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「ロファ!」


そこには、私が先程まで自慢していたご本人がいた。


完全に浮かれていた私は、ロファの手を引いてリリア達の前まで連れてくると、胸を張って紹介した。


「彼が、さっき私が言っていた庭師のロファよ。あのねロファ、こちらの二人は…」


父からは、リリアとルークのことは、知り合いのお嬢さんと従者ということで話を通せと言われている。

だから他の使用人達にはそういう体で話をしていた。

ロファも例外ではなく、同じような説明をした。


「はあ…」


短い紹介の後、ロファは特に興味がなさそうな返事をした。

普段はこんな無愛想ではないはずだが。


見ると、リリアがロファのことを見て固まっている。

ロファは攻略対象の一人だ。

これはもしや、恋愛フラグが立つのでは…?


私はなんとかして話をもたせようとして、ロファが抱えている紙袋に目をつけた。


「買い物に行っていたのね。何を買ったの?」


「ああ、これですか」


ロファはやっと笑顔になると、紙袋から何かの苗を取り出した。


「ラベンダーです。夏になる前に植えようと思って」


「あら、いいわね。ここには他にもたくさん花があるし、リリアとルークも、今度一緒にお茶会でもしましょう?」


私が振り返ると、リリアは私ではなくロファの方を見ながら頷いた。


これはこれは、お姫様もお目が高い。


ゲームのロファは、リリアに出会った時点でかなり病んでいたけれど…ここにいるロファは、私がこの数年間兄弟のように接し、共に花を愛で、すくすくと好青年に成長した優良物件。

リリアが惹かれたとしても不思議じゃない。


あわよくば二人でくっついちゃっても…

あっでもルークもいるしな。どうなんだろう。

こんな綺麗な顔の男性が隣にいたら、リリアも目が肥えちゃってるかもしれないし…いやでもどっちも攻略対象だから問題はないはず…


「アナベル様」


ふいにロファに呼ばれて、私は飛び上がった。


「ハイなんでしょう!?」


「…まだ案内があるのでしたら、僕が代わりに引き受けましょうか?」


おやおや?これはもしや、リリアと一緒に屋敷を回りたいってことでは…


と、思ったのだが、ロファはどことなく不機嫌そうである。

それを見て、私は慌てて首を振った。


「いいえ、私がお父様に頼まれたことだもの、私が最後までやるわ。それに、案内するのは楽しいし…」


「そうですか」


ロファは最後まで聞かずに、ふいっとそっぽを向いて歩いていってしまった。

なんだか更に不機嫌になってしまったような…


しかし、ここで追いかけてもリリアとルークを放ったらかしにしてしまうだけだ。

私は適当に誤魔化すと、二人を連れて庭を離れた。




一通りの案内を終えて、私は最後に二階にある彼らの部屋に連れていった。


もちろん部屋は別々だが、リリアとルークの部屋は隣同士にしてある。

気軽に会えた方が気が楽だろう、という父の配慮なのだろうが、ルートによってはこの二人が結ばれることもあると知っている身としては、なんとも言えない配慮だ。


でもまあ、二人がくっつく分には申し分ない。

私はそれを友人目線で愛でるとしよう。


「はい、じゃあこれ」


私は二人にそれぞれの部屋の鍵を渡した。

しかし、ルークが訝しげな顔で私を見てくる。


「失礼ですが、この部屋のスペアキーはあるのでしょうか?」


「へ?」


そんなことを聞かれるとは思ってもいなかったため、私はつい間抜けな返事をしてしまう。


「スペアキーなんて、私は知らないけれど…」


「では、マスターキーは?」


「マスターキー? うーん、お父様なら持ってるかもしれないけれど…どうして?」


私の言葉に、何故かルークの方がぽかんとしている。

私は何か変なことでも言っただろうか。


「ねえ、アナ…」


横から、リリアに声をかけられた。

私がそちらを向くと、リリアは顔を真っ赤にして、潤んだ目で私を見ていた。

うわめっちゃ可愛い。いやそうじゃなくて。


「リリア、どうなさったの?どこか具合でも悪いの?」


異常を感じ取った私は、慌てて彼女の腕を取って自分に引き寄せた。


その瞬間。


「いけませんリリア様!」


ルークが叫ぶと同時に、私はリリアに部屋へ押し込まれた。


私がリリアの腕を持っていたはずが、いつの間にかリリアに腕を掴まれてしまっている。

それはもう一瞬の出来事で、抵抗すら出来ず…というか、この子力強いな?さっき手細ーいって思ったばっかりだったんだけど。


部屋に連れ込まれた私は、何故かそのままベッドに押し倒された。

目の前には、赤い顔のまま息を荒らげる美少女が…


「リリア?あの…」


「もう我慢できないわ…!」


そういうとリリアは、いきなり自分の顔を私の顔の横に押し付けた。





「スーーーーーハーーーーー」





なんだ。


なんだこれは。


吸われている。

髪の毛を吸われている。

厳密に言うと、髪の毛の匂いを嗅がれている。


「っっっやっぱりいい匂いがする!」


耳元で、エンジェルボイスが何か叫んでいる。


私は意味がわからないまま、されるがまま、匂いを嗅がれるままである。


「これは薔薇の匂い…薔薇といえば花…花といえばロファ…やっぱりそうなのよそういうことなのよ!」


「いやどういうことなの?」


私は震えながらツッコミを入れる。


リリアはガバッと起き上がると、横たわったままの私の両肩を掴んで更に叫んだ。


「あなたロファとはどこまでいってるの!?」


「…………………」


沈黙。


静まり返った部屋で、リリアの荒い呼吸音だけが聞こえる。


しばらくの間のあと、私はゆっくりと深呼吸して、言った。


「なんて?」


「ゴフッ」


後ろでルークが咳き込んだ。


いや違う、あれは吹き出した声だ。

待って、ルーク笑ってるの? 見たいんだけど?

クールな推しが吹き出すほど笑ってるところ、見たいんだけど? てか笑ってる場合じゃねーぞ?


「ねえアナ、あなたロファとデキてるでしょう」


ルークのことなど見向きもせずに、リリアは畳み掛けてくる。


「できてるって何が」


「ロファと、そういう仲なのでしょう?」


「いや、違うけど…」


「え?」


「え?」




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