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俺の推しは裏切らない!  作者: ゆき
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100 花火大会中止!?

 花火大会当日、俺も東京の花火とか、そこそこ楽しみにしていたんだけど・・・。

「お兄ちゃん、残念だったね」

「・・・・・」

 琴美が鞄を持って、嬉しそうに覗き込んでくる。


「こんなに雨降ってたら花火大会も、当然中止だよ」

「そりゃそうだな」

「あー残念だなー。お兄ちゃんが花火大会行けなくてー」

 声を弾ませていた。


「・・・性格悪いな。友達なくすぞ」

「こんなこと言うの、お兄ちゃんだけに決まってるでしょ。友達に言うわけないじゃん」

「あ、そ・・・・」

 スマホをスクロールする。神奈川では河川氾濫情報が出ていた。

 数年に一度の大雨注意報が出ていた。

 不要不急の外出は控えてくださいとのことだ。


「私を置いていこうとするから、こうゆうことになるの。私だって花火大会行きたかったのに」

「お前は夏期講習だろうが」


「う・・・それはそうなんだけど。あー早く受験生から解放されたいな。バイトしてイベントとか網羅したい」

「あと1年だろ。A判定出てたって落ちるんだから気を抜くなよ」

「わかってるって。私、勉強について、慢心しないようにしてるもん」

 凛としていた。

 本当、性格さえよければ、自慢の妹なんだけど・・・。

 性格でマイナス99%くらいいくからな。 


「来年の春、笑えるように頑張るよ」

 体を伸ばしながら言った。


「重・・・数学の参考書が・・・ちょっと抜いてこ」

 一番分厚い、数Ⅲの参考書を抜いていた。

 それは、抜いたほうがいい。

「電車止まることもあるから、気を付けろよ」

「大丈夫よ。こんな雨の中行きたくないけど・・・仕方ないな。いってきます」

 帰りの電車、普通に止まりそうだな。

 琴美は電車が遅れたときの東京を知らないから心配なんだが・・・。


 満員の山手線とか乗れるんだろうか。 

 まぁ、何かあったら連絡してくるだろう。



 問題は、あいみんたちなんだけど・・・。

 連絡しても返ってこないし、こっちの状況わかってるんだろうか。

 すべて用意して中止って知ったら落ち込むだろうな。


「さとるくーん」

 あいみんがいきなり入ってきた。

 普通の恰好に、髪だけアップにして簪を付けている。


「雨こんなにすごいのびっくりしちゃった。ちょっと濡れちゃったよ」

「ずっと連絡してたんだけど」

「あ、慌ててたから、スマホ置いてきちゃった」

 ぺろっと舌を出す。腕が少し濡れていた。


「延期・・・とかあるかな? 延期、延期」

「あぁ、さっきサイト見てたんだけど、延期はないって書いてあったから、中止だな」

「えーショックだよー」

 ガーンと、口を開けていた。


「楽しみにしてたのに・・・ほ、ほかの花火大会とかあるかな?」

「8月はたくさんあるよ。9月になると少なくなっちゃうけど」

「そうだよね。だよね。また見つければいいもんね」

 あいみんがふらっとしていた体を戻していた。


「みんな、こっちのこと知ってるの?」

「多分知らない、浴衣着ちゃってるかも。ちょっと、みらーじゅ都市に行ってくるね」

「うん」

 あいみんがパタパタしながら家から出ていった。

 あいみんの浴衣姿、見たかったな・・・髪アップしただけで、大人っぽくて雰囲気が違った。

 絶対、似合う。似合わないわけがない。 


 問題はゆいちゃだ。あんなに楽しみにしていたし。

 まぁ、花火大会は今日じゃなくてもあるしな。

 ちゃんと次があることも説明すれば・・・。




「うぅ・・・・うぅ・・・・」

 肩をふるふるさせていた。


「な、泣くことないだろう? 花火大会くらいで」

「だって・・・だって・・」

 ゆいちゃが浴衣で、花火セットを持って家に入ってきた。

「泣くなって、んなことで」

「うぅ・・・・」

 入ってくるなり、絨毯にぺたんと座って泣き出していた。

 泣くほどじゃないと思うんだけど・・・。意味がわからん。


「だって、雨が降るなんて、聞いてなかったです」

「そりゃ、天候だからな」

「楽しみにしてたのに・・・すっごく楽しみにしてたのです」

「・・・・・・」

「私雨女かもしれないです。花火もう、見れないかもしれないです」

「大げさだな。んなわけないって」

 頭を掻いた。泣かれるとどうも困る。


「花火大会はまたあるから」

「でも、中止じゃないですか」

「ほかの花火大会があるから。そっちに行けばいいだろ」

 涙を拭きながら、ちらっとこちらを見てきた。

 浴衣姿なのもあってか、可愛くてドキッとする。


「今日行くと思ってたんです。火曜日の今日なのです。今日がいいのです」

「・・・・無茶苦茶な・・・」

「あっ・・・せめてこの花火セットだけでも」

 花火セットを掲げた。


「いやいや、無理だって」

「うぅ・・・さとるくんまで冷たいです・・・」

 駄々っ子かよ。小学生でもこんなことで泣かないぞ。


「・・・全然、慰めてくれないですし」

「さっきから、ずーっと慰めてるだろ」

「違います。慰めるって言うのはもっと、辛いね、とか、俺も楽しみにしてたのにショックだよ、とかそうゆう寄り添ってくれることを言うんです。もっと、よしよしとかしてくれたり・・・」

 まつげを濡らしたまま、身振り手振り動かして説明してきた。


「ちゃんと心のこもった慰め方をするのです。さとるくんからは早く帰ってくれないかなってのが出ているんです」

「・・・・・・・」

 んなもん、知るかよ。

 元気じゃねぇか。面倒くさいな。


「じゃあ、ゆいちゃ、もしかして俺に甘えに来たのか?」

「!?」

「なるほど、なるほど。そんなに俺と花火大会行きたかったと」

「・・・・・」

 ちょっと攻めてみようと思う。

 弱ってるところを突くのは気が引けるけど、やられっぱなしじゃな。

 今日はいいだろう。理不尽なこと言われてるんだから。


「いつも子ども扱いしないでって言ってるのに、こうやってわざわざ俺の家に来て泣いてるしな。どう考えても、俺に慰めてもらいたかったってことだろ?」

「・・・・・」

 頭をぽんぽんと撫でてみる。

 ちっちゃくて、髪がさらさらしていた。


「可愛いところあるんだな。ゆいちゃも。甘えたかったら、素直にそういえばいいのに」

「そうですよ。甘えに来たのです」

「え・・・・?」

 ゆいちゃがいきなり体を近づけてきた。花火セットがぱたっと落ちる。

 目を潤ませながらこちらを見上げる。


「え・・・と・・・・」

「・・・・・とか・・・素直に言ってみました」

「・・・・・」

 俯きながら、頭に置いた手を握りしめてきた。

 小さな手だった。


 なんだ? この感覚。

 心臓をきゅっとつかまれるような・・・変な感覚だ。


 ブーブーブーブー


 スマホが大音量で鳴った。

「っ・・・・」

 はっとして、離れる。バランスを崩しそうになりながらスマホを取った。

 琴美からだ。


「えっと、私、帰りますね。すみません、なんか、火照っちゃって」

「あ、あぁ・・・・」

 ゆいちゃが花火セットで顔を隠しながら玄関ほうへ走っていった。


 電話を取る。

「もしもし」

『あれ、お兄ちゃん、電話遅かったね。誰かいたの?』

「・・・少し寝てただけだよ。どうした?」

 深呼吸して平静を装った。


『電車途中で止まっちゃって、今武蔵小杉なんだけどものすごく混んでるし、振り替え輸送ってどうすればいいの? うわ・・・すごい人』

「落ち着けって、物だけは落とすなよ」

『出口がどこかわからないんだけど? 人に流されて・・・乗り換えが』

 絶対、こうなると思った。

 琴美は頭はいいけど、東京の交通状況は知らないからな。

 振り替え輸送の乗り換え方法を説明しながら、ソファーに寄り掛かる。



 浴衣のゆいちゃは強かった。強火力だ。

 弱ってるのに、返り討ちにあってしまった。

 こんなときに、強く出るから罰が当たったのかもしれないが。

 そもそも、俺が弱すぎるんだろうな。こうゆうの。


 ぎゃーぎゃー焦る琴美をなだめながら、窓の外を眺める。

 バケツをひっくり返したような雨だ。


 そういえば、どうして今日の花火大会をあんなに楽しみにしてたんだろう。

 花火大会なんて、夏休み中ならいつでも見られるのに。

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