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私と母が連れていかれたのは、父の書斎だった。


開かれた扉の中に入ると、そこはインクと、父がよく使う薔薇の香水が混じった香りがした。


整理された本棚に机、そして中央に置かれたソファーには、ひと組の男女が腰かけていた。

彼らは私たちに気づくと、立ち上がって一礼した。


「頭を下げる必要はないよ。今連れてきたのは、私の妻と、娘のアナベルだ」


父は彼らに言った。

それを聞いておずおずと頭を上げた二人の顔を見て、私は密かにため息をついた。


二人のうち一人は、女性のように美しい顔立ちの青年だった。

背はロファと同じ…170センチ後半くらいだろうか、肩につくかつかないか程の金色の髪を後ろで束ねている。

父に紹介されるまでもなく、私は彼を知っていた。


彼の名はルーク。

ヒロインの従者であり、乙女ゲームの攻略対象の一人。


つまり、その隣にいる少女は…


「紹介しよう、この方はリリア・ホワイト様、リファラ国の皇女様だ」


父の言葉に、隣にいた母が息を飲む。


私はというと、目の前の少女をじっと見つめていた。


リリア・ホワイト。亡国リファラの姫君。

ルークと同じ金髪碧眼で、サラサラの長い髪と透き通るような肌を持つ。

このゲームのヒロインであり、主人公。

そして私が…アナベルが、これから虐め抜くはずだった人。


可愛い。可愛すぎる。

こんな天使みたいな女の子、二次元でしか見たことないんですけど。

いやまあ、ここも二次元みたいなもんだけどさ。


「ご紹介にあずかりました、リリア・ホワイトと申します」


鈴の鳴るような可愛らしい声で、リリアは言った。

すごい、声ですら天使。

隣の母がおろおろしながら、父を見上げる。


「リファラの皇女様って…そんな、でも」


「既にご存知かもしれませんが、私の故郷であるリファラ国はもうありません。なので、敬称は必要ありません」


リリアは淡々と言葉を紡ぐ。


「城を含む全ての国土と権限は隣国のアルベリア大国に吸収され、あの土地がリファラと呼ばれることもなくなるでしょう。アルベリアの国王は私を自分の息子に嫁がせるおつもりだったようですが…それは、破談になりまして。思い切ってこのミネール国までやって来た次第です」


あまりにも事務的なリリアの言い方に、私はどこか違和感を覚えた。


リリアといえば、その容姿もさることながら、中身も生粋の女の子。

か弱くて純粋で、ゲームのこの場面だと、確かろくに喋ることもできないくらい憔悴していたはずだ。

でも今は、泣いた痕跡もないほど綺麗な顔で、しっかりと立って話をしている。


それに、彼女が私のいるミネール国に亡命した理由として、アルベリアの王子との政略結婚から逃れるためというのもあったはずだが…さっき、リリアは破談になったと言っていた。


ゲームでは、破談にはなっていなかったような。

むしろ破談が許されないから、彼女はここに逃げてきたのであって…?


「リファラの国王とは、昔から交流があってね」


父が話し始めたことによって、私の考えは遮られた。


「ホワイト家はアルベリア国で丁重に扱われることになったのだが、彼女はまだお若い。せっかく皇族という肩書きが消えたということで、どうせなら国の外を見てみたいと仰ってね。国王に…彼女の父親に直々に頼まれて、うちで一時的に預かることにしたんだ」


???


ちょっと待って。


ホワイト家が丁重に扱われることになった?

まずそこがゲームと違う。確か、皇族であるホワイト家は、リリア以外は全員処刑されたはず。


あと、国の外を見てみたいだって?

あの保守的で大人しいリリアが?

ゲームでは、泣いて国に戻りたいと言っていたリリアが??

本当に言ったの?人違いじゃないの?


というか、一時的に預かるって。

うちはホストファミリー的な立ち位置なの?留学か?

亡命と留学って同じ意味だっけ?


私、大混乱である。


これは、私の知ってるストーリーじゃない。



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