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それから、リリアの今後についての話し合いがトントン拍子で進んでいった。


リリアのブラウン家での立場は、あくまでゲームと同じ同居人。居候みたいなものである。


ただ、ゲームではこれは名目だけのものだった。


身寄りのないリリアはアナベルによって使用人以下の扱いを受け、アナベルの両親も娘可愛さに見て見ぬふりをしていた。


ルークはいつもリリアを守るために奔走していたが、アナベルの命令によって他の使用人たちも敵に回ってしまい、心身ともに大きな傷を負ってしまう。


そして、リリアがルーク以外の攻略対象を選んだ時の、ルークの最期は…


いややめよう、思い出すと涙が出る。


そんなことを考えているうちに、話し合いは終わっていた。


「アナベル、二人に屋敷の案内をしてやってくれ」


父が私に言った。

ゲームでは、彼らの案内は使用人がしていたような気がするが、正直そこまで覚えていない。


父からリリアとルークの部屋の鍵を貰い受けると、私は彼らを連れて父の書斎を後にした。


さあ、ここからが正念場だ。

人間、第一印象が大事である。


私はクルリと後ろを振り返り、リリアとルークに向き直った。

ルークが露骨に顔をしかめてきたのが気になったが、私は自分史上最高の笑顔でリリアに手を差し出した。


「さっきお父様からも紹介があったけれど、アナベル・ブラウンと申します。どうか、仲良くしていただけると嬉しいですわ、リリア様」


リリアは、ビクリと肩を震わせた。

そしてすぐに私から目線をずらすと、少し顔を赤くして俯いた。

私は何かしてしまったか心配になったが、彼女はしっかりと私の手を握り返してくれた。


「…ええ、こちらこそ、アナベル様。ですが、私はもう皇族ではないので、どうかリリアとお呼びください」


「そう?じゃあ私のことも、気軽にアナと呼んでくださいな。これからよろしくね、リリア」


「は、はい、よろしくお願いします」


うん、近くで見ると本当に可愛い。

それになんか良い匂いもするし。

そして手が細い!柔らかい!!

大丈夫か私?キモいセクハラおじさんみたいになってないか?よし、うん、次に行こう次に。


リリアから手を離すと、私はルークにも手を差し出す。

もちろん、気持ちを表に出さない完璧な微笑みを湛えて、である。


「あなたは確か、ルークといったかしら?あなたも、私のことはアナと呼んでね」


「…よろしくお願いします」


うわー!すごーい!顔が綺麗!

若干しかめっ面なのも気にならないくらい、顔が綺麗!

ものすごくどうでもいい話だが、前世の私の一番好きなキャラクターはルークだった。

え?今私、最推しと会話して握手してる?

死んでしまうわこんなの。前世で死んでるけど。


などという心の声は飲み込んで、表の私は冷静を演じていた。

だっていきなり「顔が綺麗ですね」とか言われたら、絶対引かれるに決まっている。


「それでは、まずは屋敷の一階からご案内いたしますわ」


自分が美男美女を連れている事実にスキップしそうになりながら、私は廊下を歩き始める。


前世の記憶が戻った時は、とにかく自分が没落しないようにと思っていたが、そもそも私がリリアを虐めさえしなければ何も起こらないのだ。


つまり、今日からは目の保養が増える。

ただそれだけの話。


父の書斎は二階だったので、私は二人を連れて階段を降りると、食堂や応接室、厨房の中まで案内した。


住み込みで働いている使用人たちを一人一人紹介し、食事の時間や屋敷の決まり事などもついでに伝えておいた。


「それと、お屋敷の自慢はこの庭よ。全てロファが手入れをしてくれているんだけど…」


そう言いながら私はロファの姿を探したが、見当たらない。買い物にでも行ってしまったのだろうか。


「ロファというのは、庭師のことですか」


今まで黙ってついてくるだけだったルークが、突然尋ねてきた。


私は話しかけられたことが嬉しくて、ブンブンと頭を縦に振った。


「そうなの、ロファはとっても良い庭師なのよ。どんな花でも綺麗に咲かせるし、植物のことならなんだって知ってるわ。あと、手先が器用で、よく木彫りの小物を作って見せてくれるの。この前は猫の置物を作っていて…」


思わず早口で捲し立ててしまったことに気づき、私は慌てて口を閉じた。

今日会ったばかりの人間に、知らない人間の話をされても面白くないだろう。


「えーと、私…」


「いいえ、続けて」


謝ろうとした私を遮って、はっきりとリリアが言った。

見ると、何故かリリアは真顔…というか、鬼気迫るような表情をしている。


「どうぞ続けて」


さっきよりも強い口調で言われて、私はたじろいだ。

どうした、何が起きてるんだ?


「リリア様」


ルークが窘めるように言うと、リリアもハッとしてまた俯いてしまった。


「ごめんなさい、何でもないわ」


うん、一体どうしたのだろう。


「…アナベル様?」


すると横から、聞き覚えのある声がした。


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