船を進めて
言い切った彼女の眼は力強い決意に満ちていた。
死にに行くつもりか?だとかそんなありきたりで陳腐な事を相手に言わせないだけの迫力が確かにそこにあった。こっちをとらえる碧眼から目をそらすようにお茶に口を付ける。
あ、このウーロン茶うまい。
「あなたはあれから出てきました。私が思うに、あれは船なのではないですか?荒唐無稽なことを言うようですが、湾内に船が入ってくるのが見えず海中から出てきました。海に潜って進む船なのではないですか?」
図星を突かれて思わずお茶を吹き出しそうになった。
なんというか、頭の回転が速そうなのが伝わってくる。
「仮にそうだとしたら?」
「海中には海面よりスピードが速い流れがあると聞きます。その流れに乗れれば私をスパニアまで連れていけるのではないですか?」
「私の国、クロノス王国は港町の国です。領民を愛し、海の幸と製塩技術で成り立っているだけの小さな国です。私はその美しい祖国の為に魔女として処刑されなければいけないのです」
「いいの?処刑もスパニアに行くのも嫌なんでしょ?」
「それは・・・すみません、失礼します」
急に俯いた王女はそのまま立ち上がると、ゆっくりと食堂を出ていくのだった。
自分の分の食事を終え、彼女の分は後で運んでもらうことにする。
ギョウザの具のような炒めたひき肉をパンにはさんだサンドイッチはいまだに実感がないこの世界が本当だというかのように美味しかった。
実際にスパニアまで彼女を連れていくとしても、武器装備や、食料は揃えておかないといけないし
オウムガイ号の事ももっと知らないと旅をしようにも出来ないだろうし。
案内をしてくれているドロイドにスパニアまでの距離と帆船で行く場合の距離をきいてみる。
「だいたい一か月前後って事は、少なくても暫くは余裕があるって事だよな」
オウムガイ号がどのくらいで進むのかはわからないが、高速帆船のクリッパー船で18ノットくらいだったはず。ノーチラス号と同じスピードなら50ノットは出るはずなので今から出発しても単純計算で1週間ちょっとで到着するはず。
ただし、こっちの世界の物理法則が同じならだけど。
船が難破したのを国が知れば救援か調査の船が組まれるはずだ。
調査で船が難破したのが分かれば死んだことになるはずだし別段彼女を送って行ってスパニアで死ぬ必要はないようにも見える。
何をするにもまずはこっちの世界の常識を知るところからではないだろうか
「魔法とかはあるの?」
「魔法と呼べるほど強い力をもっているのはエルフ族などの妖精族のみです。人族だとせいぜい奇跡とよべるくらいの小さな現象しか起こせません」
「規模の問題なのね。魔法があるなら魔物とかもいるのかね?」
「攻撃的な生物種は存在しますが人間を含めてすべての生き物は命石とよばれる結晶を体内に持ちます。その中でも力が強い魔石と呼ぶ生物種を魔物と評すことがあります。」
やっぱ魔物じゃん。でもいまの言い方だと例えば馬とか牛とかの一般的な動物も魔石を持つことになる。
「突然変異で人間種でも強い力を持つ魔石を持つ人間種は存在します。瞳に特徴が現れることが多く、琥珀色の瞳を宿します」
アナ王女の眼は碧眼だった。琥珀色の瞳が魔女として恐れられているとかならともかく彼女は違う。
一体何が彼女を死地へと追いやるのだろうか。
「ここからクロノス王国にはどれくらいで行ける?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
アナ王女が港に泊まっているオウムガイ号をただぼーっと眺めている姿は、月明かりも相まって美しい絵画のようだった。
「いまだに私が助かったのが夢のようです。もしかしたら私はもうあの海の底にいて、死ぬ間際の夢を見ているのかと思うと震えが止まりません」
気付いたのか、ぽつりぽつりと語り始める。
「私は、第三王女として生まれて海のそばで育ちました。姉二人も兄も私を優しくしてくれて、臣民たちも私に優しくしてくれました。生まれながらもった魔力も国の発展に使えると救国の聖女なんて呼ばれながら国に民に仕えてきました」
「それならなぜ?」
「スパニアは、とても強大な国でした。宗教を広め教え、逆らうものは異端審問にかけて殺し、宗教侵略と言えばいいのでしょうか。逆らえば国ごと殺すと…仕方なかったのです。一番魔力が強く、王位継承にも影響がない私が、魔女として死ななければ・・・」
国が亡ぶのだと、泣きながら彼女はそういったのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その後泣き止んだ彼女と話し、彼女をスパニアまで送っていくことになった。
その前にもう一度だけクロノス王国に戻り、家族に別れを言いたいという事で準備ができ次第クロノス王国に出発することにした。
「処刑されるなら、魔女ではなく王女として死にたいね」
武器屋で護身用の武器をそろえる、普通の剣とかもあったが(恐らく難破船からの鹵獲品)光剣という武器を見つけて思わず手に取ってしまう。
ってこれどう考えてもラ○トセイバーだよね。
フォトンサーベルというらしい。形はどう考えてもあれだけど。
武器を腰につけたら出発の準備を整えるため真水を給水する。食料品はオウムガイ号のキッチンに放り込んだ。
この基地にバルカン島と名前を付けるとスマホのマップにバルカン島と表示されるようになった。
バルカン島は外見は木も生えていない岩山で、入ろうにも洞窟を抜けなればいけないのでここに人が入ってくる心配はなく、心置きなく船を発信できる。
一応安全のためアナ王女には居住区から出ないように伝える。
万が一アナ王女が襲ってきてもこっちは武装しているし、大丈夫だとは思うけどね。
操舵室に戻ると、俺はゆっくりとオウムガイ号を発信させたのだった。
ゆっくりとPV数が増えてきていてうれしいです。
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