2.記憶の中の私
待って、過去に産まれたって可能性もあるんじゃないかしら?
今のこの身体はどう見たって日本人じゃない。いいとこの貴族のお嬢様…はっ!中世のヨーロッパ的な感じ?!
世界史はあまり得意ではなかったけれど、国の名前が分かれば今どう言う状況なのかわかるかもしれない。
今まで5年生きてきて国の名前を知る機会はなかったと思う。
「ララ、この国は なんていう 名前?」
明るい黄色のふわっとしたワンピースを着せてもらいながら、鏡越しにララを見る。
「チュオウーノ国ですわ、お嬢様。チュオウーノ国の王都の南側、マクレガー領のご領主様が旦那様ですよ」
お父様はご領主様だったわ!!
でも待って、チュオウーノ国なんて聞いたことない…頭の中で歴史の教科書をめくるも全然ピンとこないもの。
世界史得意じゃないなんて言ってごめんなさい、苦手だったかも…
もうこうなったら前世の記憶の整理をした方がいいかもしれないわ。
前世の日本の……平成が終わり令和になって……
名前は莉奈だけど、苗字はなんだったかしら……
そこそこの田舎でコンビニまで徒歩15分、最寄り駅までのバスも1時間に1本で……
やだ、肝心な事は全然思い出せない!何か他に覚えている事……何か……
あっ!確か高校を卒業して社会人2年目で……もうすぐ新入社員が各部署に配属されるけど仲良くなれるかしらって不安に思っていたのよね。
人見知りだからあまり会話がないような仕事って事で工場で検査の仕事をしていた。
仕事が終わると家で本を読むのが好きで、最近はライトノベルを読むようになった影響で乙女ゲームなんかもするようになって……
あまり人に会わないように夜中に近所のコンビニに出かけた時に珍しく猪が赤ちゃんを連れてゾロゾロ道路脇を歩いてて、子連れの猪だーなんて呑気に見てたら道路に飛び出したウリ坊を避けようとしたトラックがこっちに突っ込んで……
あぁ、そうか、あの時死んだんだわ……
夢ややりたい事も特に無かったし、特別仲良い友達もいなかったからか、莉奈の死はびっくりする程スッと受け入れられた。
家族も仕事に忙しく無関心で無干渉な父と母だったもの、私の死は悲しんでもらえたのかしら……
「お嬢様?どうなさいました?ご気分が優れないようでしたら朝食はお部屋にご用意致しましょうか?」
少し暗い表情をしていたみたいでララに心配をかけてしまった。
「いいえ、大丈夫です。5才から はじまる お勉強が 少し しんぱいだったのです」
「それでしたら文字の読み書きから少しずつ始まるので、お嬢様でしたらきっと大丈夫ですよ」
良かった、5歳になったらつく家庭教師のお勉強への不安だと誤魔化すことに成功したみたい。