135 ツカサはメンヘラ女子高生?
テレビ局に入って、楽屋に向かう。緊張するな。
入学式で着たスーツを、まさかバイトで着ることになるとは。
「ふわぁあ、ねむ」
「大丈夫? 栄養ドリンク買ってこようか?」
「いいよ。ありがとう」
カナが女神みたいに見えるな。
スマホで鬼塚さんからのメールを確認する。楽屋は・・・7階か。
「おはようございます」
カナがすれ違う人に挨拶をしてた。慌てて俺も頭を下げる。
「Rスタジオだから、楽屋はこっちで合ってる?」
「あぁ、みんな来れるのか?」
「うーん」
はっきりしない返事だった。ななほしⅥ様と書かれた楽屋のドアを開ける。
「かななん、お疲れ。げっ、そいついんの?」
「・・・出ないな。お疲れ」
鬼塚さんがスマホを切って、こちらを見る。
「あれ? ツカサは?」
「まだ、連絡取れてないんだよ。まずいな、早くしないと。あ、ツカサちゃん? え、今どこ? 電車降りたとこ? 場所わからない?」
カナが椅子に座ってチョコレートを食べていた。
「りーのん、メイクポーチ変えたの?」
「うん。前のがボロボロになっちゃったから、気に入ってたんだけどね。中は変わってないよ」
「わかった。じゃあ、とりあえず、そこにいて。今、迎えを向かわせるから。あ、動かないで。動かないでいいからね」
カナとリノが話している中、鬼塚さんは血相変えて、通話を切っていた。
「磯崎君、ツカサちゃんを迎えに行ってくれる? 駅の改札の前で、黒い帽子を被ってるから」
「は・・・はい」
「これ、ツカサちゃんのラインID、登録しておいて。2人は20分後に、共演者へのあいさつ回りに行くから用意してて」
「了解です」
「ツカサ、また遅刻? 高校も芸能活動に融通利く高校なのに・・・」
「どうせ、電車で寝過ごしたんでしょ。いつものパターン」
カナがため息交じりに言う。
いつものって・・・マジかよ。
ツカサって、カナと綺麗な高い声でハモっていた子だよな。
イメージカラーは紫で、動画で見る限りしっかりしてそうな子だったけど。
「ツカサちゃん、迎えが遅いと自分で勝手にどこかに行っちゃうから、早く連れてきて。よろしくね。なんかあったら、出れないかもしれないけど電話して」
「・・・はい」
勝手にどこかに行くって、小学生じゃないんだから・・・んなことないと思うんだけどな。
楽屋を飛び出して、元来た道を戻る。
正直、ツカサを一発で見つけられる自信なかった。
「ツカサさん・・・ですか?」
「あ・・・はい」
一発で分かった。
多分、俺、迷子を見つける才能があるんだろうな。
制服に黒い帽子を被って、ぬいぐるみのたくさんついたピンクのリュックを持ってうろうろしていた。目立つんだけど、幸い改札から出てくるのはサラリーマンばかりで、誰もツカサのことを見ていなかった。
「俺、マネージャー補佐の磯崎です。鬼塚さんから言われて来ました」
「あーはい。よろしくお願いしまーす」
さすがアイドル。実物はめちゃくちゃ可愛い。
・・・・あいみんには、負けるけどな。
「じゃあ、早くビルのほうに。あ、連絡しておきますね」
鬼塚さんに合流したことを連絡しようとしたときだった。
「ちょっと待ってください。ちょっと待ってくださいよー」
「?」
急にしゃがんでリュックを漁りだした。
「ない、ないない、ないない!ない!!」
「ど・・・どうしたんですか?」
「ディ〇ニーのジェラーちゃんのぬいぐるみのキーホルダーが無いんです。あれ? どうして?」
「えっ・・・」
「どうしよう、無いんです。ここにあったのに、あれ? どうしよう、どうしよう」
「落ち着いて、今は収録に行かないと。準備もあるだろ?」
「大事なぬいぐるみなんです。どこかで落としたのかな? あれがないとダメなんです」
「わっ・・・ちょっと、仕舞って仕舞って」
リュックをひっくり返そうとしたから、慌てて止めた。
道行くOLの視線が痛い。
「あ、後じゃダメなの?」
「私、ダメダメで。ジェラーちゃん失くしちゃうなん
て、もう死にたいっていうか・・・あー貴方も私のこと死ねって思ってるんですよね?」
「は?」
「そうゆうのわかるんですよ。伝わってきます。死ねって思ってますよね? 私のこと死ねって・・・」
「いやいや・・・・」
何言ってるんだ? この子は・・・。
「収録やだな。ジェラーちゃんは唯一無二の友達なのに。あー死にたい。ジェラーちゃんと死にたい。もうやだ。やだなー」
「・・・・・・」
「私が死んだら部屋にあるぬいぐるみも一緒に棺桶にいれてくださいね。遺言ですから」
「・・・・・・・」
ヤベーこと言ってる。
怖い怖い怖いって。マジで怖いんだけど。
「・・・ツカサさんが収録してる間、俺が駅員さんに聞いてくるから。何か目印とかある?」
「え・・・・えっと、私が編んだ紫のシャツを着ています。真ん中にTって書いてます」
「わかったわかった、聞いておくから」
「本当ですか? ・・・よろしくお願いします」
この子の優先順位どうなってるんだよ。
しぶしぶリュックを背負って、付いてきた。
「体調不良とか・・・? 具合悪いとかある?」
「いえいえ。私、降りる駅間違っちゃって、隣の駅で迷ってたんです。いつもの改札口じゃないから、どうしてだろうって」
へらへらっと笑った。
なんか、闇落ちから戻ったっぽい。体調不良じゃないってことは、あの怖い発言はマジだったのか。
「そっか。じゃあ、とにかく急ごう」
「はい。あ、ジェラーちゃんのこと」
「あぁ、後で探しておくから」
見つかるかわからないけどな。
「・・・失礼します」
「おはようございまーす」
「おー、ギリギリセーフだね。あと10分後に収録場所に向かおうと思ってたんだよ」
鬼塚さんが、安堵したような表情を見せた。
ハンカチで汗をぬぐっていた。俺も、変な汗を搔いて息切れしていた。
「ツカサちゃん、着替え入って。中にスタイリストさんが用意してくれた服があるから」
「はーい」
ツカサと入れ換えで、カナとリノがカーテンから出てくる。雑誌に載ってるような、大人っぽい服装に変わっていた。
「りーのん、襟がちょっと折れてる」
「あ、本当だ。サイズぴったりでよかった。太っちゃったから、入らなかったらどうしようかって思ってた」
カナがリノの服を整えている。
髪も綺麗にセットされていた。動画で見た2人だった。
「10分後に行かなきゃいけないのに、ツカサはメイクしてないけどいいの?」
「仕方ない。ツカサちゃん、元々可愛いから、このままでも大丈夫でしょ。というか、もう時間ないからしょうがない」
鬼塚さんがハンカチを畳みながら言う。
「あの、俺、ツカサさんが落とし物したみたいで、駅のほうに探しに行ってきてもいいですか?」
「えっ、落とし物?」
カシャン
「そうなんです。ジェラーちゃん落としちゃって、私気になって気になってしょうがないんです」
「!?!?!?!?」
後ずさりする。
「ちょっとちょっと、ツカサ!?」
焦りながら、カナがカーテンを閉めていた。
「え?」
「着替え中でしょ? 鬼塚さんと磯崎君もいるんだから」
「あーごめんなさーい。間違えちゃいましたー」
黒いブラジャーが見えた。ばっちり見えた。
リノが思いっきりこちらを睨んでくる。
「・・・・・・・・」
俺は何も悪いことしてないだろ。むしろ、ジェラーちゃん事件から被害者だよ。
「磯崎君、じゃあ、悪いけど頼むよ。ツカサちゃん、ぬいぐるみのことになると、すごく気にしちゃうから。入館証はこれ使って」
「ありがとうございます、行ってきます」
入館証を受け取る。俯きながら、楽屋を出ていった。
来て早々、こんなに駅とビルを行き来することになるなんて。
前途多難なんだが・・・。
体調不良のため更新頻度が4日くらい遅れます。
すみませんが、宜しくお願い致します。




