67.苦手な魔法
「もうだいぶ魔力の凝縮にも慣れてきたようですね。次回からはリーシェル嬢お一人でも問題なさそうです」
どうやらユグドル先生に手を添えてもらっての魔力凝縮も今日で卒業みたいだ。
次からは自分で濃度や量を見極めなくてはならないので、残りの魔石もしっかりと集中して魔力を込める。
ぎゅーっと固めのおにぎりをゆっくり握る時のように、でも決してお米を潰さないように……
魔石に少しずつおにぎりを食べさせるつもりで満腹具合を見極める。
次々に魔力を込めた魔石が増えていき、ひとつひとつ確認するように見てから麻袋にしまうユグドル先生に「お見事です」とお墨付きをもらえた。
この魔石、驚いた事に領主邸に行く時の馬車にも使われていたらしい。
魔石を嵌め込み風の力でスピードを上げていたという。
初めて聞いた時には3年以上その馬車に乗っていたのに全く気づかなかった事に驚いたが、馬車の揺れにより結構な頻度で寝ていたせいだろうと妙に納得した。
魔石に魔力を込め終わってからは火魔法の訓練が始まる。
水魔法と風魔法は私と相性が良かったのか中級まであっさり習得し、土魔法ももうすぐ中級をマスターし終わりそうだ。聖魔法は初級まで終わったが、ユグドル先生も初級までしか教える事ができないそうで一旦終了になった。
ただ、火魔法は少し苦手意識があるからかまだ初級の為、ここ最近はもっぱら火球ばかり練習している。
「火球!」
ううっ、お父様もお兄様も火属性を持っているのにどうして上達しないのかしら……。
手のひらの上で大きくした火の球を前に飛ばそうとするとどうしても小さくなってしまうのだ。かろうじて真っ直ぐ飛ぶようにはなったが、スピードは鈍く子供でも避けられるだろう。
「リーシェル嬢の火のイメージはどのようなものですか?」
前回と大差ない火球の原因を考察してきたユグドル先生はそう質問する。
「イメージ、ですか?火は……熱い、燃える、痛い、ですかね」
「そう、そこなんです。大体の人は火の魔法を使う時にその火を使って『燃やす』事を考えます。ただ、リーシェル嬢のそれは自分が受けた時の気持ちになって魔法を発動している。だから威力が落ち、スピードが出ないんだと思われます」
前のめりで説明すりユグドル先生はニカッと笑って続ける。
「水や風、土魔法はだいたいコントロールできるのにどうして火だけと思っていましたが、おそらく恐怖心からくるものではないかと」




