140 波乱の文化祭①
「はーい、たこ焼き一つですね。ありがとうございます」
「あれ? 声とか話し方とか、声優みたいだね。もしかして、何かのアニメとか出てたりする?」
「あはは、冗談上手いですね。普通の大学生ですよ」
カナがするりとかわしていた。たこ焼きをひっくり返しながら、鋭い質問にびくびくしていた。
なんで俺が・・・。マネージャー補佐やってるからだけどな。
『もちもちサークル』のたこ焼き屋は大盛況だった。
サークル自体がYoutubeで有名なのもあるが、外はカリっと中はふわっとしたたこ焼きに、リピーターもちらほらいた。
「はい、8個入りになります。アツアツなので気を付けてくださいね」
「ありがとう」
カナがお客さんを見送って、こちらを見る。
「磯崎君、ひと段落ついたよ。忙しかったね」
「あぁ、一日目からこんだけ売れると、2日間も持つのか微妙だな」
「どう?」
がんじんさんと平澤さんが戻ってきた。
「売れてる? 大丈夫?」
「大盛況過ぎて大変です」
カナが笑顔で答える。
「よかったよかった。2人とも休憩入ってええよ。俺たち入るし、他のメンバーも助っ人で呼んだから。はい、これ。ミニケバブなんやって、2人の分も買ってきたから」
「ありがとうございます」
「あ、ありがとうございます」
カナと同時に言うと、平澤さんが袋を降ろした。
「大盛況か。俺の作るたこ焼きは本場の味なんや」
「リピーターもいるんですよ」
「でも、予定よりずっと早いペースで売れていて、材料が尽きるかもしれません」
「マジで?」
がんじんさんと平澤さんが何個売れたか書いたメモを眺める。
「うわっ、ほんまや。まだ14時なのにこんなん?」
「昼時と重なったのもありますが、10分に1個のペースですね」
「すみません、たこ焼き2つください」
「はーい。少々お待ちくださいね」
カナがすぐにお客さん対応をしていた。
2週に1回握手会やってるだけあって、接客が上手いんだよな。
「うーん・・・今日、夜までもたなきゃ、早めに閉める。でもなぁ、せっかく来てくれるのに売れきれました、じゃなんかかっこつかんわ」
「明日の分の生地持ってくるしかないって」
がんじんさんがミニ冷蔵庫の中を確認していた。
「俺、材料買ってきますよ。生地作っておいたほうがいいですよね?」
「せやな。って、もう、並んでるし」
「やばい。作らないと。かななん、ちょっと待ってて」
「はい、あと2つ早めにお願いします」
がんじんさんが腕まくりして、たこ焼き器の前に立った。
「俺、代わるよ」
「ありがとうございます。お客さん、たこ焼き1つでええ?」
「あっ、『もちもちサークル』に出てる、平澤さん?」
「ん、もしかしてリスナーの方?」
「はい、写真ツイッターに載せていいですか?」
平澤さんがカナの位置に立って、自然と接客していた。
「本当に大盛況だな。もう3組か・・・」
「列が全然、途切れないんですよ。俺、部室で具材切ってきますね」
「頼むわ」
「あ、私もいってきます」
「!!」
がんじんさんと交代したカナが近づいてくる。
・・・・マジかよ。カナから逃げたくて、買い物行こうとしてるのに。
「全然文化祭周れそうになくてごめん。明日は何とかする。よろしくな」
「はーい」
カナがケバブの入った袋を持って、付いてきた。
「美味しいね。ケバブ」
「あぁ、てか俺一人でよかったのに。ステージとかも見たいんだろ?」
「こうゆうアクシデントも文化祭の楽しみの一つじゃない?」
「・・・・・・・」
カナが食べ終わってマスクを直していた。
文化祭は賑やかだった。他大の人や高校生が多いのかと思ってたけど、意外とOBやOGも遊びに来ているみたいだな。
見たことのないようなサークルも出店しているし、THE 大学生の祭りって感じだった。
「何買うの?」
「薄力粉はあるんだけど、卵が無いんだよ。あと、キャベツも念のため買っておくか。スーパーはその辺の・・」
「わ、クレープもある。チーズクリーム味・・・」
「行ってきていいよ。俺やっとくから」
「いいの。明日、行くから」
カナがきょろきょろして、立ち止まったりしていた。
全身から文化祭楽しみたいオーラが出ている。
荷物があるわけでもないし、マジで俺一人でいいんだけどな。
「あ! 磯崎君」
校門の前で結城さんが声をかけてきた。
「誰誰?」
「趣味仲間なんだー」
他大の友達2人と来ていた。結城さんと似たような服装をしている。
「こんにちは」
「どうも・・・」
軽く頭を下げた。
「高校の時の友達と来たんだ。磯崎君はかななんと一緒に、どこか行くの?」
「あぁ、模擬店のたこ焼き屋が大盛況で生地が足りなくなってきたんだよ。これからスーパーに買い出しに行って、生地だけでも作っておかないと」
「私もその手伝いなの」
カナが楽しそうに言う。
「そんなに人気なの? 私も食べに行こうかな?」
「あれ? もしかして、かななんってあの?」
「しーっ」
友達の1人がカナのほうを見て驚いていた。カナが口元に指を当てる。
「サークルの模擬店やってるの。よかったら、寄って行って」
「はいっ、いってきます。わぁ、本物だ、可愛い・・・」
「ありがとー。嬉しい」
営業が上手いよな。
「すごい、インスタよく見てます。過去のとか、北海道ロケの写真とかコメントしました」
「あはは、インスタ全然更新してないのに」
2人ともカナのことを知ってるようだった。
って、当たり前か。あれだけ、ネットで取り上げられてたらな。
この前も、声優アイドルとしてニュースで特集組まれてたし。
「磯崎君、あいみんたち夕方に来るって言ってたよ」
「えっ・・・」
結城さんがそっと耳打ちしてきた。
「推し変疑われないようにね。あいみん、ショック受けちゃうよ」
「結城さんまで・・・・」
「・・・・・・・」
じーっとこちらを見てから、離れる。
「じゃあ、模擬店頑張ってね。2人とも、ステージ始まっちゃうから行こうよ」
「あ、うん。かななん、応援してるんで」
「頑張ってください」
「ありがと、楽しんでいってね」
結城さんが、まだ、カナと話したそうにする2人を引っ張っていった。
なんかそっけない気がする。
まぁ、高校の時の友達の前なんだから、推し応援しているときのテンションと違うのは当然か。
「ねぇ、磯崎君、何話してたの?」
結城さんがいなくなると、すぐにカナが聞いてきた。
カナには『VDPプロジェクト』を推してることは話しているけど、『VDPプロジェクト』と交流があることは話していない。
会わないことを祈るしかない。
こんなたくさんの人がいるし、会う可能性のほうが低いけどな。
「別に、それより早く買い出し行かないと、見回る時間無くなるぞ」
「あ、そうだね。夜のステージまでは間に合うかな?」
カナがはっとして、スマホの時計を眺めていた。
「そういや、ななほしⅥって、今日も明日もオフだろ?」
「うん」
「メンバーがここに来ることはないの?」
「ナイナイ。みんなのプライベートになんて興味ないよ」
軽く手を振った。
「・・・・あ・・・そ・・・」
「あ、みんなにいい顔してって思ってる? 世渡り上手なだけ。アイドルは世渡りが上手くなきゃなれないんだから。でも、ツカサとか馬鹿だけどなれてるのか・・・」
「・・・・・・」
女って怖いって思う。
ファンの間では仲のいいアイドルグループ、ななほしⅥで通ってるのに・・・。
「今から行って、買い物して、みじん切りして生地作って、冷蔵庫に寝かせて・・・2時間半から3時間くらいはかかるかな。急がないと」
カナは卒業後のアイドルたちのために、自分が勉強してるって言ってたけど、メンバーに対してはかなりドライだ。
俺が見る限り、カナが浮いてるんじゃなくて、各々が好き放題やってるって感じだな。ななほしⅥのほうが『VDPプロジェクト』より、パフォーマンスも、トーク力も、声優としても優れているけど、性格の良さで言うと断然『VDPプロジェクト』なんだよな。
推しに会いたいけど、文化祭では絶対に会いたくない。
 




