102 タブにはご注意を
「こんな・・・1と0しかないなんて、回答の意味わかりません」
「2進法だよ。俺らがいつも使ってるのは10進法。コンピューターでよく使うからな」
「そんなの初耳です」
「多分、授業では話してると思うわ。書いてあるだろ」
俺の家に、朝からゆいちゃが来ていた。
英語を重点的にやるように言ったが、聞いてきたのは数学Aだ。
みらーじゅ都市とか、最先端技術みたいなところに住んでるのに、結構コンピューターの初歩的なこともわからないのか。
「えー・・・・」
「例えば俺の年齢は2進数で10011、16進数は13だ」
「なんか・・・さとるくんが怖いです」
「・・・俺はお前の数学の点数のほうが怖いよ」
再テストしても8点・・・。最初正解していたところは間違ってるし。
現役・・・高校1年生でも、こんな点数取ったら戦慄するな。
「琴美ちゃん帰ったんですか?」
「今日1日図書館で勉強して、明日最後の夏期講習受けたら帰るよ」
「あはは、琴美ちゃんはすごいですね。努力家です」
解説に線を引いていた。
「ゆいちゃだって努力家だろ?」
「私は好きなことなので、頑張って当然です」
「ん・・・・・・?」
「私もスパチャたくさんもらうのですが、こうやって世の中の人たちが嫌なことも頑張ってやって稼いだお金なんだなって思うと、ちょっと申し訳なくなってしまいます。私、もっともっと頑張らなきゃいけないです」
「・・・・・・・」
俺もVtuberファンの一人だけど、推したいから推してるんだけどな。
そのために今日も夜からバイト入れたし。
「そんなに・・・」
「あーっ!!!」
ゆいちゃがいきなり、パソコンのモニターに駆け寄っていく。
あいみんファンによるブログを映していた。
「あいみんのファンブログだよ。変なことは書いてないって、配信の見どころをまとめたり、同人系のグッズを紹介したりしてるんだよ」
「違います・・・こっちです」
「!?」
げ・・・・。
まずい。やばい。タブを閉じ忘れた。
エロ動画と同人のページが載っている。
「制服の美少女と・・・えっこっちは、野・・・」
「ストップストップ、読み上げるなって」
「あ・・・さ、さとるくん、こうゆうのが好きって・・・」
頬を手で覆っていた。
モニターの前に立って、マウスを取り上げた。
かなり、タイトルで中身までわかってしまうくらい、きわどいタイトルだ。
確実に年齢制限を設ける作品で・・・もちろん、ノーマルなものだけどさ。
「タイトル暗記してしまいました」
「っ・・・・」
その能力勉強で使えよ。
「たまたまだからな。女子高生ものじゃなくて、もっと大人の女性の・・・・ってそうじゃなくて」
わたわたしながら、変なことを口走っていた。
何、ゆいちゃにさらけ出してるんだろう。
「・・・・さとるくん、制服が好きなんですか?」
「い・・・いや、たまたまで、でも普通だろ。こうゆうのに興味を持つのは」
「普通です。なるほど、です。普通です」
マウスを動かして、すぐにタブを閉じた。
ツイッターで教授が講義で同じことをやったのが流れてきたのは見たけど、まさか自分まで同じことをするとはな。
ゆいちゃがソファーに座ってふぅっと息をついていた。
俺、どれだけゆいちゃに弱み握られてるんだろ。
「さ、勉強しましょうか」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
何も触れられないやつが、一番怖い。
今の沈黙、すげー怖い。
何考えてるんだ? 普通に参考書を開いていたけど・・・。
「さとるくん」
「はい」
「誰かに言ったりしないから安心してください。別に引いてないですよ。男の子ってそうゆうものだって聞いてますし」
「・・・・・・」
嘘だろ。明らかに口数少ないし、目を逸らしてくるし。
「えっと、じゃあ、今日は天気いいですね」
「そうだな」
ぎこちない。天気いいって言ったけど、雲かかってるからな。
「・・・・・」
何書いてるかと思ったら、二次関数の線をぐちゃぐちゃなぞってるだけか。
態度に出やすいな、ゆいちゃって。
「さ、さ、さっきのは18禁なので、私は見ちゃ駄目です。もちろん私もエチエチなシチュが好きなほうなので興味はありますが、検索しないでおきます。タイトルもばっちり記憶しましたが、検索はしないですよ」
「・・・そうしてくれ」
さすがに、あれを見られるとか地獄だろ。
まぁ、実際に、高校でもう卒業している奴も多いのが事実。
そこのところ、法整備的にはどうなんだよ。はっきりしてほしい。
何の知識もなく、そうゆうことするほうが危ない気がするんだが。
ペンを回した。
今の法律なら、もし、俺が二十歳になって年下の子と・・・・。
「さとるくん、今何か妄想しました?」
「してないって、何も」
「さとるくんは、今は、教師なのです。教師と生徒ですからね。エチエチなことなんて考えちゃダメなのです。ちゃんと真面目に勉強してくださいね」
ぴしっと指をさしてきた。
「わかってるって。それに、勉強するのはお前だからな」
「さとるくん・・・制服か・・・・」
「・・・・・・」
聞こえてないし。ゆいちゃの前では何も考えられないな。
「おっじゃましまーす」
あいみんが元気よく入ってきた。助かった。
「本当だ。ちゃんと勉強してるね、あーこのグラフ、私も苦手。ゆいちゃ、勉強は順調?」
「はい、ばっちりです」
何がどうゆうふうにばっちりなのか知らんが。
「どうしたの? なんかあった?」
聞くと、あいみんが後ろに手をやって背筋を伸ばした。
「今日は重要なお知らせに参りました」
「重要なお知らせって?」
「それはですね・・・・・」
思わず、息をのむ。
推しからの重要なお知らせって言葉、反射的に身構えるんだが。
「ごほん。60万人感謝企画は、厳正なる投票の結果、絶叫乗ってみたに決まりましたーわーわー」
あいみんが自分で言いながら拍手していた。
可愛い。癒される。
「えっ・・・絶叫乗ってみたって、絶叫マシンに乗るんですか?」
「うん、もちろん。絶叫乗るVtuberって、なかなかいないし」
そりゃそうだな。
世の中のVtuberはみらーじゅ都市の技術とかないから普通にモーション動かして配信してるし。
「お化けじゃなくて安心した。お化けついてきちゃったら夜も眠れないもん」
ゆいちゃがペンを落としていた。
「ぜ・・・絶叫ですか。もちろん、楽しみですが・・・」
そういえば、ゆいちゃって絶叫駄目だったな。
「みんな絶叫大丈夫なの?」
「たぶん、大丈夫だと思うよ。私はジェットコースターとかすっごく好き。もう、だーいすき」
満面の笑みで言う。ゆいちゃがちょっと怯えていた。
「どこに行くの?」
「日本最大のジェットコースターがあるFUJIメリーランドがいいんじゃないかって」
「FUJIメリーランド・・・」
「ねぇ、さとるくんも行こうよ」
「いや、俺は映ったらまずいし」
「こうやって忍者みたいに隠れながら。へへへ、気を付ければ大丈夫だよ」
ゆいちゃの後ろに隠れて見せた。
あいみんがやると尊いけど、俺がやると不審者だ。
「でもな・・・万が一もあるし」
「周囲の人映しちゃいけないから、AIロボットくんチェックも入るんだよ。ね、一緒に行こうよ」
「じゃあ・・・バイトのシフト入れないでおくから、日程決まったら言って」
「了解、ゆいちゃ、大丈夫?」
「だ、大丈夫ですよ。全然、大丈夫です。いろいろあって、フリーズしただけです」
「いろいろ? あー詰め込みすぎたの? たまにストレッチすると、頭もクリアになったりするよ」
あいみんがにこにこしながら言う。
「はい。一つ問題を解いたら」
「・・・・・・・」
2進数の説明してたのに、解けないまま別のページ見てるし。
ゆいちゃの動揺がすごい、まったく大丈夫じゃなさそうだな。
 




