122 夢をあきらめるとき③
小説家になりたい・・・で思い出したんだが。
黒歴史しかない、プロットが出てきてしまった。
すっげー、一貫性がなく、意味の分からないストーリーが書いてある。
癖の強い、挿絵まで作ってあった。誰かに見せてないことだけが救いだな。
極めつけには、小説のブログのサイトまでメモしてある。
軽い気持ちでURL叩いてみたけど、なんか死にたいくらいのポエムまで見つけてしまった。
中二病全開だ。目を背けたくなくなるようなことしか書いてない。
『君は花のように美しい少女 でも、バラのような棘を』の君って誰のことだよ。
薔薇のような棘とやらに刺さるきっかけもないくらいに陰キャだっただろうが。
キモいポエムの連打にむず痒くなった。
遺書には、俺が死んだら黒歴史ノートを燃やしてくれって書いておこうと思う。
小説家・・・になりたいとか、自分の中で納めていてよかった。
ゆいちゃに、変なこと話してしまったな。
ぱらぱらとクリックしてみたけど、どこまでいってもやばい。
俺は一体、何の本に影響されたんだ?
小学生の頃から『闇を彷徨う戦士』ってペンネームを付けるのは相当だからな。
病んでるのか前向きなのかよくわからん。
ピンポーン
素早くノートを仕舞った。
玄関のドアを開けると、大きなカバンを持った舞花ちゃんが立っていた。
「あ、お兄さん、おはようございます」
顔は少し腫れていたけど、元気そうだな。
「舞花ちゃん、もう行くの?」
「はい」
「待って、俺も出るから」
「あ、大丈夫ですよ。お兄さんも忙しいでしょうから」
舞花ちゃんがぶんぶん手を振っていた。
まぁ、課題はあるけどな。今は舞花ちゃんのほうが大事だ。
「琴美に約束したしな。ちゃんと、バスまで送っていくよ」
パソコンの電源を落とす。
リュックに財布とスマホを突っ込んで、家から出ていった。
「その・・・・昨日の話は、もう、大丈夫なの?」
「えっと、大丈夫かって言われると・・・まだ、学校は怖いのですが」
東京駅までのバスに乗りながら話していた。
舞花ちゃんが窓の外を眺めている。
「あいみんさんもゆいちゃさんも、りこたんさんものんのんさんも、私が学校行って辛くても帰ってきたら配信しているので、なんか大丈夫な気がしてきて」
「あまり思いつめる前に逃げろよ。クラスメイトなんて、狭いコミュニティなんだから、話合わなくて当たり前なんだからな」
くるっとこちらを振り向く。
「それ、りこたんさんからも言われました」
「りこたんも来てたの?」
「はい。のんのんさんも来てくれたんです。みんな、いろいろ話してくれました。夢とか、辛かったこととか・・・22時くらいに起きて、結構、夜更かししちゃいました」
「そうか」
「あ、内緒の話なので、言えないんですけどね」
舞花ちゃんが少し思い出し笑いをしていた。
みんな、呼んでくれたんだな。舞花ちゃんの声が明るくなって安心した。
「みんなの話を聞いて、クラスでは私、一人かもしれないですけど、一人じゃないんだなって思えたんです。ちゃんと卒業まで頑張れそうです。学校行くのも、もう7か月くらいしかないんですから」
「そうか、よかったな」
琴美から鬼のようにLINEが来ていた。
今、東京駅に行くところだって伝える。
「あれ? 琴美ですか?」
「あぁ、舞花ちゃんが大丈夫かってうるさくてさ」
「私のほうには来てないのに・・・」
「こうゆうときだけ、俺を使ってくるんだよ。多分、あいつなりに、舞花ちゃんが自分から話すの待ってるんだと思うよ」
「琴美らしいです」
直接、聞けない気持ちもわからないでもないけどな。
琴美なりに、友達関係が壊れるのを怖がっているんだろう。
「落ち着いたら、琴美にも連絡してやってくれ。かなり心配してるから」
「もちろんです。ちゃんと琴美にも話します。親にも連絡してくれたみたいで、本当にありがとうございます」
「あぁ、心配させないように、上手く言ってるから大丈夫」
普段はありえない、兄妹のチームプレイができたと思う。
「はい・・・私、昨日の1日が無ければ、どうなっていたかわかりません。こんなにすっきりするとは思いませんでした」
「安心したよ」
東京の道路はかなり入り組んでいる。
信号待ちで少し無言になった後、舞花ちゃんが口を開いた。
「『VDPプロジェクト』のライブ、決まったんですよね?」
「そうそう。俺もチケット取るのめちゃくちゃ大変だったけどさ。大学の友達と協力して、なんとか、取れて」
「ふふ、私は現地に行けないので配信で見ますね」
「そうか。いつか舞花ちゃんも出れるといいな」
「はい、期待の新人Vtuberなので、精一杯頑張ります」
舞花ちゃんがちょっとVtuberっぽい口調で言う。
「いろいろ話を聞いて、私、夢をあきらめるのは今じゃないなって思ったんです」
「ん・・・?」
「周りは反対するし、中傷されるかもしれないけど、私、夢に向かってる今が、楽しいんです。楽しいんだって、昨日話してて気づきました」
満面の笑みを浮かべていた。目は泣き腫れていたけどな。
「羨ましいな。周囲の言葉なんて嫉妬なんだから気にするなよ。なんかあったら、電話でもLINEでもいいから」
「はい。ありがとうございます」
来たときは正直、このまま自殺とか考えちゃうんじゃないかって、最悪のことばかり考えてたけど・・・。
あいみんはすごいな。こんなに勇気づけられるんだから。
「えっと・・・お兄さんって、もしかして『VDPプロジェクト』の中に好きな人がいるんですか?」
「ごほっ・・・な、なんで急に」
ペットボトルの水を吹き出しそうになった。
なんで、いきなりそんな話になるんだよ。
「なんかそんな気がして、気になっていました」
「別にそうゆうわけじゃないって。あいみんがたまたま隣の家にいて、みんなよく来るから自然と話すようになっただけで・・・・」
「本当ですか?」
「・・・・・・」
首を傾げてこちらを見る。疑いの目だな。
「でも、私、諦めてないですから」
「そ・・・そう・・・・」
顔を赤らめて言うと、すぐに逸らした。
「東京に出てからが勝負です。絶対お兄さんの最推しのVtuberになってみせますから」
「はは・・・楽しみにしてるよ」
俺にはどう考えても、妹の友達って枠内を出ることはないんだが。
こんなに可愛いんだから、別に俺じゃなくてもいい気がする。
きっと、地元を出て夢に向かっていく途中で、好きな人とかできるんだろうな。
「でも・・・は、お兄さんのこと好きだと思いますよ」
「ん?」
少し俯きながら何かを呟いていた。
車のクラクションが響く。
「え? ごめん、聞こえなかった」
「何でもないです。あ、もうすぐ着きますね」
なんて言ったんだ? 全然聞き取れなかった。
東京駅は人でごった返していた。
ちょっと目を離すと、舞花ちゃんを見失ってしまいそうだった。
「わぁ、東京って目が回りますね」
「俺も慣れてないからな。田舎の人間にはきついよな。改札も多いし」
「驚きます。お祭りみたいです」
「あ、こっちの方角みたいだな」
グーグルマップを開いて、舞花ちゃんを連れて行く。
「そこがバスロータリーだから。舞花ちゃんが乗る場所は・・・」
「あ、奥から2番目のところです。あと、数分でバスが来ます」
「そっか。じゃあ気を付けて」
「はい。本当に、本当にありがとうございました。私、ツイッター始めたので、帰ったら皆さんフォローしに行きますね」
「あぁ」
ちょっと慣れないヒールでバスのほうまで走っていった。
ほっとしていた。大丈夫そうだな。
舞花ちゃんの夢が叶うかどうかはわからないけど、きっと夢が必要なんだなって思っていた。
みんながVtuberとして成功できるわけないんだけど、いつか頑張りが報われて、叶うといいな。




