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俺の推しは裏切らない!  作者: ゆき
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117 チケット争奪戦

 チケット争奪戦まで、あと15分。

 30分前には席についている予定だったのに、教授の話がいつもよりも長くて出遅れてしまった。


 結城さんとの待ち合わせ場所まで、全力で走っていた。


「ご、ごめん、遅くなって」

「あ、磯崎君」

 第2情報教室に入ると、パソコンの前に結城さんが座っていた。

 アイパッド、スマホがなぜか2台並んでいる・・・完璧な戦闘態勢が仕上がってる。


「お疲れ。夏休み明けの授業理解できた?」

「いや、今日はそれどころじゃないっていうか。チケットのことで頭がいっぱいで、ツイッターもかなりにぎわってたし」

「私も緊張して、全然授業が頭に入らなかった。というか、もう昨日の夜からドキドキして睡眠不足だよ」

 深呼吸しながら話していた。


「俺も、模試並みに緊張してるよ。昨日の午後の授業もあまり聞いてないし」

「推しの一大イベントだから仕方ないよね。帰ってから復習しないと」

 結城さんがキーボードで画面を切り替えて見せる。


「見て。さっきから試してるんだけど、学校のパソコンでチケット購入サイト入れないみたいなの。ほら、セキュリティで弾かれちゃって」

「マジか・・・仕方ないな・・・」

「こうゆうときはパソコンが強いのに、自分のノートパソコン持ってくればよかった」

「俺もパソコンは持ってこなかったな。学校のパソコン使えるものだと思ってたし」

「こうゆう個人情報を入れるようなサイトは弾くようになってるのね。初めて知った」

 パソコンの画面に『この画面は表示できません』という字が出ていた。

 まぁ、学校のパソコンなんだから、よくよく考えてみれば当たり前だよな。


「でも、ここならWi-Fi使えるし俺はスマホとアイパッドがある。2人で5台、冷静になれば何とか取れるよ」

「うぅ・・・大丈夫かな。私、チケット自分で取ったことなくて。いつもお兄ちゃんに取ってもらってたから」

「啓介さんは得意そうだもんな」

「そうなの、お兄ちゃんガチ勢だから絶対取れるんだよね。今日に限って会議と被ってるなんて、本当使えない。しかも、お兄ちゃんの分も取ってなんて図々しいこと言ってくるし」

 口調がいつもよりきつくなっていた。

 結城さんの言葉は、俺にも刺さる。1年後の琴美を見ている感覚になるんだよな。



「・・・3分前だな」

「いよいよだね。私は3つサイトに繋げるから」

「頼りは学校のWi-Fiだな。頑張れよ、Wi-Fi」

「うん、本当頼りにしてるよ。あと2分・・・緊張してきて、手に汗が。取れたら、取れたって言ってね」

 Wi-Fiに念を送る。


「オーケー」

「・・・・・・」

 早押しクイズみたいだな。

 何度も更新してサイトが繋がるかを確認していた。

 結城さんがパソコンに時刻を映した。


「きた。11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1」

 カウントダウンして、スマホとアイパッドの更新をかけた。

 繋がらない。全然繋がらない。

 画面がフリーズしてる。

 全然、切り替わらない。


「俺、全然繋がらない。結城さんのほうは?」

「私もダメ、どうしてこんなに繋がらないの」

「こっちのスマホ、繋がってるよ。チケット購入画面が表示されてる」

「え!?」

 結城さんが焦りながらスマホを持った。

 顔を見合わせる。


「し、慎重にね・・・」

「うん」

 手早く情報を入れて、購入確認画面にいく。

 俺のスマホもアイパッドも繋がらないままだけど・・・。

 結城さんが震える手で、購入確定ボタンを押した。


「やった! 購入確定しましたって!」

「ありがとう。マジで助かった」

「これお兄ちゃんのスマホなんだよね。お兄ちゃん役に立たないけど、スマホだけでも役に立ってよかった」

「・・・・・・」 

 だよな。そうだと思ったよ。啓介さんの魂を感じたよ。

 私物のスマホを結城さんに預けた啓介さんのことを思うと切なくなる。

 俺は死んでも琴美にスマホを貸したくない。

 


「やっぱり愛だよね」

「えっ・・・・? どうしたの?」

「推しへの愛がこのチケット争奪戦を勝利へと導いたってこと。りこたんを推す気持ちは誰よりも強かったんだから」

 結城さんがにやける頬を抑えながら言う。

 

「あ、ツイッターで、チケット購入サイトが開かないって流れてる」

「そう? 本当だ。俺と同じ画面が映ってる」

「本当に運だったんだね」

 スマホを切り替えてツイッターを見ると、チケット争奪戦の勝者と敗者に分かれていた。

 ほぼ、敗者だな。壮絶な戦いだったようだ。

 啓介さんのスマホと、学校のWi-Fiに感謝だな。


「トレンドにも上がってる。秋葉原A-POPって、『VDPプロジェクト』のファンだけじゃないもんね」

「このトレンド2位の『るーみくきゅーぶ』って声優ユニットだろ? ファンが多いのかもな」

 今期話題のアニメに入っていた気がする。


「確かに・・・。ふぅ、気が抜けちゃった。本当にぎりぎりよかった。『VDPプロジェクト』の初ライブなんて、絶対行かなきゃいけないし」

「だよな。3Dホログラムを使うから、打ち合わせも大変みたいで、りこたんがしょっちゅう行き来してるらしいよ」

「聞いてる、聞いてる。もう、本当に本当に取れてよかった。ありがとーお兄ちゃん」

 結城さんがスマホを掲げていた。

 啓介さんにこの声は・・・届かないだろうけどな。


「チケット代は明日持ってくる」

「了解」

 一気に、気が抜けていた。

 昨日の夜からずーっとチケット取れるかってことしか考えてなかったもんな。

 マジで取れてよかった。


「あれ? 磯崎君、それ、新しいVtuber?」

「あっ・・・」

 安心した拍子に、自分で作ったアバターのユリちゃんを表示してしまった。


「えっと、作ってみたんだよ。自分で」

「そうなの? 可愛いね。なんとなくゆいちゃに似てるような・・・」

 ユリちゃんが画面の中で手を振っている。


「ベース、ベースを元に作ったんだよ。髪とか、目の色とか変えたり、猫耳つけたり・・・」

「あ、そうゆうことね。よく見てみると、どこかりこたんにも似てる気がする」

「・・・・・・・」

 そんなにゆいちゃに似てるのか?

 かなりの頻度でユリちゃんを見ているけど、ゆいちゃには似てないと思う。

 みんなが絶賛するような可愛い理想の猫耳の女の子だ。 


「名前はあるの?」

「ユリだよ。ゆいちゃとりこたんがつけたんだ。自分たちと雰囲気を似せるのに、服装とか変更して、自分たちの頭文字をとってユリだって」

「えー楽しそう。私も作ってみたい。りこたんのアバターほしい」

 結城さんがメガネの奥の瞳をキラキラさせていた。


「じゃあ、サイトのURL送るよ」

「ありがとう。難しいの?」

「ベースを使えばそんなに。あ、ベースは今は俺が使ってるやつじゃなくなってるから。違う子になってるからっ」

 自分で1からアバター作ったことバレるところだった。

 ベースって言ってごまかしてるけど、ほぼベースを使ってない。

 自分好みの可愛い子って作ってたらこうなってしまった。


「ん? どうしてそんなに焦ってるの?」

「・・・いや、えっと・・・俺もあいみんみたいな子作ろうかな」

「そうしようよ。まだ、チケット取れた興奮冷めないし。じゃあ、私は、メガネバージョンのりこたんにしよ。少し、りこたんと私を混ぜた感じにしたいな

 結城さんがアイパッドでアバター作成画面を開いていた。

 チケット取れた直後だからか、テンションがものすごく高い。


「あいみんは・・・こうゆう目かな? まぁ、実物が一番尊いってなるのがオチだけどな」

「いいの。わぁ、意外と簡単に作成できちゃうんだね。モーション切り替えとかあるの?」

「あぁ、365度見れたりするんだよ」

「すごい。こうゆう技術ってどうやるのかな。このボタンは?」

「これはこうやって・・・・・」

 スマホに映ったユリちゃんを動かしながら、動作を説明していた。

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