表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の推しは裏切らない!  作者: ゆき
137/183

136 ジェラーちゃん捜索後

「ジェラーちゃんっていうディ〇ニーのキャラクターなんですけど・・・」

「いや、届いてないねぇ・・・」

 駅員が隣の駅に連絡してくれたけど、見つかっていないらしい。

 1時間くらい粘っていた。


「どうにか見つける方法はありませんか? すごく、大事なものなんです。多分、駅か電車で落としたと思うんですけど」

「うーん・・・定期とか財布じゃなければ見つかりやすいんだけどね」

 無理なこと言っているのは重々承知だ。

 でも、ツカサのあの病みっぷりを見ると、何としてでも見つけなきゃいけないような気がする。


「じゃあ、ここに名前と電話番号書いてもらえる? 見つかったら連絡行くようにするから・・・」

「・・・・はい」

「あの・・・・・・」

 若い男の人がキーホルダーを出していた。


「これ、ホームのベンチで拾ったんです」

「あっ、それ・・・!!」

 Tが目印の手作りシャツを着ている、ジェラーちゃんのぬいぐるみだった。

 確かにディ〇ニーのジェラーちゃんだ。

「それです、それ!」

「え・・・・」

 駅員と男の人が同時にこちらを見る。


「あ、探してたんですか? この服、手作りですよね? きっと、大事なものなんじゃないかと思って」

「ありがとうございます。本当に本当に・・・」

「いえいえ、俺はただ拾っただけなので」

 すげー好青年。神だ。神に見えた。

 笑顔で会釈をすると、人混みの中に消えていった。

 あの人にいいことがありますように。


「よかったねぇ、見つかって」

「はい。ありがとうございました」

 駅員がにこにこしながら渡してきた。

 多分、俺がジェラーちゃんガチ勢だって勘違いされているけど、仕方ない。

 周囲の変な視線とかも気にしない。


 とりあえずジェラーちゃん見つかったことを、ツカサにLINEで・・・と。


「・・・・・・」

 戦慄する。スマホを持つ手が震えた。

 50件くらい、ツカサから着信があった。ホラーみたいだ。

『休憩中なんだけど、ジェラーちゃん見つかった?』

『見つかったよね?』

『見つかってないの?』

『どうして返信くれないの?』

 って文字がところどころ入ってる。マジで怖い。

 10分の間に50件って、変に連絡するのは止めよう。収録入ってるかもしれないし。

 



「失礼します。ツカサさん、ライン返さずに・・・・」 

「わぁあああ、ジェラーちゃん!!」

「っと・・・」

 楽屋に入るなり、ツカサが駆け寄ってきた。


「ジェラーちゃんだぁぁぁ、よかったぁー」

「磯崎君、お疲れ。ツカサちゃんよかったね」

 鬼塚さんがほっと汗を拭いていた。


「嬉しいです。ジェラーちゃん、もうどこかに行ったりしたらダメだからね」

「・・・・・・・・」

 ジェラーちゃんを受け取って、服を直しながら話しかけていた。

 傍から見たらマジでやばい子だけど・・・。

 中学生の頃から芸能界入りしていたらしいし、ぬいぐるみで癒されてるなら何も言えないよな。


 リノが俺を見て、重たいため息をついて、スマホをいじっている。


「磯崎君、ありがとう。グッジョブだよ」

「はぁ・・・」

 鬼塚さんに入館証を返す。

 なんか、マネージャー補佐がどんどん辞めていく理由がわかる気がする。


「ありがとう。磯崎君、これからもよろしくね。私はマネージャー補佐が磯崎君でよかったよぉ」

「お、おう・・・」

 ツカサが満面の笑みをこちらに向けてきた。


「鬼塚さん、この後スタジオに向かいますか?」

「いや、収録かなり伸びちゃったからな。もう22時だし・・・今日はこれで解散しよう。メイちゃんたちには、連絡しておくよ」

 鬼塚さんが電話して離れていくと、カナが近づいてきた。


「ねぇ、磯崎君、帰り山手線でしょ。途中まで一緒に帰ろうよ」

「いい・・・けど」

 正直、推しの動画を眺めて癒されたい。

 一刻も早く推しを補給して、帰りたいんだけどな。

 推し見ながら帰りたいんで別々で、とか言って、後で角が立つのも嫌だし。

 

「えーダメダメ、ダメに決まってるじゃん。かななんが電車で帰るなら私も電車で帰る」

 リノが急に声を上げた。

「リノは遠いんだから、鬼塚さんに送ってもらわなきゃ。女子高生が夜道を歩くなんて危ないでしょ?」

「うぅ・・・・それはそうなんだけど・・・」

「はいはーい。じゃあ、私もー。近いから、山手線で帰るー」

 ツカサが両手を上げて話に入ってきた。

「ツカサも同じ。ついこの前乗り換え間違って、違う駅に着いてパニックになったことがあったでしょ? ちゃんと、鬼塚さんに家まで送ってもらって」

「あっ、そうでした。結構大変なことになったんでした」

 ツカサが舌をぺろっと出して笑っていた。

 

 鬼塚さんが電話を切ってこちらを見る。

「3人とも、もう帰らせることにした。事務所の人間がちょうど近くにいたから、送ってもらうように伝えておいたから大丈夫だ」

「お疲れ様です」

「いや、初日からバタついてごめんね」

 俺がバタついたのは、ツカサのジェラーちゃんのせいなんだけど。


「鬼塚さん、私、電車で帰りますね。この時間だと、電車のほうが早いですし」

「そうか? 助かるよ。リノちゃんが家に着くの遅くなっちゃうから」

「私は別にいいのに・・・」

 リノが面白くなさそうに呟く。


 カナがバッグに化粧ポーチや鏡を入れていた。

 マスクをして、キャップを深く被っている。


「磯崎君は電車で大丈夫かな?」

「全然、大丈夫です。俺は、どうとでも帰れるので」

「よかった。交通費はこの前送った勤務管理表に入れておいて」

「はい。では、お疲れ様です」

「お疲れ様ー。今日はありがとー」

 鬼塚さんとツカサは挨拶してくれたけど、リノは無視だ。

 まぁ、妹の反抗期に完全無視されていた俺には、屁でもないけどな。




「考えてみれば、アイドルが男と一緒に電車乗ってよかったの? 今、SNSとかあるし」

 山手線に乗った後、ふと周囲の目が気になった。

「大丈夫大丈夫、私共演者と一緒に電車乗ることあるけど、全然気づかれたことないよ。この時間だと、みんな疲れてるし」

「まぁ、そうか」

 山手線は、疲れ切っているサラリーマンばかりだった。

 誰も周囲を気にしている人なんていない。


「どう? 仕事初日は」

 吊革に掴まりながら、カナが聞いてきた。

 この子が、一番まともなのかもしれない。

「大変だな。メイさんたちもこんな感じなの?」

「ははは、大分個性的だよ。歌やダンス、演技に全振りした感じ」

「そうなんだ・・・・」

 ツカサ以上に個性的な子はなかなかいないと思うけどな。

「まぁ、よく個性的な女子6人が、同じグループで仲良くできるな」


「えっ、全然仲良くないよ?」

「え・・・・・」

「ないない。メイとリノなんて犬猿の仲だし」

 車窓に映ったカナが驚いたような表情をしていた。


「プライベートなんて全然会ったことないし、特に集まる必要もないし」

 吊革から手をずり落としそうになった。


「仕事だって割り切ってるから、上辺だけの付き合いなんだ。リノは懐いてくれてるけど、私はツカサとか絶対友達になれないし」

「だ・・・だって、みんなのために勉強して、アイドルのセカンドライフを・・・って」

「同情だよ。友達としてじゃなく、ななほしⅥってやっぱりバカだったんじゃんとか言われたくないプライドもあるんだよね。だって、ツカサとか、あのままアイドル以外の職業できないでしょ? まぁ、他のメンバーも似たようなものだけど」

「・・・・・・・」

 衝撃の言葉だった。


 あんなに仲良く手を組んだりして踊ったり、仲良さそうに笑顔で受け答えしてるのに。

 全部演技だったってことか? いや、そんなわけないだろう。


「ショックだった?」

「ま・・・まぁ、驚いたっつーか」

「アイドルってそんなもんだよー。本当は大学で友達作りたいんだけどな」

 カナが当然のことのように笑っていた。

 このくらい図太くなきゃ芸能界生き残れないんだろうけど、背筋がぞくっとした。

 

 女って怖いな。

 早く一人になって、あいみんかユリちゃんの動画を見たい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ