19.お祖母様に近づこう 1
「アランお兄様、私……お祖母様ともっとお話ししてみたいわ」
「そう……リーシェは優しいから2人の事が放っておけないんだね。僕も同じ気持ちだけど、お祖母様はまず部屋からなかなか出てこないし、どうするつもりだい?」
アランお兄様の微笑みに勇気付けられ悪戯っぽく笑った。
「ムスカに協力してもらおうと思ってるの」
翌日、朝食を終えると厨房に向かう。
リーシェルは朝早く起きて身支度を済ませ、ムスカに厨房を使わせてもらう許可を取りつけていた。
侯爵家の子供が厨房に入るなんてと止められるかと思ったが意外にもすんなり受け入れられた……と言うよりもむしろどこか嬉しそうにも感じた。
「急にごめんなさい。端の方でいいの、少し調理場を借りるわね」
「いいえ、お嬢様、とんでもないっス。お手伝いするっス」
「お父様が昨日お土産に持ってきてくれオレンジを使いたいんだけれど、材料の場所やオーブンの使い方がわからないからその時だけ教えてもらえるかしら」
そう言うとルッツと名乗るまだ10代であろう少年は材料や器具を出すのを手伝ってくれた後、皿洗いやカラトリーの拭き上げをしている料理人達の元に戻っていった。
リーシェルはオレンジを切り、果汁を絞り粉をふるう。ボールに次々と材料を入れていきさっくりと混ぜて型に流し入れ、上にもオレンジを飾った。
ルッツを呼びオーブンの温度の調節をしてもらう。
「後は焼き上がりまで待つだけね」
「いやー、それにしてもお嬢様手際良かったっス!よく作ってるんスか?」
あら、やっぱり見られてたのね、視線はあちこちから感じてたのよね。厨房の入り口にはこっそりムスカまで覗いているし……
「そうね、以前何度か……それよりも、お祖母様が好きな食べ物や苦手な物なんか教えて欲しいの」
「あー、大奥様は特に嫌いな物は聞かないっスね。好きなもんは……サッパリめの味つけが良かったはずっス。あとはお茶の時よく甘いもの一緒に食べてるっス、いつも茶菓子の皿空っぽになって返ってくるっスから」
「まぁ、じゃぁお祖母様は甘味が好きなのね!普段はどういったものを出しているのかしら」
「そうっスね……」
そのまま焼き上がるまでルッツとお茶菓子の話しで盛り上がった。