115 アバターを作ってみる
やばい。課題が終わらない。
終わらないんだけど・・・。
さっきからVtuberアバターを作るのに夢中で、手が進まない。
がんじんさんから、プログラム言語を擬人化したキャラを作ったツールだと聞いていたけど、これははまるな。
自分好みの、かなり可愛い子になってしまった。
365度動かせるし、服のしわも、髪の動きも実際にいるみたいだ。
ずっと見ていられる。
アイパッドで気軽な気持ちで作ったのに、猫耳のこの子に恋しそうだ。
こうゆう女の子が近くにいたらな・・・って、現実逃避が止まらない。
まぁ、あいみんが最強だけどな。あとで、あいみんの動画を見ておこう。
「おじゃまします」
いきなり、りこたんが家に入ってきた。
「わっ、りこたん」
「ちょっと相談したいことが合って、お菓子も持ってきたんだけど、どうしたの? そんなに驚いて」
りこたんが甘い香りのする袋を出した。
「ありがとう。い、いや、何でもない。今、課題やってて、プログラミングのループのところで煮詰まってたんだよ」
アイパッドを伏せて、パソコンのほうに視線をやった。
「今、アイパッドにVtuberらしき子が映っているように見えたんだけど」
「違うって」
「じゃあ、どうして隠してるの? 何か隠したい理由でもあるの?」
「・・・・・・」
髪を耳にかけて、じっと見つめてくる。
全然、パソコンの画面に興味を示さない。
「怪しいわ。もしかして、推し変?」
「ちが」
「おじゃましまーす、りこたん、遅くなってごめん」
ゆいちゃがぺたぺた駆け寄ってくる。
「ゆいちゃ、大変なの。さとるくんが、新しい推しのVtuberを見つけたみたいで、私に隠そうとしてるの」
「えぇっ!?」
話がややこしくなる。
「違うって。ほら・・・」
「どれどれ?」
ため息をつくと、りこたんがころっと表情を変えていた。
わかってて言ってたな・・・。策略家だ。
アイパッドでさっきまで動かしていたアバターを見せる。
「自分好みのアバターを作るツールがあるんだよ。部活の先輩に教えてもらって、試しに作ってみたんだ」
フリックで動作を変えてみせる。
「これ、さとるくんが作ったんですか?」
「まぁな。なかなかうまいだろ?」
作った女の子が画面の中で手を振っていた。
服はタートルネックにスカートのシンプルな組み合わせだし、何も変なところはな・・・。
「なんか、ゆいちゃに似てるね?」
「なんか、私に似てる気がします」
・・・・・・。
「べ、ベースを利用したんだよ。俺が変えたのは、髪の色くらいで」
「なるほど。そうですよね」
「どおりで、よくできてると思ったわ」
そんなに似てるか? 似せて作るつもりなんて、毛頭なかった。
よく見ると似てるか。いや、似てないだろ。うーん・・・似て、ないだろう・・・。
「声も入ってるの?」
「声はないよ。まぁ、声も選べたらいいんだけどな」
探せば自分の声を女性の声に変換するツールもあるんだろうけど、がんじんさんと花澤さんは自分の声でアテレコしていた。
可愛い女の子の裏側が、野太い声の理系男子ってギャップでバズったんだよな。
冷静に見たら、気狂ったオタクの動画に見えるのに。
何がどうゆう経緯で流行るかわからないな。
「じゃあ、私がアテレコしてあげます」
ゆいちゃがアイパッドで顔を隠した。
「さとるくん、なんて言ってほしいですか?」
「えっ」
「なんかしゃべってみますよ。おはようとか、こんにちはーとか。何がいいです?」
アバターの子がこっちに手を振っていた。
言われてみると、ゆいちゃに見えてきた。
髪型も、目つきも、身長も・・・全然、似せてるわけじゃないけど。
「楽しそう。じゃあ、ゆいちゃ、語尾ににゃあってつけて話してみて」
「にゃあって、急にそんなこと言われても困るのですにゃ」
「・・・・・」
めちゃくちゃ可愛いかもしれない。
「さとるくんも何かリクエストありますか? にゃ?」
「えっと・・・」
「お話するのです、にゃ。にゃあって結構難しいのです、にゃ? あれ? なんか変です?」
りこたんが、混乱するゆいちゃを見てくすくす笑っていた。
「俺はいいよ」
「あっ・・・」
ゆいちゃからアイパッドを取り上げる。
このまま続けていたら、いよいよ、現実に戻ってこれなくなりそうだ。
「楽しかったのに。こうゆうアバターを作るって面白いのね。私も挑戦してみようかな」
「もっとやってみたかったです。あ、この子に名前とかあるんですか?」
「そ、そこまで考えてないって」
「ん? どうして動揺してるんです?」
「別に・・・」
ゆいちゃが首を傾げていた。全然、動揺なんてしていない。
「じゃあ、私の名前とりこたんの名前の文字を取って、ゆりちゃんっていうのはどうです?」
「いいわね。あー、でも、このアバターだとゆいちゃに似すぎてるから・・・・ねぇ、さとるくん、服だけ変えたいんだけどいい?」
「え? あ・・・あぁ」
りこたんが手早く、ゆりちゃんの服を選んでいた。
ゆりちゃんか・・・名前が付くと、愛着が湧いてくる。
ゆりちゃん、プログラミング手伝ってくれないかな。料理作ってくれたり、彼女っぽいことしてくれたらいいのに。
「私の持っている服にしてみました。どうかしら?」
「あー、なんか私のようなりこたんのような、私のような不思議な感じです」
ゆいちゃが画面に食いついていた。
「さとるくん、ゆりちゃんのこと、ちゃんと可愛がってくださいね」
「そうよ。消したりしちゃだめだからね」
「あぁ、わかったよ」
念押しされてしまった。
言われなくても、消すわけないけどな。
「それより、りこたん、なんか用事あったんじゃないの?」
「あ、忘れてた」
りこたんがスマホをスクロールする。
「ライブで3Dホログラムで映すときのフォーメーションを考えてたんだけど、この動画を見たら、4人離れるようになっていて、こっちのほうがライブとしては一般的なのかな? って」
「まぁ、ライブは大体広がるよな。なるべく多くのファンに見えるように」
4人組アイドルが武道館ライブした映像を映していた。
「3Dホログラムだと光の加減の調整とかもあるのか?」
「うん。意外と大変で、ここは映らなくなっちゃうからって、録画も提案されたんだけど」
「私は絶対、生のものを届けたいんです」
ゆいちゃが力強く言う。
「確かにな。ライブは録画じゃ味わえない感覚があるしな」
「私もそうゆうのは大切にしたいと思ってるの。せっかく見にきてくれるんだから」
「でも、フォーメーションはいろんなことを考慮しなきゃいけなくて、行き詰ってしまったんです。私たち、動画撮影だときゅっとして踊ることが多かったので、ライブってなるとステージも広いので、それに合わせないといけないな・・・とか、いろいろ難しいんです。じゃあ、さとるくんにも聞いてみようってなったんです」
ゆいちゃが身振り手振りをつけて話していた。
「もう、フォーメーション考えてるんだ。秋葉原A-POPライブのチケット販売ってまだだよな?」
「うん、再来週の火曜日の12時からだから、頑張って取ってね」
授業終了後すぐだ。結城さんと相談だな。
「オールスタンディングで、関係者席っていうのがないみたいなんです」
「そうなのよね。さとるくんと、結城さんと啓介さんの3人くらい、席を用意したかったんだけど、ごめんね。平日なのに」
りこたんが申し訳なさそうに言う。
「大丈夫。結城さんと協力して頑張るよ」
かなりの激戦が予想される。
『VDPプロジェクト』のファンだけでも多いのに、他のアイドルや声優のファンも集まるんだから。
平日だから啓介さんは頼れない。
推しのためにも、気合い入れて、チケット取らないとな。




