149 スーパーへ
「あーかななんのライブすごかったなー。私、かななんのことあまり知らなかったけどはまっちゃいそうだもん」
「すごいよね。私もあんな風になれたらいいのに」
「舞花ならなれるって。可愛いだけじゃなくて、努力家だもん」
「ありがと・・・・」
琴美が舞花ちゃんの肩をぽんと叩く。
「それにしても、びっくりしたよ。かななんってやっぱり恋人いたみたいだね。あんなに可愛いもんね」
「ね。あれ? 琴美、何聞いてるの?」
「XOXOのハルとアキのゲーム配信だよ。一緒に見る?」
「うん。本当に好きだね」
「推しだもん。舞花も、この沼にはまったらいいのに」
「あはは、琴美がそんなに言うなら聞いてみようかな」
「・・・・・・・・」
琴美と舞花ちゃんがベッドでぐだぐだしていた。自分の家のように、すっかりくつろいでいる。
居づらいな。早く帰ってくれないかな。
琴美は受験勉強いいのかよ。普通、今の時期、受験生なんて血眼で勉強してるからな。
まぁ、第1志望が俺と同じ大学なら、ぶっちゃけると、第1志望に受かってほしくはない。第2志望に行ってほしい。
「はぁ・・・・」
息をつく。カナのことは、少し冷静にならないとな。
今はかななんでエゴサすると、あの写真が出てきて、憶測が飛んでいるけど、所詮素人の投稿だ。別に記事に取り上げられたわけじゃないし、俺があたふたする必要はない。
「でも、かななんの彼氏ってなんか意外と地味そうだね」
「!?」
お茶吹きそうになった。
「そう?」
「だって、モザイクかかってたけど、あの服って5年前の服をアウトレットで買ったような感じじゃなかった?」
「ごほっ、ごほっ・・・・」
ドストレート突いてきた。胸を叩く。
「でも、かななんの前歩いたり、紳士的な人なんじゃない? 中身がとってもいい人なんだよ」
「確かに雰囲気はイケメンだったかも。かななん補正入ってるかもしれないけど・・・モザイクとればいいのに」
「ははは、一般人って書いてたじゃん」
「一般人かぁ。かななんって初めて会ったけど、完璧アイドルって感じだったから、こう・・・2次元の存在みたいだったけど、意外と普通なんだって親近感沸くね」
琴美が寝転がってアイパッドを見ながら言う。
「うん。きっとアイドルと付き合うって大変なんだろうね」
「意外とかななんの彼氏って庶民的だからバレないのかもしれないよ」
そのボロクソに言ってんの、お前の兄だからな。
庶民的って、モザイクかかった画像でどうしてわかるんだよ。
妹の琴美まで気づかないとは・・・。まぁ、こいつの場合、俺の服装なんて気に留めてないからだろうけど。
「あ、お兄ちゃん、どこ行くの?」
「スーパー行ってくるんだよ。今の時間だと、安くなってるからな」
「アイス買ってきて。チョコレートのやつ。舞花もチョコレートでいいよね?」
「うん。でも、いいんですか?」
舞花ちゃんが、ぺたんと座り直していた。
「いいよ。チョコレートのアイス2つね」
「ありがとうございます」
パーカーを羽織って、外に出た。
意外と寒いな。明日には2人とも帰ってくれる。早くあいみんの配信動画を大音量でリピートしながら聞きたい。
バタン
「あ・・・・」
「え・・・・・」
あいみんの家からラフな格好のゆいちゃが出てきた。
もこもこのパーカーにスウェットを履いている。
「なんでゆいちゃが・・・?」
「あいみさんの家で、料理してみようと思ったのです。みんな配信終わりにこっちに来るって言ってたので、ちょこっとつまめるものをって」
階段をゆっくり降りていく。
「どうしてわざわざこっちで? みらーじゅ都市のほうが楽だろ?」
「私もこっちの世界に馴染みたいなって思ったんです・・・」
「ん?」
「みんなも同じ気持ちです。ファンの顔を見れるって嬉しいことで、ファンの人たちがこっちの世界でどんな暮らしをしてるんだろうってなって、たまにこっちで生活してみようってなったんです」
「へぇ」
「配信の話題も増やしたいですし。私にとっては、スーパーに行くとか緊張するのですが・・・」
ゆいちゃが、ぺたぺた歩きながら言う。
『VDPプロジェクト』って本当に純粋にファンと向き合ってくれるんだよな。
「ゆいちゃ、料理できんの?」
「失礼ですね! 私もたくさん料理系Youtuberとか見てるので作れます」
「・・・・・・」
ちょっと膨れながら言っていた。
見てるだけで作れるなら、苦労しないんだけどな。
なんか、勉強ばかり見ているからか、すごく不器用な感じがする。
「さとるくんも、スーパーですか?」
「まぁ、この時間はいろいろ安くなってるからな」
スマホで時計を確認しながら言う。20時以降に行くと、惣菜やパン、デザート類、肉魚が半額になっていることが多い。
21時に行けば、売り切れてしまうんだよな。一人暮らしにとって、安売りしてる時間は譲れない。
「じゃあ・・・一緒に行きます・・・」
「お、おう」
髪をいじりながら俯いていた。とぼとぼくっついてくる。
不機嫌ではないけど、元気がない気がする。
「えっと・・・この前かななんとのことなんだけどさ」
「いいです。無理に話さなくても!」
「いや、違うんだって」
「さとるくんがかななんといちゃついて、医務室まで連れて行ったなんて思ってないですから!」
思ってるんだろうが・・・。
「本当に誤解だ」
「え?」
ちらっとこちらを見上げる。電灯がチカチカしていた。
「あまり言わないでほしいんだけど、かななんライブ終わってから倒れたんだよ」
「倒れたって・・・・」
「貧血だ。前にもこうゆうことあってさ、倒れそうだったから駆けつけて運んだんだよ。文化祭の模擬手伝ったり、急遽ライブの準備をしたり、疲れてたんだろ。無理してばっかだったからな」
「・・・・・・・・」
頭を掻く。
「だから、別に何でもないんだよ。前回を知ってたから、たまたま俺が早く気づいただけだ」
「そうなんですか。え・・・と・・・・」
ゆいちゃが何回か瞬きしてから正面を向いた。
「・・・じゃあ、無罪ですね。早とちりしてしまってすみません」
「やけに素直に信じるな・・・」
拍子抜けしていた。
もっと色々聞いてきたり、あり得ない妄想ぶつけてくると思ったのに。
そこまで俺に興味ないってことか。別にいいけどさ。
「さとるくんの言ったことは、基本的に信じます」
「あ、そ」
にこっと笑いかけてきた。
可愛いというか・・・まぁ、馬鹿なだけかもしれない。
「ん? 基本的ってどうゆうことだよ?」
「あーっ、材料書いた紙忘れてきちゃいました。スマホも置いてきてしまいましたさとるくん、何作ればいいと思います?」
財布だけ持って出てきた感じだ。スマホ忘れるとか重症だろ。
「知らねーよ。そもそも何作ろうとしてたんだ?」
「簡単おやつレシピのサイトの一番上にあったやつです。スマホがないと不便です」
「・・わかったよ。探してやるから」
スマホを出して検索する。
「・・・ちゃんと勉強してんの?」
「もちろんです。毎日1時間、机に座って勉強してますよ。今日は英語と国語の日でした」
自慢げに話していた。1時間か。赤点回避できるか心配だけど。
「寒くなってきました。早くいきましょ」
「そんな薄着で来るからだ」
「みらーじゅ都市はこんなに寒くないんですよ。ちょっと肌寒いかなってくらいなのでこの服でも十分なのです」
急に元気になった気がする。気のせいか?
ゆいちゃと2人で話すのは久しぶりだからな。
ずっと、バイトで忙しかったし。
「さとるくん、違いますよ。簡単、美味しい、おやつ、チョコレートで検索してください」
「はいはい」
息が少し白くなっていた。相変わらず世話が焼けると思いながら、ゆいちゃの言う検索ワードを打っていく。




