74.誕生日といえば
「今年の誕生日こそ父に目一杯プレゼントを用意させておくれ。俗物的でないのはお前の良いところかもしれないが、審美眼を養う為にもいい物に触れておくべきだよ」
もうすぐ娘の12歳のお誕生日だからと、お父様は最近浮かれ過ぎな気がする。
毎年お誕生日に欲しい物をリクエストしていたけど、お父様が用意したいものとは違ったらしい。
去年は羊毛フェルトが作りたくて領地で羊を飼いたいとお願いして20頭の羊をプレゼントされた。まだ試作品しか作れていないし、やっと材料や製法の書類をサンドル商会に送ったばかりだ。
一昨年は砂糖をたくさん使ってお菓子を作れるように甜菜を育てたいと言うと、領地に甜菜畑を作ってくれた。
その前の年は搾りたての牛乳が毎日飲みたいとお願いしたら領地で乳牛を飼育してくれた。その数30頭。
前世から乳製品大好きだったからすごく嬉しかったけど、そんなに飲んだらお腹くだすわ。
ちなみに去年プレゼントされた羊ちゃん達は、この牛舎の横に畜舎を建てて住んでいる。
そんなこんなで結構欲しいものはおねだりしているのだけれど、お父様的にはやっぱりドレスとか髪飾りとかをプレゼントしたかったみたい。
定期的にドレスも仕立ててもらっているのに「そういうのじゃなく、とびきり可愛い衣装を……」って、今年こそと息巻いているみたい。
そんな豪華な服着てもパーティに出るわけでもないし、見るのは家族だけなのになあ。
まあ、お父様が見たいって言うならいいか。これも一種の娘の務めだと思おう。
今日は昨日から言付けておいた厨房を使わせてもらいに、動きやすい服装に着替えてから向かう。
やっぱり誕生日といったらバースデーケーキが欲しいものね。
自分の誕生日の為に作るのは少し虚しい気持ちもなくもないけれど。
この世界ではケーキと言えばパウンドケーキが主流……というかそれしかなくて、ふわふわのスポンジケーキなんて食べたことがなかった。
パウンドケーキだって中に何かを混ぜて焼くという事もしてなかったから、昔領主邸でオレンジやほうれん草のパウンドケーキを作った時はすごく衝撃的だったらしい。
お父様はちゃっかりマクレガー領の名産品としてサンドル商会から販売したみたいだったけど。
ふふふ、すまんがその時よりもっと驚かせてやんよ!
ふわふわのスポンジケーキと生クリームを引っさげてな!
っと、いけない いけない、なんか変なテンションになってしまったわ。
淑女にあるまじき歩調で歩いていた事に反省して楚々とした歩き方で進むリーシェルだった。




