8.お願い事
コンコンコン……
控えめに執務室のドアをノックをすると、すぐに執事のカルタムがドアを少し開け左右を伺った後、足元にいるリーシェルに気付いた。
「おや、どうなさいましたか?お嬢様」
朗らかな笑顔のカルタムにお父様への取次をお願いする。
今更になってお仕事が終わる夜まで待った方が良かったかしらと心配になるが、少し間があいてから大きく開いたドアに少し肩の力を抜きお父様にご挨拶をした。
「お父さま お願いがあって まいりました」
「おや、珍しいね。なんだい?欲しいものでもあるのかな?」
眉尻を下げて嬉しそうなお父様に2本指を立てて上目遣いをする。
「2つ、お願いが あります。
お勉強を 早く はじめたいのです」
指をひとつ折り、人差し指だけのばして続ける。
「もうひとつは、6才からの おしろのパーティー…… 行きたくないの……です……」
最初のお願いはすぐに通るだろうと思っていたからすんなりと言えたが、次のお願いはダメ元だったからかだんだん小さな声になってしまった。
思わず両手を胸の前でモジモジさせてしまうリーシェルにお父様は少し考えながら顎をさする。
「ふむ、家庭教師にすぐ来てもらえるよう手配しよう。……城のパーティにはどうして行きたくないんだい?」
優しい声で問うお父様にもしかしてこれイケるかもしれないと、希望の光がさす。
「しょうらいの こんやくしゃさまと 会うより、お父さまと たくさん いたいのです」
目を見開いたお父様のキラキラした表情に教会の鐘の音が聞こえた気がした。