127 学問と両立させるアイドル?
結城さんと学食でアイパッドを眺めていた。
「りこたんから来週のライブの準備順調だって聞いたよ。楽しみだね」
「あぁ、タイムテーブル見たけど、『VDPプロジェクト』はちょうど中盤だったな。2曲か・・・何歌うんだろ?」
「りこたん、教えてくれないんだよー。『三原色』とか歌うのかな?」
「あれが、カバー曲のはじまりだったもんな」
ライブが近くなると、1日1日がワクワクして仕方なかった。
結城さんがりこたんの動画を切り替える。
推しについて、語りたくて仕方ないらしい。
「なんか、一気にチャンネル登録者数60万人になっちゃって、この前50万人だったのに・・・」
「50万人から100万人まであっというまなのかもな」
「うーなんか、りこたんが遠くに行っちゃうの寂しいっていうか」
「あぁ、推しが有名になるのは嬉しいけど、最近のコメント欄早すぎて読めないもんな」
「そうそう、コメントしても、全然気づかないの。りこたん、ゲームに夢中になっちゃうのもあるけど・・・もーライブが楽しみで、仕方ないな。ペンラも購入してるし、電池も買ったの」
「そっか、電池買っとかなきゃな」
ホラーゲーム実況をしているりこたんが映っていた。普段の冷静なイメージとかけ離れたリアクションがファンに人気らしい。
「ねぇ、磯崎君、『もちもちサークル』の集まりって来週火曜日の何時からだった?」
急にカナに話しかけられる。
「17時だよ。来れるの?」
「もちろん、ちゃんと空けてるよ。あれ? 磯崎君とはどうゆう関係?」
少し屈んで、結城さんのほうを見る。
「どうゆうって、磯崎君はオタク友達で・・・って、えっ?」
結城さんがカナを見て目を丸くしていた。
「ん?」
「あの・・・変なこと言うみたいですけど・・・ななほしⅥの、かななんに似てますね」
「本人だもん。私、ななほしⅥの赤担当、東寺カナ」
「!!」
結城さんもカナのことを知ってるのか。
Wikiで調べたら、アニメ、アイドルストーリーから派生したユニット、ななほしⅥで活動しているらしい。
主人公の声を務めて、人気に拍車がかかり、全国ツアーも予定されていると書いてあった。
「カナさんが、どうしてうちの大学に?」
「在学してるの。タメなんだから、かななんでもカナでもいいよ」
「在学!?」
結城さんが平澤さんと同じような反応していた。
にこっと笑いかけてくる。
「これでも前期は一つも単位、落としてないの。今日はこの後リハだし、体力的にきついんだけどね」
結城さんの隣に座る。
「アイドル・・・と、大学両立させてるの?」
「うん。結構ライブとか出てるよ。声の仕事とかもあるけど、テスト期間はなるべく空けてもらうようにマネージャーに言ってるの」
「すごい・・・」
「全然すごくないよ。アイドルやりながら大学卒業した人だっているんだから。私の事務所は特に、学業優先させてくれるところでよかった」
大学に通いながらアイドルやってるって、普通に超人だよな。
「ねぇねぇ、さっきから何見てるの?」
長いまつげをばさばささせて、アイパッドを覗き込んでいた。
「Vtuberのりこたんだよ。『VDPプロジェクト』の」
「あ、『VDPプロジェクト』、知ってるよ。『Vちゅーばー異世界からピースを届けるプロジェクト』でしょ。『もちもちサークル』で踊ってみた出してたもんね」
「う・・・うん」
正式名称久しぶりに聞いたな。
「この子たち、来週のライブで一緒なんだよね。推しなの?」
「えっと、私はりこたん推しで・・・・」
「俺はあいみん推しだ」
「じゃあ、ライブチケット取れた? 争奪戦だったよね、秋葉原A-POPフェス。現地は人数限られてるし・・・配信もあるみたいだよ」
「現地取れたんだ」
「そうなの? まさか、取れると思わなかった」
カナが頬杖を付いて、耳を抑える。
「あー、なんだか、大学の子にアイドルのほうの自分を見られるの、むず痒いな。よくチケット取れたね?」
「スマホとアイパッド5台体制で1個だけ繋がったんだよな」
「うん」
ブーブーブーブー
急に、カナのスマホが鳴り響いた。
「あ、連絡きちゃった。迎え来てるから、もう行かなきゃ。じゃあ、またね。なんかあったらDMするかも」
カナがスマホを見ると、慌ただしく離れていった。
DMって俺のツイッターアカウント知ってるのか。
まぁ、『もちもちサークル』の動画の概要欄に書いてるし、当然か。
「・・・磯崎君、かななんと知り合いだったの?」
「知り合いっていうか、この前『もちもちサークル』に来たんだよ。動画のファンだって言ってて」
「えっ・・・動画のファン・・・」
結城さんがあからさまに引いていた。
わかるけどさ。
あの世紀末みたいな踊ってみたを可愛いって言われたときには、俺だって鳥肌が立った。
「文化祭、たこ焼き屋やるんだけど、手伝ってくれるんだって」
「かななんが?」
「うん、なんか文化祭楽しみたいとかで・・・」
「信じられない。文化祭ならライブで呼ばれてもおかしくないのに」
結城さんが別のタブで、東寺カナを検索していた。
「ほら、この曲だって聞いたことあるでしょ? アイドルストーリーはゲームにもなってるし、CMでも流れていた曲」
聞き覚えのある曲だった。
ななほしⅥが歌ってたのか・・・。
「文化祭、かななんもいるけど、身バレだけはしないようにしなきゃいけないから・・・」
「もちろん。絶対、誰にも言わない」
アイドルがわざわざサークルの模擬店手伝うなんて・・・よくわからないよな。
たこ焼きって言ったら、匂いもつくだろうし、女子が嫌いそうなのに。
「それは、オタサーの姫になるつもりなんですよ」
「は?」
「オタサーの姫です。知りませんか? 男ばっかのサークルに入って、ちやほやされる女の子のこと、オタサーの姫っていうんですよ」
勉強教えているときに、ゆいちゃにカナの話をすると、ちょっと機嫌悪そうにした。
やっぱ言うんじゃなかった。論文要約の手が止まってしまった。
「知ってるけどさ、アイドルなんだから、わざわざ姫になる必要なんてないだろ」
「そーですけど」
じとーっとした目で、こちらを見てくる。
「もしかして、さとるくん、ななほしⅥが推しになったって話・・・」
「違うって、たまたま、サークルに来ただけだし。俺だって、顔も名前も知らなかったって」
「ふうん。いいのですけど、『VDPプロジェクト』もちゃんと応援してくださいね」
「『VDPプロジェクト』推しだから」
「今度のライブで、私たちのペンライト振らないで、ななほしⅥのペンライト振ってたら説教しますからね」
「んなわけないだろ・・・・・」
「断言できないです。オタサーの姫に、さとるくんもドキドキしちゃったんじゃないですか?」
子供みたいに言ってくる。
「もうっ・・・あいみさんに言っちゃいますから」
「・・・・・・・」
全然、勉強する気ないな。ペンを置いてしまったし。
あまりこの手は使いたくなかったが・・・。
「かななんって、アイドル活動忙しいのに、大学にも通ってるらしいよ。単位もフルで取ったんだって」
「・・・・・・・」
「来週ライブでリハもあるのに、すごいよな。勉強もちゃんとやるなんて」
「・・・わ、私も勉強します。ここの問題の解き方を教えてください」
ゆいちゃが急にペンを持ち直していた。
「ここは、前の文章から取ってくるんだよ」
「はい・・・・ここですか?」
「違うって、こっち。つまり、の先からだ」
ゆいちゃが単純でよかった。急に背筋を伸ばして、勉強し始めた。
カナからDMがきてスマホが鳴るとびくっとしたが、ゆいちゃは集中して聞いていなかったようだ。
てか、なんで俺がこんなにびくびくしなきゃいけないのかわからんけどな。




