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俺の推しは裏切らない!  作者: ゆき
130/183

129 ライブ前はどたばた

「そーっとそーっと、わっ」

「あ、あいみん!」

 机でパソコンつけっぱなしで寝落ちしていると、あいみんが覗き込んでいた。


「ごめんごめん、起こすつもりはなかったの。明日ライブだから、意気込みとか語りたいなって思ってきたんだけど、寝てるのかな? ってちょっと確認したかっただけで」

「全然いいよ。課題終わってないから、起きなきゃいけなかったし」

「ごめんね。疲れてるのに」

 あいみんがワタワタしながら話していた。

 明日のライブTシャツを着ていた。ちょっとだぼっとしていて可愛かった。


「で、意気込みは?」

「ものすごーく頑張る!」

 満面の笑みを浮かべていた。


「頑張りすぎないようにな。俺も結城さんも思いっきりペンライト振るから」

「ありがとう。私は楽しみと緊張で今日は眠れそうにないの。みんなにはちゃんと寝ようって言ったのに・・・全然眠れないかも」

 あいみんが目をぎゅっと瞑ってから言う。


「初ライブだもんな」

「そうなの。記念すべき初ライブ! あ、今、ゆいちゃが配信ライブやってるよ。見て見て、ゆいちゃもすっごく緊張してるから・・・」

「へぇ、ゆいちゃが緊張って珍しいな」

「うん。いつもと違ったゆいちゃになってるから、面白いよ」

「?」

 パソコンを起動して『VDPプロジェクト』配信ライブを映す。

 コメント流れるのがものすごく早い。スパチャも入ってるし・・・。


「・・・・・・」

 肝心のゆいちゃは・・・2分同じ姿勢だ。

「ゆいちゃ、硬直してるじゃん。これ、放送事故じゃないの?」


「あははは、緊張してるんだよ」

 ゆいちゃが、あいみんと同じライブTシャツを着て、ペンライトを持って、コメントを見ながら固まっていた。

 一瞬、画面フリーズを疑ってしまった。


「フェス前のライブ配信なのに・・・大丈夫なのか?」

「ゆいちゃのファンは個性的な人が多いから大丈夫。唯一無二のVtuberって紹介してる人もいたよ」

「唯一無二ねぇ」

 目を細めて画面を眺める。

 数分微動だにしなかったゆいちゃが、やっとぎこちなく動き出していた。


「たくさん練習したし、後はみんなの前で披露するだけ。わーって驚くような演出も用意してるから、期待してて」

「驚くようなってどんなの?」

「それはね・・・って教えないよ。ここまで秘密にしてきたのに、秘密の意味が無くなっちゃう」

 あいみんがぶんぶん首を振っていた。


「ねぇねぇ、さとるくんたちは、どの辺にいるの?」

「Cエリアのどこかって書いてあったな。遠いかもしれないけど、すっげー応援してるから」

「うん。ありがとう」

 あいみんが大きく頷いて、ほほ笑んだ。

「有名なアーティストや、人気アイドルグループもいるから、比較して下手だなって思われないようにしないと」

「大丈夫だよ。4人とも歌うまいし」

「・・・・・・」 

 あいみんがちょっと俯く。

「・・・本当に、そうなのかなって思っちゃって・・・今日前日リハでちらっと他のグループのパフォーマンス見たんだけどね。私たちと同い年くらいなのに、すっごく上手くて、びっくりしちゃった」

「他のグループって?」


「ななほしⅥって知ってる?」

「っ・・・!!」

 お茶をこぼしそうになった。

 知ってるっていうか、大学の同じサークルにいるんだよな。


「名前は・・・知ってるよ。声優アイドルグループだろ?」

「そうそう、6人いるんだけど、みんな踊ってるのに音程外さないし、声も通るし、ハモりも綺麗だし、すごいなって思っちゃって」

「そうなの?」

「うん。ちゃんと生歌だよ。本当にすごいの。誰一人、ミスする人が居なくて、圧倒されちゃって、少し自信が無くなっちゃった・・・かもしれない」 

「あいみんはあいみんだよ」

「うん・・・」

 かななん、か。あいみんが言うなら確かだ。

 アニメのアイドルストーリーの延長線上で人気があると思っていたけど、ちゃんと実力があるんだな。 

 いや、俺も何目線だよって感じだけど。


「・・・・・・」

 だから、ゆいちゃがこんなに緊張してるのか。

 コメント読み上げていたが、間違えちゃいけないと思っているのか、かなりゆっくり話していた。

 ずーっとこのままだと、リスナーの半分以上は寝落ちしそうだな。


「ん? さとるくん、どうしたの?」

「何でもないよ。とにかく、あいみんも上手いし、あいみんの声質すごくいいし、自信もって。マジで、俺の最推しなんだからさ」


「・・・最推し・・・そっか、最推し・・・」

 あいみんが口をもにょもにょさせていた。


「そ・・・そうだよね。私のファンでいてくれる人もいるんだし。自信もって頑張らないと」

「あぁ、楽しみにしてるよ」

「じゃあ、私戻るね。家に帰ってから柔軟して、お肌の調子も整えて、しっかりと睡眠取らないと」

 あいみんが元気に手を振って、家から出て行った。


 ペンライトも買ったし、あとは現地購入のグッズも・・・。

 いよいよ、明日か。ついに『VDPプロジェクト』がライブに立つんだな。

 実感がないけど、楽しみで仕方なかった。





「秋葉原ものすごい混んでるね」

「あぁ、みんなA-POPフェスに行くとしたらすごいな。年齢層幅広いみたいだし・・・」

「多分、みんな行くんだよ。だって、今日の出演者の缶バッチとか付けてるもん」

 ライブのTシャツや缶バッチを付けた人でごった返していた。

 結城さんがりこたんが持ってそうなワンピース着ている。

 バッグにはりこたんの缶バッチやアクキーが付いていた。かなり、気合入っている。


「磯崎君は昨日眠れた?」

「2時間くらいしか寝れなかったよ。なんか、遠足みたいな気分だな」

「うん。私は徹夜なんだけど、目がギンギンに冴えちゃって、変なテンションだよ。朝、りこたんからDMもらうし」

「ツイッター見る限り、4人とも元気そうだったな」

「そうそう。ゆいちゃも思いっきり寝たって書いてたし。昨日の配信見て心配しちゃったよ」

「ゆいちゃは、心配しだすと本当、疲れるから・・・」

 一応、DMしたら返信早くて、全然心配する必要なかった。

 テンション高いのが伝わってくるような文面だった。


 スマホであいみんのつぶやきをチェックする。

 いいねが2000以上ついていた。引用RT、リプライも多いし、今日もトレンド入りしそうだな。


「いよいよだな。まずは、物販で『VDPプロジェクト』のグッズ買わないと」

「・・・ねぇ、あの子大丈夫かな? さっきから足元がおぼつかなくて」

「ん?」

 ふらふらしながら歩いてる子がいた。

 マスクをしてメガネをかけて、体調悪そうに端っこの壁に寄り掛かってる。

 キャップを深々と被っていて、顔色はわからなかったけど、このままだと倒れてしまいそうだ。


「満員電車で体調悪くなったのかもな。声かけてこよう」

「うん」

 結城さんと女の子の傍に駆け寄っていく。


「・・・・・・・」

「あの、大丈夫ですか? 駅員呼びましょうか?」

「・・・・ん?」

 女の子がキャップをちょっと上げてこちらを見上げる。


「!?」

「磯崎君!」

 ななほしⅥのカナだった。

 顔色が真っ青で、俺のほうを見ると同時にふらっと後ろに倒れそうになった。


「・・・っと」

 かななんの背中を抱き留めて、ゆっくりその場にしゃがませる。

「わ・・・私、駅員呼んでくる」

「大丈夫。ちょっと、眩暈がしただけだから」

 カナが息切れしながら、結城さんの腕を掴んだ。


「たまに人混みで体調壊しちゃうんだ・・・今、駅員さんのところに行ったら、目立っちゃうし、ライブに行けなくなったら困るから」

「いいよ。無理してしゃべらなくて」

「ごめん・・・眩暈が収まったら、行く」

 結城さんとカナを囲むように隠していた。

「あ、遅れる・・・って連絡しなきゃ」

 スマホでLINE画面を開いて、震える手で文字を打っていた。

 辛そうなのに、何もできないってもどかしいな。


 結城さんと顔を合わせる。

 誰かに見つかったら大変だ。時計を確認しながら、カナの様子を確認していた。 

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