。
『さよさよチャンネル初めての方、ぜひコメント残していってください』
舞花ちゃんのキャラ、小夜は銀髪ショートの美少女だ。
声も可愛いし、しゃべり方はたどたどしいけど、そんな叩かれるようなことはしてないと思う。
というか、普通、ファンになるだろ。
「それはねー嫉妬だよ。うわー、荒れてんね。アンチ VS 擁護派だろ?」
「勝手に覗くなって」
「そりゃ、モニターに映ってたら見るだろ」
ナツが家に来ていた。
ポッキーを食べながら、さよさよチャンネルのコメント欄を目で追っている。
「こうゆう奴、どこにでもいるんだよね。小夜ちゃんだっけ? 彼女、大手事務所だから、いきなり曲もらったり、キャラ描いてもらったり、今まで全部自分でやってたVtuberは面白くないんだよ」
「そうゆうもんか・・・」
「アイドルは無理だけど、Vtuberで有名になりたいって子はいっぱいいるからね。こうやって、新人の段階から芽を潰そうとする変な奴らもいるんだ」
頬杖をついて、小夜を眺める。
小夜はコメントを読みながら、ちょっとずつ動きがぎこちなくなっていた。
「・・・舞花ちゃん傷ついてないといいんだけど」
「ふうん、舞花ちゃんっていうんだ」
「あぁ、妹の友達なんだよね。一生懸命で、今回やっとVtuberオーディション受かったんだ」
「・・・・・・・」
ナツがモニターをまじまじと見てくる。プロの目だ。
なんか、こっちまで緊張してくるな。
「ま、この程度で傷つくなら向いてないよ。良くも悪くも、インターネット配信って言い放題の無法地帯だから」
「厳しいな」
「そうゆうもんだよ。あ、でも擁護派だっているじゃん。同時接続2000人ちかくだけど、擁護派をうまく味方につければ伸びると思うよ」
「・・・・・・・・・」
舞花ちゃんは幼い頃からの琴美の友達だ。
再生回数伸びないのもかなり落ち込んでたし、傷ついてる姿なんて見たくない。
「で、この子も、さとるくんのこと好きなんだっけ?」
「え? どっから出てくるんだよ。その情報」
「勘だよ。俺の勘って当たるんだよね」
「外れだな。琴美の友達なんだからそうゆうふうになるわけないだろ」
確かに当たってる。
そういや、舞花ちゃんの告白、保留にしたままだったな。
このまま忘れて、別に好きな人とか作ってもらえたらいいんだけど。
舞花ちゃんには、これからたくさんの出会いがあると思うしさ。
モニターの電源を切ってスマホを眺める。
「さとるくん、クリスマスはなんか予定入れた?」
「『VDPプロジェクト』のライブ行くつもりだけど、ななほしⅥのライブが前日にあるから何もないことを祈るしかない」
「理系大学生だろ? よく、そんな時間に余裕あるね」
「いや、マジでぎりぎりを生きてるよ。栄養ドリンクに生かされてる・・・」
「マジか・・・生き急いでるハルみたいだな・・・」
Monsterの缶を叩いた。
「でも、ナツだってクリスマスはファンイベと被ってるんだろ?」
「俺は23日にのんのんと2人でツリー見に行く約束したんだ」
「マジで!?!?」
どおりで、ナツが余裕な雰囲気出してるはずだ。
いつもだったら、のんのん配信のアレが可愛かっただの、これが可愛かっただの騒ぐくせに。
「23日って、のんのんもライブ前日だろ? よくOKもらえたな」
「リハ終わった後、原宿をほんのちょっとだけ散歩しようって誘ったんだ。のんのんってSNS映えするところ好きだからさ。もちろんすぐ解散するつもりだよ」
「ナツの行動力が羨ましいよ」
「まぁね。クリスマスはさすがに俺たちも忙しいけど、のんのんのためなら頑張れるよ」
なんか取り残された気分だ。
こっちは、文化祭が終わった後も、課題課題課題課題課題、レポート、バイト、課題、バイトバイトバイトが続いてる。明日からも、課題課題レポート課題課題レポートだ。
かろうじて、推しの配信とグッズで生きてるっていうのに。
「原宿に男女で見ると結ばれるって噂のクリスマスツリーがあるんだよ」
「へぇ・・・なんか女子好きそうだな」
「クリスマスは避けたし、23日だったら誘いやすかったんだよね」
にやにやしながら話していた。
イケメンって非モテキャラ演じてても、一瞬でリア充に変わるんだよな。
「お前のノロケ話とか聞きたくないんだけど」
「まぁまぁ、さとるくんだって誘えばいいじゃん」
「誘える人なんていねーし」
女子とクリスマスツリーなんて見たことがない。通過したことすらない。
琴美だって、クリスマスの間は離れて歩いてたし。
つか、いつもだけど。
「あいみんがいるじゃん。23日なら空いてるし、クリスマスツリーとか好きそうだし、誘えばOKもらえると思うよ」
「推しを誘うとか無謀すぎるだろ」
カフェオレに口をつける。
言いながら、バイトのスケジュール管理の効率化を考えていた。
いちいちスマホにメモするより、ツール作ったほうが早そうだよな。
ななほしⅥの行動も、大体掴めてきたし。時間短縮できれば、その分推しの配信に時間を使える。
「じゃあ、ゆいちゃは?」
「ど、どうしてゆいちゃなんだよ?」
「なんとなく・・・・・・」
「誘うわけないだろ。ゆいちゃだって・・・一緒に過ごしたい人とかいるかもしれないし・・・俺はそんなことより、課題があるしな」
「ふうん・・・・・」
そういや、ゆいちゃってクリスマス過ごしたい人とかいるんだろうか。
別に俺には関係ないけど。
「いいけどね。さとるくん、かななんと同棲してる疑惑出てるんだろ?」
ナツがソファーにどんと座りながら聞いてきた。
「お前まで・・・・」
「噂って広まるから気を付けたほういいよ」
「誰から聞いたんだよ」
「あのツイッターに上がってた画像のモザイク部分をハルに直してもらったんだ。びっくりしたよ。まさかとは思ったけど、さとるくんが写っててさ」
ハルって何者なんだよ。
教育系Youtuberやるより、技術者として世に出たほうがいいだろ。
「さとるくんの様子見る限り、俺は嘘だと思ってるけど」
「嘘に決まってるだろ。文化祭で買い出ししてるとき、撮られたんだよ」
「ん? バイト中じゃなくて、文化祭で一緒だったの?」
「あぁ、カナは大学に友達いないから、たまたまサークルで一緒だった俺と行動するしかなかったんだ。俺も被害者だ」
「へぇ・・・あの、かななんがねぇ・・・」
ナツが足を組みなおしていた。
「はぁ・・・こっちは、バイトと課題に追われてんのに、ナツはちゃっかり目当ての子とデートするなんて」
「まぁね、まぁね」
ナツはのんのんの話題になると、ころっと態度を変える。
「ハルたちにも言ったの?」
「もちろん。23日の夜は絶対絶対予定入っても行けないからって。もちろん、XOXOのイベント真っ只中だから、どうにか時間作って抜けるつもり」
「大変だな」
「のんのんと過ごすためなら。俺だって今は配信でしかのんのんを見れない状態だからな。忙しい中、かすみのような供給食って生きてるんだよ」
言われてみれば、ナツも少しやせた気がする。
「フユにはクリスマスデートならホテル行ったら? って言われたけど」
「は? ほ・・・ほ、ホテルって」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
ナツが固まっていた。俺も固まった。
童貞にホテルはハードル高いし、いや、まさか、こいつ、卒業するのか?
クリスマス近くのデートって、そうゆうことする人が多いっていうし。
「ま、まぁ、クリスマス楽しみにしてるってことで」
「そうだな。がんばれ」
「え、え、えっと、原宿ってみらーじゅ都市にあったかなー? みらーじゅ都市の地図、地図・・・と。あれ? 俺今、さとるくんがいるってことは、みらーじゅ都市じゃないのか」
スマホを動かして、わけわからないことを呟いている。
やっぱりナツに卒業は無理そうだな。少しほっとしていた。
 




