プロローグ 俺は3次元推しを辞めた
「今日で卒業しますー」
「みいなー今までありがとうー」
大声で叫ぶ。
涙ながらにペンライトを振った。
アイドルグループ、ガールズドールの最推し佐倉みいなの卒業コンサートだ。
「みなさん、今まで佐倉みいなを応援してくださり、ありがとうございました」
深々とお辞儀をして、仲間に抱き着かれていた。
感動は家に帰ってからも収まらなかった。
高校3年間のすべてを捧げて、彼女だけを応援し続けて、彼女だけを見てきた。
進路も佐倉みいなのコンサートを見に行けるように東京の大学を選んだ。
受験勉強しながらの、アルバイト生活は辛かったけど、佐倉みいなを応援するためだったら・・・。
でも、卒業コンサートは終わった後、涙があふれて止まらなかった。
数々の、握手会は間近で彼女を見られる唯一のイベントだった。
認識はしてもらえなかったかもしれないけど(というか、無理に決まってるが・・・・)、いつもにこにこして手を握ってくれた。
でも、いいんだ。
コンサートで彼女が見れなくなっても、彼女がいなくなったわけじゃない。
時間が経てば、Youtuberとして出てくるかもしれないと思っていた。
一人暮らしのアパート、新しい生活、まだ全部片付いたわけじゃない。
段ボールから、佐倉みいなのブロマイドやDVDを一つずつ眺めながら思い出に浸っていた。
東京を歩いていれば、どこかで佐倉みいなに会えるかもしれないんだから。
ふと、スマホを開く。
衝撃的な記事が飛び込んできた。
― 佐倉みいな電撃結婚、お相手は若手俳優の ―
戦慄した。
佐倉みいなが結婚だって? 思わずよろけて、積み上げられたブロマイドを崩す。
嘘だろ?
何かの間違いじゃないのか? だって、彼女はアイドルで・・・・。
テレビを付ける。
チャンネルを変えていくと、ワイドショーで『佐倉みいな電撃結婚』の文字が出てきた。
『佐倉みいなです。実は以前からお付き合いしていた俳優のXさんと結婚することになりました。今まで応援してくだ』
ぶちっとテレビを消す。
いやいやいやいやいや。
マジかよ。嘘だろ? 以前からっていつだよ?
冷や汗が止まらない。
放心状態で外を眺めていた。
俺が推し続けた高校の3年間、彼女は男がいながら活動していたっていうのか。
笑顔も・・・愛想笑いで・・・・・。
推しと結婚どころか付き合えるなんて思ってないけどさ・・・。
俺の青春3年間が終わってしまった。
あんなに可愛いんだ、イケメンと結婚するだろう。
俺だって、彼女だったらそうする。
ただ、頭が付いていかないだけなんだ。
涙は出なかったけど、空っぽの気分だ。
次の日、淡々と佐倉みいなのグッズやポスターを引っ越しのゴミと共に出した。
ネットオークションに出している人もいたけど、切り替える気力がなかった。
SNSでは文句を言ってる人もいた。
気持ちはわからないでもない、俺だって文句の一つや二つ、言いたかったさ。
でも、仕方ないんだ。
俺が推してたのは3次元だったんだから・・・。そもそも、間違っていたんだ。
こうして俺は、3次元推しを辞めた。




