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このお姫様は、一体何を言っているんだ。


「ゴホッ、ゲホッ」


ほらご覧、後ろで貴女の美しき騎士が必死で笑いを耐えているわよ。耐えすぎて噎せてるわよ。

いいの? 美しき騎士が笑い死にそうなところ、見なくていいの? 私は見たいわ。


なんて、考えている場合じゃない。


「ねえ、アナ。いいえ、アナベル様」


リリアは相変わらず、ルークのことは無視である。


「私ね、ずっと貴女のことを考えていたわ。貴女に会うことを、どれほど待ち望んでいたか。アナベル・ブラウン様…赤い髪と、赤い瞳、私の憧れの人…」


リリアの気迫に圧されて、私は何も言えずに彼女を見上げる。

なるほど、いくら美少女でも、意味もわからず押し倒されると怖いんだな。新しい知見を得たわね。


「正直に申し上げますと、私、貴女の見た目が狂おしいほど好きなのです」


わあ、本当に正直に言ったな。


「でも貴女の中身は…性格は、それはもう残酷で、卑劣で、悪逆非道の擬人化のようなものだった。それでも私は、美しい貴女に幸せになって欲しくて、ただそれだけの為にここへ来たのだけど」


リリアの目から、一筋の涙がこぼれる。

それはもう、朝露の如く美しい涙である。

なのにどうして私は、震えが止まらないのか。


「私が思っていたアナベル様と、貴女は違った。使用人達の態度を見れば分かります、貴女はとてもお優しい方。そして、ロファも」


彼女の声が、すぼむように小さくなった。


「顔色も良いし、着ている服も上等なもの。貴女に怯えるどころか、あんな笑顔まで浮かべて。それに…それに…」


リリアが思いっきり息を吸い込む。

そして、叫んだ。


「あの子、ルークに嫉妬していましたわ!」


「リリア様、うるさいですよ」


やっとルークが口を挟んできた。

しかし、リリアの勢いは止まらない。


「アナベル様がルークの顔を見つめている時の、ロファの表情を見ました!? それはもう不機嫌な! もし彼があの時、ラベンダーではなく庭木用の刈り込みバサミを持っていたら、それでそのままルークの喉を突き刺す勢いでしたわ!」


「そんなに!?」


私とルークが同時に叫ぶ。

リリアと私たちでは、見えている世界が違うらしい。


「ロファが案内を代わると言ったのも、アナベル様とルークを早く引き離したかったからなんだわ。ああなんてこと、私の知らない間に、私の知らないストーリーが出来上がっているなんて…!」


「リリア様、落ち着いて。というか声のトーンを落として。そしてベッドから降りてください」


そう言いながら、ルークはリリアの脇に手を入れ、小さい子どもにするように軽々と抱き上げた。

ストンと床に降ろされたリリアは、本当の幼子のようで、私は思わず両手で顔を覆った。


「イケメンはすぐそういうことする…」


「はい?」


「いえなんでもないです」


コホン、と咳払いをして、私はベッドから起き上がった。

乱れた髪を手で大雑把に払うと、リリアが銃で撃たれたかのように胸を押さえてその場に崩れ落ちる。

大丈夫かこの子。


その時だった。


「あの、何かあったのですか」


部屋の外から、グレースの声が聞こえた。


彼女はアナベル付きのメイドだが、今日は休みを取らせていたので朝から出かけていたはずだ。

とは言っても住み込みメイドなので、ちょうど今しがた帰ってきたのだろう。


「な、なんでもないのよグレース」


私はしどろもどろになりながら応える。

そりゃあ、あれだけ大声を出していれば、誰だって何かあったのかと思うだろう。


「あら、アナベル様? ここはお客様用のお部屋のはず…今は確か、リリア様の…」


「そうなの、さっきまでリリアに屋敷を案内していて、今はお部屋でお喋りをしているところでしたの! ごめんなさいね、ついはしゃいでしまって! うるさかったかしら!」


別に嘘ではない。嘘ではないのだ。

扉の外で、グレースが戸惑う顔が目に浮かぶ。


「そうでしたか、それなら良いのです。申し訳ありません、お邪魔いたしました」


私の予想とは反してグレースはどこか嬉しそうにそう言うと、部屋から離れていったようだった。

私はどっと息を吐き出して、熱っぽく見つめてくる美少女と申し訳なさそうにしている美青年に向き直った。


「とにかく、お二人共椅子に座ってください」


私は立ち上がると、二人に椅子を勧める。

正直、今の状況は意味がわからない。

しかし、なんとなく察しもつき始めていた。


二人がちゃんと椅子に座ったところで、私は彼らの前に仁王立ちし、ずばり言った。


「貴女達は、どこまで知っているの」


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