131 秋葉原A-POPフェス②
「のんのんでーす」
「りこたんです。みんなありがとう」
「ゆ、ゆ、ゆゆゆゆゆ、ゆいちゃです」
「あいみんでーす。私たち『Vtuber 異世界からぴーすを届けるプロジェクト』です! 知らない方は、是非覚えていってくださーい」
4人の3Dホログラムが、ステージに映し出されていた。
光が投影されて、本物みたいに動いている。
「このような場に呼んでいただき、ありがとうございまーす。みんなーだいすきだよー」
「わぁ、こんなにファンがいるなんてびっくり」
「きゃーりこたーん! りこたーん! りこたーん!!」
結城さんがさっきから叫びっぱなしだ。
「あれって・・・3Dホログラム、だよな?」
「本物じゃないよな? 足がちょっと浮いてるし」
会場からどよめきと、歓声が上がっていた。
みんな、ペンライトを持ち直したり、『VDPプロジェクト』のグッズを上げていた。
改めてすごいと思った。
今までは、動画のコメント欄や、SNSでしか見たことなかったけど・・・実際は、こんなに年代幅広くファンがいたのか。子供から大人まで、盛り上がっていた。
「じゃあ、さっそく一曲目いきまーす」
あいみんが元気よく手を振ってマイクを持ち直した。
ピアノの音が鳴り響いて、あいみんが伸びやかに歌い始めた。
ペンライトを思いっきり振る。
やっぱり『VDPプロジェクト』最高だな。推しててよかった。
これでファンになる人も・・・。
・・・・・・。
待ってくれ、見間違いか?
今、一瞬、ゆいちゃの右腕が消えたような・・・。
さっきから、ゆいちゃの動きがおかしい気がする。
ダンスの動きが固いというか、位置取りができてないというか、声の伸びはいいけど、様子が変だ。ぎこちなくて、今にもネジが外れて、転びそうな動きをしている。
「・・・・・」
「ゆ・・・ゆいちゃ、大丈夫だよね?」
結城さんと目が合って、小声で聞いてきた。
「えっと・・・まだ、歌い出しだし・・・今は少し動きが固いけど乗ってくればそのうち・・・」
ハラハラして、ペンライトを振るのが早くなっていた。
マジで、ゆいちゃ、大丈夫なのか?
いや、さっきのなんて、ちょっと歌詞忘れた程度のハプニングだろ。
ななほしⅥの完璧なパフォーマンスを見た後だから、期待を押し付けてしまってるだけだ。
カナと比べたら、ゆいちゃは全然素人だし。
もっと、歌と3Dホログラムを楽しんで・・・。
「な!?!?!?!?!?」
サビでゆいちゃの3Dホログラムが、全身ぱっと消えた。
もう一度、ステージ上に現れて、5秒後に消える。
インして、歪んで、アウトする。
歪んでってなんだよ。
「あ・・・・・」
結城さんのペンライトの動きが一瞬だけ止まった。
俺たちの時間が止まっていた。
「・・・・・」
嘘だろ。マジかよ。
フレームアウトとインを繰り返して、ゆいちゃの3Dホログラムだけおかしなことになっていた。
多分、ダンスの位置を間違ったまま踊ってるんだ。ゆいちゃは、完璧に踊ってるつもりみたいだし、メンバーの誰も気づいていない。
しかも、どうゆう状態なのか知らないけど、ねじれたような状態で出てくることもあった。
「ちょ・・・・・」
「磯崎君・・・今は見守ろう」
「・・・・・・・」
結城さんの言う通りだ。
落ち着け、自分。冷静になるんだ。俺が騒いでも仕方ない。
今までだってゆいちゃがやらかしたことはたくさんあったし、別に何か特別なことが起こってるわけじゃない。
ただ、インとアウト繰り返してるだけだ。
秋葉原A-POPフェスの、有名アーティストに混ざったライブの中で、インとアウトを繰り返してるだけなんだ。
ありえないことなんだけど。ライブは生ものだ。ハプニングも楽しむものだ。
「あれも演出か? 歌は全然ぶれないしな」
「演出に決まってるだろう。変わってるけど、斬新で最高だな」
「ゆいちゃって子だっけ? すっごく可愛い」
「俺は好きだよ。こうゆう演出。攻めてて、Vtuberらしくないか?」
ちらちら、動揺の声が聞こえる。
演出なわけないだろ。純粋な事故だ。
ライブの事故を目の当たりにしてるんだよ。
「では、次が最後の曲でーす。あっという間で、寂しいですけど、よろしくお願いします!!」
最後の曲は、『シネマ』という有名な曲のカバーだった。
歌詞が、あいみんたちの状況と重なって、自然と目頭が熱くなった。
『VDPプロジェクト』って、事故も含めて、惹きつける魅力があるんだよな。
ラスサビで、スモークに包まれて・・・。
「きゃー!!!!!!!」
「おおおおお!!!!!!」
マイクを持ったあいみん、ゆいちゃ、りこたん、のんのんが出てきた。
驚いて、ペンライトを落としそうになってしまった。
まさかの、Vtuberの登場で、会場の盛り上がりは最高潮に達していた。
涙ぐんでいる人も、たくさんいた。
「みなさーん、今日はありがとうございましたー!」
「まだ、たくさんアーティストの方が出演されるので、最後まで楽しんでいってくださいね」
あいみんとりこたんが一歩前に出て、手を振りながら言う。
「じゃあね」
のんのんが楽しそうに笑いながら、会場全体に手を振っていた。
ゆいちゃはロボットみたくなっていた。
「あれ、本物だったよな?」
「本物なんて・・・スモークで全然見えなかったし」
「絶対本物だったって。後で、SNS見ておこう」
4人が去っても、周りからはあいみんたちが本当に出てきたのかという話題でざわめいていた。
あいみんが言ってたサプライズってこのことだったのか。
ステージが暗くなっても、しばらく、『VDPプロジェクト』のペンライトを振り続けていた。
「やっぱり、トレンド入るよね」
休憩時間に、結城さんと、スマホでツイッターを検索していた。
「・・・なんか、天国と地獄のような感覚だったな。最高だったのは間違いないんだけどさ」
「ほらほら、ゆいちゃがトレンド入りしてる。VDPプロジェクト、顔出しって、出てるよ」
検索ワード『ゆいちゃ』でクリックすると、フレームアウト事件は、事故派と演出派が分かれていた。
演技派は、Vtuberのハプニングも含めて楽しめというメッセージだと、歌は完璧だったから演技に決まってるって、力説していたけど・・・・。
ぶっちゃけ事故だ。どう考えても、事故でしかない。
なんかに引っかかって転びそうになっているゆいちゃの画像まで出てきた。
ゆいちゃが、こんなに本番で緊張するタイプだったとはな。
なんとなく、軽くやってのけそうな気がしてたんだけど・・・。
「ものすごい話題になってる。ライブ見てない人まで、つぶやいてるもん」
「ゆいちゃ・・・相当、緊張したんだろうな」
ここまでくると、反省して自分を責めてるんじゃないかって、ものすごく傷ついてるんじゃないかって心配していた。
失敗して、控室で泣いてるような気がして・・・。
でも、こんなときDMするのはよくないよな。
俺だって、模試で思うような点を取れなかったとき、慰めの言葉なんていらなかった。
「でも、トレンドでは、8位のななほしⅥを抜いて5位になってるよ。すごいよ」
「そうだな」
「はぁ・・・オープニングといい、『VDPプロジェクト』といい、泣いてばっかで・・・こんなにライブって感動するんだね。本当に来てよかった」
結城さんがくしゃっとなったハンカチを畳みなおしていた。
「また、こうやってライブができるといいな」
「うん。きっと、今日のライブを見た人は、『VDPプロジェクト』のこと覚えてくれたよ。だって、話題性もあったし、歌は上手いし」
「あぁ」
ペンライトの電源をつけたり消したりしながら、4人のパフォーマンスを思い出していた。
 




