101 チャンネル登録者数感謝企画はどうする?
「誕生日占いですよ」
「え?」
「昨日は4月4日生まれの人の最強の日。テレビでダッタラー佐藤がテレビで言ってたんですよ」
「ダッタラー佐藤って誰?」
「有名な占い師さんです。女優のナナコちゃんの結婚も当てたんですよ」
「・・・・・・・」
んなの、偶然だろ。って言葉を飲み込んだ。
舞花ちゃんと琴美が来る時間までカフェで話していた。
昨日と変わって、夏の晴天の日差しが降り注いでいる。
「昨日お兄さん、最強だったんです」
んなことはなかったが。
「舞花ちゃんに、俺の誕生日言ったことあったっけ?」
「小さいころ誕生日会に私も呼んでもらったんですけど・・・」
「あ、そっか。ごめん、俺、あんま小さいころ覚えてないから」
アイスコーヒーを飲みほした。
「琴美と同じ4月だからって一緒に祝ってたんですよ。ケーキ食べたり、楽しい思い出です」
おそらく、琴美のわがまま聞いてて、舞花ちゃんまで見えてなかったな。
ゆいちゃが俺の誕生日知ってるわけないし。
偶然だろうな。最強の日とか・・・。
「つか、最強の日ってなんだよ」
「うーん、とにかく運のいい日なんです。テストも満点、出会い運も最強、親友も恋人もできるみたいな。だから、本当は昨日会いたかったんですよ」
アイスティーの氷を回しながら言う。
「テストも満点・・・って。随分とあやふやな」
「そうゆう特別な日だったんですよ。運命の日です。その日に会った人は、ずっと一緒にいられるとか、数年に一度のスペシャルな日です。あ、7月ですしなんだか、七夕みたいな・・・」
「わかったわかった」
どんどん話が壮大になっていく。
舞花ちゃんの想像力の方向性は結構メルヘンだ。
「・・・・・・」
胡散臭いな。女子ってどうしてこう、非科学的なものを信じられるんだろう。
大体、この世界の4月4日生まれの人口は何人いると思ってるんだよ。
そいつら、みんな昨日一斉に恋人できるわけないだろうが。
「何かいいことありました?」
「な・・・ないよ。大雨だったし、どこにも行けなかったし。家には琴美がいるし」
あいみんとゆいちゃが来たくらいだな。
「そうだったんですね。安心しました」
頭を掻く。
「で、Vtuberの活動はどう? 順調で、曲を出すって聞いたけど」
「はい。もう曲はもらっていて、来月レコーディングして、動画アップと同時にデビューします。ゲームの声とかも、依頼されたりして。練習中です」
「へぇ、すごいな」
「ありがとうございます。早く高校卒業して、こっちに来たいです」
「そうか」
満面の笑みを向けてくる。
今はクラスメイト以外、俺しか男がいなかったから俺のことを好きだと言っているけど、上京していろんな男を見れば考えも変わるんだろうな。
まぁ、少し寂しい気持ちもあるが・・・どちらかというと、琴美に好きな男ができる感覚に似てる。
俺も、さすがに、妹の友達は恋愛対象に見れないな。
「そういえば、『VDPプロジェクト』のチャンネル登録者数60万人いきましたね。今年始めたのにもう60万人だなんてすごすぎます」
「えっ・・・」
「まさか、チェックしてなかったんですか?」
「・・・い、いろいろ忙しくて」
全然、チェックしてなかった。50万人超えたことすら知らなかった。
どうして。なぜ、そんな重要なことを見逃したんだ?
結城さんから連絡もなかったし、そもそもあいみんたちとは会ってるのに、何も話してなかったけど。
ゆいちゃでさえ・・・。
「・・・・本当にあいみさん単推しなんですね。『VDPプロジェクト』はみんな推してるんだと思ってました」
「忙しくて見逃してただけだよ」
「お兄さんが好きなものを推していいと思います。あいみさんは、やっぱり可愛いですし」
言いながら少しだけ拗ねてるのを誤魔化していた。
「あいみんは最推しだけど、『VDPプロジェクト』も推しだよ。もちろん舞花ちゃんがデビューしたら、舞花ちゃんも推すし」
「へへへ、よかったです。安心しました」
ストローの袋を結んで端に置く。
「50万人までは大変だけど、50万人以降は結構100万人いったりするんですよ」
「ナナカツは290万人だもんな」
「私もそこを目指さないと」
「あまり気を張らずに頑張ってね。チャンネル数少なくても応援頑張るからさ」
「あー、舞花、やっと見つけた。ずっとLINEしてたのに」
琴美が鞄を肩にかけて近づいて来る。
「あっ、ごめん。ミュートにしてた。さっきまで、会社のほうで話してたから」
「もう、はい、お兄ちゃん」
「なんだよ。この鞄」
「参考書、重いから持って帰って。私、舞花と渋谷見て回ってから帰るから」
ため息をついて、鞄を受け取る。結構、重いな。
「わかったよ。遅くならないようにな」
「はーい。舞花、渋谷のね、可愛い雑貨屋さん見つけたの」
俺のいた席に琴美が堂々と座っていた。
「そ、そうなんだ」
「あれ? 舞花、顔赤い?」
「外で電話してから戻ってきたら暑くて」
琴美と舞花ちゃんが楽しそうに話していた。
「・・・・・・」
なんで当たり前に妹の荷物持ってるんだかわからんが・・・。
まぁ・・・兄って大変だよな。
「おじゃましまーす」
あいみんの動画を見ていると、あいみんとりこたんが家に入ってきた。
「どうした?」
「えーっと、えーっと・・・・・」
あいみんがにこにこしながら、両手を握りしめていた。
「夏休みスペシャル配信をすることになりました」
「60万人記念だよね」
「うん、うん」
りこたんがスカートを押さえながら絨毯に座った。
「さとるくんは50万人突破してたの気づいてた?」
「・・・っと、ごめん。今日知った」
「私もさっき知ったの」
あいみんの声が少し大きくなる。
「私は結城さんと連絡とってたから知ってたけどね。みんなの夏休み前頃から、踊ってみたと歌ってみたで忙しくて」
あいみんが目をきらきらさせていた。
「三原色踊ってみた歌ってみたもそうだし、ヴァンパイアも56万再生いったし、最近、『VDPプロジェクト』が熱い」
「よかったな」
「うん」
嬉しそうに頷いた。
「60万人突破の感謝スペシャル配信で、何がいいかアンケート取ってるの」
りこたんがスマホのツイッター画面の映していた。
「あれ? ツイッター見てなかった」
「さっき、更新したばかりだから。あ、もうこんなにリプきてる」
1分前の更新に10個くらいリプがついていた。
「どれどれ? どんな企画がきてるの?」
「あ、私これがいいな」
一番下の、一文を指さす。
「心霊スポットで肝試し・・・って、えー」
「意外だな。りこたんって肝試しとか大丈夫なの?」
「幽霊とか占いとか非科学的なものは信じないの。でも、肝試しは楽しい」
矛盾しているような気がするが・・・かなり、意外な一面だな。
「さとるくん、心霊スポットとか大丈夫なの?」
「いや、俺は別に。そうゆうの信じないし」
「さとるくんまで・・・怖い怖い。止めようよ」
あいみんがりこたんを必死にゆすっていた。
「まだ決まったわけじゃないんだから」
「どうやって決めるの?」
「リプにきたのでできそうなのをAIロボットくんがピックアップして、ツイッター投票よ」
りこたんがあいみんの背中をポンポンしながら言う。
ちょっと怯えて、ぷるぷるしているあいみんも可愛かった。
「さとるくん、絶対肝試しに入れちゃダメ」
「あ、肝試しリプにいいねが10個もついてる」
「えー。だって、肝試しして、お化けとかついちゃったらどうするの?」
「私がお祓いしてあげるから」
「りこたん、幽霊信じてないのにお祓いできるわけないじゃん」
あいみんがばたばたしていた。
りこたんが楽しそうにあいみんをいじっている。
肝試しとかどうやるんだろう。心霊スポットってのは、不法侵入になる可能性もあるから・・・。
やるとしたら、お化け屋敷配信が無難だろうな。




