105 女を落とす方法(実践)
「さとるくんがボーイズラブしてたって聞いたんですけど本当ですか?」
「ごほっごほ・・・・」
麦茶を噴き出しそうになった。
ゆいちゃがいきなり家に入ってくるなり、とんでもないことを聞いてきた。
「な・・・どうしていきなり」
「りこたんから聞いたんです。さとるくんとフユとナツがベッドで何かしようとしてたって。おそらく、服を脱がせようとしてたんじゃないかって」
「・・・・・・」
話になんか長めの尾ひれがついてるし。
「違うって、てか、どうしてりこたんがゆいちゃにそんなことを?」
「りこたんの様子があまりにおかしかったので、問い詰めたら白状しました。りこたん、真面目なので、自分でため込んでしまうタイプなんです」
なるほど、あの様子だと無理もないと思っていたが・・・。
恐れていたことが起こってしまった。
どうしてよりによってゆいちゃに・・・。
「でも、安心してください」
「?」
ゆいちゃがため息をつきながらソファーに座っていた。
「私はさとるくんが男女のエッチな動画見てるのも知っていますし、なんとかって動画も、2つとも確認したところボーイズラブ的な要素は見当たりませんでした。普通に男女のエチエチでした」
「確認したのか?」
「確認しました」
「・・・・・・」
何言ってんのかわかってんのかよ。
あの動画をゆいちゃも見てる・・・って・・・そんなこと・・・。
大きな瞳でじっと見つめてくる。
「すごい動揺ですね。顔が真っ赤ですよ。そんなにバレたくないことなんですか?」
「そうゆうんじゃなくて」
これはゆいちゃがあの動画を見てるって聞いたから、こうなってるわけで・・・。
性癖見られるとか、拷問みたいなんだが。
「何してたんですか?」
「い、色々、相談してたんだよ」
「へぇ、相談。相談で、ボーイズラブ的なことに、どうしてなるんですか?」
「・・・・・・・」
可愛い声で、えぐいとこついてくる。
こぼれた麦茶を拭きながら、コップをテーブルに置いた。
「ゆいちゃには関係ないだろ」
「ふうん、私に関係ないんだ」
「関係ないって。いいよ、俺のことなんて気にしなくて。それより、勉強と配信のほうを気にしろよ」
「むぅ・・・」
頬を膨らませていた。
「本当はフユにエッチなことを聞こうとしてたんじゃないですか?」
「そ、そんなわけないだろ?」
「怪しいです」
どうして勉強は苦手のに、そんな勘が働くんだよ。
「もしかして、あいみさんにそうゆうことしようとしてたんですか?」
「してないって」
「じゃあ、何をしようとしてたんですか? 隠そうとするほど、下心見え見えで、怪しいです」
「だから・・・・・・」
「もう、さとるくんなんて知らないです。いつもあいみさんばっかりです」
ぷいっとそっぽ向いた。誤解なんだけど・・・ややこしいな。
「フン」
「・・・・」
目を合わせなくなってしまった。
知らないと言いながら、ソファーを離れる気はなさそうだけどな。
なんでこんなに怒ってるんだ?
すごく機嫌が悪かった。
頭を掻く。
ものすごく不本意だけど、正直に・・・言わないと駄目か・・・。
「わー・・・・男子って、単純ですね。さとるくんもその話題に乗ったということですか」
「なんとでも言ってくれ」
ゆいちゃの機嫌は直ったみたいだけど、大分身を削った気分だ。
早く帰ってほしい。あいみんの動画に癒されないと、精神が持たない。
「女を落とす方法なんて、フェミニストが聞いたら怒りますよ」
「男同士の会話だからな」
「そっか。そうですね。じゃあ、無罪です」
「あ、そ・・・・・・」
にこにこしながら左右に揺れていた。
弱みを握られてしまった。
「じゃあ、さとるくん、その、女を落とす方法とやらを、私に試してみてください」
「は?」
「絶対落ちないですよ。私も多少強引なほうが好きですが、そんなふうに語れるものじゃないです。どれだけフユの言っていた方法が、馬鹿かって照明してあげます」
「・・・・・・」
いたずらっぽく笑っていた。
絶対落ちないとか言われると、なんか、腹立つな。
「わかったよ」
ゆいちゃの横に座って、ソファーに手を置く。
本人がいいって言ってるんだからいいだろ。
「えっ?」
「言っておくけど、聞いたこと試してるだけだからな」
「わ、わかってます」
ゆいちゃは強い口調で言っていたが、ちょっと震えていた。
体は小さくて、腕の中に納まっている。
「今日はいい天気だな?」
「そ、そ、そ、そうですね。明日もいい天気らしいです・・・・」
「ゆいちゃはどっかに行くの?」
「私は・・・んと、ダンスとか行きます。練習に、はい・・・」
肩をこわばらせて、緊張しながら話しているのがわかった。
まぁ、可愛いよな。
確かにこれは、不意を突いて、強引に押し倒してしまいそうだったが。
ここはまだ引き返せるうちに、理性をフルに働かせて、と。
「はい、終わり。何もしないって」
手を離した。
てか、ここからキスしたりって、フユは一体どうやってたんだよ。
まず、どのタイミングでキスが出てくるのかわからん。
「え?」
「まぁ、そうゆう馬鹿みたいなことを、教わってただけだから。りこたんには、事故だったとか、適当に言っておいてくれ」
ゆいちゃがぱっと手を握りしめてきた。
「ん?」
「さとるくんの手大きいです」
「そうか?」
小さい頭で、こくんと頷く。
「!?」
これは、フユの言ってたボディータッチとかしてくる嫌がっていないルートじゃないのか。
攻めるべき、と言ってたけど。
「・・・・・・」
なんつって。俺もそこまで馬鹿じゃない。
多分、リア充だったら勘違いしてたな。
「さとるくん、あの、さっきびっくりしちゃって、ぎこちなくなっちゃいましたが、続けても・・・・」
ゆいちゃが言いかけたときだった。
「おじゃまします。さとるくん、この前は変な誤解しちゃってごめ・・・」
「!!」
りこたんがいきなり入ってきた。
瞬時にゆいちゃと離れる。ソファーから落ちそうになった。
「え、え、今、ゆいちゃとさとるくんが」
「何もしてないですよ。えっと、さとるくんが手相が気になるっていうから見ててあげたんです。生命線が長いみたいです。今は、お、落とし物拾おうとしていたのです」
何も落としていないから、スマホを落としたふりをしていた。
「そっか。そうだったの。手相ね、なんか流行ってるもんね」
「そうです。流行ってるんです」
流行ってるなんて聞いたことないが・・・。
りこたんが鈍くてよかった。いや、別にやましいことなんて何もしてないけど。
「私、てっきり・・・」
ごくりと息をのむ。
「さとるくんは、男が好きだから、葛藤とかあって、ゆいちゃに慰めてもらってるんだと思って・・・」
「俺は普通に女が好きだっ」
思わず立ち上がって、はっきりと言い放った。
どんだけストーリー膨らませてるんだよ。
「そうなの?」
「そうだ」
「誰が好きなの?」
「それは・・・・・って、どさくさに紛れて何聞いてきてるんだよ」
あぶねー。ゆいちゃは隙を突くのが上手すぎる。
「とにかく、りこたんの心配することは何もないから、安心してくれ。まず、男が好きだったら、あいみんのオタしないだろ」
「そっか、なるほど。それもそうね」
りこたんが口に手を当ててから、ほほ笑んだ。
「誤解してばたばたしちゃったお詫びに、クッキー持ってきたの。食べる?」
「食べるー。さっきからいい匂いすると思ってました」
「ありがとう」
りこたんが絨毯に座って、テーブルに紙袋を置いた。
開けると、チョコチップクッキーが出てくる。
「美味しそうだな」
「ふふ、久しぶりに焼いてきたの。熱々のうちに食べて。のんのんにレシピを聞いたから、絶対美味しいから」
コップに麦茶を注ぎながら、冷や汗が引いていくのを待っていた。
ゆいちゃと勉強以外で2人きりになるのは危ないな。色々と。
 




