69.閉店ガラガラ
平民の識字率はとても低い。そんな中孤児院の子供達がどうやって平仮名を覚える事が出来るか思案し、アランお兄様と異世界版“あいうえお表”を作成した。
できるだけ身近で生活に密接している物をイラスト付きで描きあげ、浴室やトイレ、みんなが寝る部屋の壁に貼り付けたのだ。
するとどうだろう、芋の“い”や卵の“た”など食べ物の文字から興味を持ち覚えていってくれた。
この結果をお兄様と一緒にお父様に報告すると、直ぐさまサンドル商会と連絡を取っていたのでおそらく今頃販売されているのだろう。
そうそう、ラベリングではシスターに物凄く感謝されたのよね。
子供達がイラストを見ながらなんでも出来るようになってきたから、以前より大分時間に余裕ができたって。
シスターは自分の時間も身銭もきって孤児のお世話をしていたのだから、これからは休憩くらいはしっかりとれるようになるといいんだけど。
「はぁぁ、終わったー」
新しく入った男の子、アゴストのラベルを描き終えたリーシェルはそのまま両手を上にあげ、椅子の背もたれに寄りかかりながら伸びをする。
冷めてしまった紅茶を飲み干して今度は机に突っ伏したリーシェルは「お行儀が悪いですよ」とララにお小言を言われるも全く気にした様子もない。
「今日はもう閉店ー。ガラガラー」
このやり取りも何度目かのララはくすりと笑う。
「今度の領地視察はアラン様は行かれないのですよね?でしたら是非、私がご一緒したいです」
「そう……よね。お兄様も学園が始まっているし、次はララについて来てもらえたら心強いわ」
アランお兄様は今年から学園に入学している。王都邸からは馬車で20分程なので通いで通学しているが、併設された学園寮に住む人も半数くらいいるらしい。
3年後には『薔薇色の宝石』のヒロイン、メニカ様も寮に入るのよね。
寮の部屋でヒロインが魔力暴発させちゃって、補修の為急遽1日だけ外泊する事になるのよ。
その時点で一番好感度の高い攻略対象に、家に誘われるお泊まりイベントなんだけど、またスチルが良いのよねー。
お風呂上がりのしっとり濡れ髪で「少しだけ話せないか?」って部屋を訪ねて来るのよ!濡れ髪で!!
おっと、私の性癖はどうでもいいんだった。そう、お兄様が学園に通いだして寂しいって話しよ。
朝と夜は会えるけれど、ゆっくりお話する時間はあまりないしやっぱり寂しい。
朝なんて食事の時に挨拶して、後はいってらっしゃいって声をかけるくらいだもの。
最近はお父様も朝から出掛ける事が増えたのよね。お兄様にいってらっしゃいって言っていたの、羨ましそうにしていたけど、まさかね。
リーシェル父、用事は本当にあるが朝一から出掛けるのはリーシェにいってらっしゃいしてもらいたいから。




