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俺の推しは裏切らない!  作者: ゆき
121/183

120 夢をあきらめるとき①

「はぁ・・・・・」

 休み明けの課題は厳しいな。土曜日の朝からやって、夕方でやっと半分だ。

 明日バイト休んでおいてよかった。

 頭が働かないし、怠けてる。

 ちょくちょく、あいみんの動画に癒されながら、亀の歩みで課題を進めていた。


 ピンポーン


「ん?」

 珍しいな。みんな、勝手に入ってくるのに。

 宅急便か? いや、実家からは来たばかりだしな。


 ドアを開ける。

「ま、舞花ちゃん!」

 舞花ちゃんが泣きはらした顔でこちらを見上げる。


「すみません。急に来て、でも、他に・・・場所がなくて・・・」

「ど、どうしたの?」

「・・・・・あの・・・・」

 瞬きすると涙がこぼれていた。


「えっと・・・とりあえず上がって」

「ありがとうございます・・・」

 目を抑えながら、とぼとぼとついてくる。

 何があったんだろう。


 泣いてる女の子が家にいるんだが、こうゆうときどうしたらいいのかわからない。

 とりあえず、麦茶でも・・・。動揺して、コップを落としそうになった。


「急に・・・ごめんなさい。でも、どうしたらいいかわからなくて・・・・お兄さんしか、頼れる人が居なくて」

 絨毯に座ると、少し落ち着いていた。

「いいよ。いつから、東京に来たの?」

「今日の午前中、ゲームのアテレコの収録があって・・・それで・・・」

 渡した麦茶を一口ずつ飲みながら話す。


「収録が思うようにいかなかったのか?」

「いえ、収録はうまくいったんです。私の声、ぴったりはまったって」

「すごいじゃん。よかったな」

「はい・・・・」

 小さな手が震えていた。


「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

 しばらく沈黙してから、スマホを出していた。


「・・・周りからは、いつもVtuberなんてあやふやな夢、諦めろって言われてるんです。いじめ・・・ぽいことにもあっていて・・・」

「え?」

「みんな受験組ですから・・・黙っていたんですけど、インスタグラムのアカウントからバレてしまって」

 スマホにインスタグラムを映していた。


「応援してくれると思っていたクラスメイトの子が・・・急にこんなことをしてくるんです。消しても消しても載せてきて・・・事務所管理には気にしなくていいって言われたんですけど、でも・・・すごく傷ついて・・・・」

「ひどいな・・・これは」

 Vtuberの画像と、舞花ちゃんの写真をコラボさせた画像をアップしていた。

 ほかにも、声の仕事への誹謗中傷・・・舞花ちゃんを馬鹿にするようなコメントが書かれている。

 全部、実態のないアカウントからだな。


「本当に、急に、なんです。クラスメイトがこんなことしてくるなんて思わなかったです」

「そうか」

 ただの嫉妬だろうけどな。

 舞花ちゃんは可愛いし、受験や就職へのストレスから妬みをぶつけられてるんだろう。


「夏休み明けてから、クラスメイトから無視されてしまって。一部の生徒からは呼び出しされたり・・・高校行くのが怖いんです」

「琴美は?」

「琴美は別のクラスですから、受験組のラストスパートで、忙しくて相談できません。大親友に、迷惑かけたくないんです」

 まぁ・・・琴美に相談したら、なんか問題起こして、俺が駆り出されそうだけどさ。


「みんなからVtuberなんて逃げだとか、叶わない夢だとか、いろいろ言ってきます。学校の先生も親もVtuberには反対で・・・進学、就職してからでもいいんじゃないかって言ってくるんです」

 絞り出すように話していた。


「収録終わったら、緊張の糸が切れてしまって・・・辛くても頑張ってるのに、叶わないって言われると、死にたいって思ってしまって・・・・」

 いつも明るい舞花ちゃんがここまで追い込まれるなんてな。


「高校には行かないといけないの?」

「え?」

「ほら、逃げるって選択肢もありだろ。高校行かなくたって、高卒の資格取る手段はあるしさ」

「そう・・・ですけど、親が・・・・」

「まぁ、そうだよな」

 いじめにあったらすぐ逃げればいいって言うけど、そんなに簡単じゃないんだよな。


「Vtuberが夢だって言って、声優のお仕事もいただいてるって話して・・・こんなに風当たりが強くなるなんて思わなかったんです。教室入るとキモいって、入ってくるなって・・・・変な声で話しかけられたり・・・・」

 思い出したのか、しゃくりを上げていた。

 ティッシュボックスを渡した。


「田舎だからな。そうゆう閉鎖的な部分はあるんだろ。事情はわかったから、無理に話さなくていいよ」

「・・・・・・・」

 スマホを出してツイッター画面を開く。

 あいみんに連絡だ。俺はVtuberじゃないから、舞花ちゃんの立場で聞いてあげられないし。


「舞花ちゃん、家には連絡した?」

「いえ・・・もうすぐ帰るはずだったので・・・・」

「俺から琴美に連絡して、舞花ちゃんの親に言ってもらうよ」

「あ・・・ありがとうございます・・・・」

 琴美にLINEして・・・と。今は、おそらく塾の時間だな。


 折り返し連絡来るのは、19時過ぎだろうか。




「じゃじゃーん。呼ばれて、あいみん登場」

 あいみんが、コンビニの袋をぐるぐる振り回していた。

「私も、あいみさんについてきました」

 げ、マジかよ。ゆいちゃまで・・・。 


「え!? あいみんさん、ゆいちゃさんっ・・・」

「やほーって、あれ?」

 あいみんとゆいちゃが重たい空気を吹っ飛ばすように入ってくる。


「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

「はっ、舞花ちゃんがさとるくんの家に? 家で泣いてる!?」

 あいみんが俺と舞花ちゃんを見て固まっていた。


「なんですか? この別れ際のカップルみたいな空気は」

「違うって、変なこと言うなよ」

「さとるくん、どうゆうことですか? 舞花ちゃんに、何か悪いことをしたんじゃないんですか?」

「してないって」

「本当ですか? 怪しいですけど・・・なんか、むぅって感じです」 

 入ってきて早々、ゆいちゃに詰め寄られる。なんか、理不尽に怒ってるし。

 こうゆうのがあるから、あいみんだけに連絡したのに・・・。


「舞花ちゃん、何かあったの?」

「・・・・・・」

 あいみんが舞花ちゃんの横にぺたんと座った。

 舞花ちゃんが俯いて、涙を溜めている。

 こうゆうとき、やっぱりあいみんは大人だよな。

「えっと・・・・・」

「無理にじゃなくていいから。話したくなったら話して。それまでは・・・・」

 あいみんがコンビニの袋からプリンを出す。


「美味しいコンビニスイーツ食べよ。すっごくすっごく美味しいから・・・」

「あいみさん、大変です。3つしかないです」

「はっ・・・3人で食べるつもりだったから」

「わ、私はいいです。すみません、なんか・・・」

 舞花ちゃんが両手を振って遠慮していた。


「いいの、つらいときは甘いものは必要なんだから。一つは舞花ちゃんの分」

 あいみんが舞花ちゃんの前にトンと、プリンを置いた。

 推しはすごいな。さっきまで、泣いてた舞花ちゃんが、押されている。


「あとはじゃんけん」

「せっかくなんで、ゲームで勝負しましょうよ。人狼で」

「3人で人狼はないだろ」

「・・・じゃあ、やっぱりじゃんけんで。じゃんけんなら自信はないんですけど」

「むしろ、人狼で、どうして勝てると思ったんだよ・・・」


 あいみんが右手を開ける。

「はい。恨みっこなしのじゃんけんで。じゃーんけん」

「ぽんっ」

 結局、ゆいちゃがじゃんけんに負けたから、プリンはゆいちゃに渡した。

 プリンごときで泣きそうな顔になるからさ。

 舞花ちゃんはもっと深刻な悩みを抱えてるのに・・・。


 ちらっと舞花ちゃんのほうを見ると、表情が和らいでいた。

「美味しいね、プリン。甘いものがほしかったら、また買ってくるね」

「はい・・・・ありがとうございます・・・」

 あいみんがにこにこしながら話しかける。


 やっぱり、最強だな。俺の推しは。

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