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第六話『何にせよお金が必要なので!』

「まぁ、だからモンスターだから怖い。人間だから安全って考えはないかな。モンスターでも優しいひとは優しかったし、人間でも怖い人は怖かったよ。見た目通りの人もいたし、見た目に反した人もいっぱいいた。此処は特にそういう世界でしょう。だから私にとっては襲って来るひとが敵。それがモンスターだろうと、人間だろうとね」


 防具屋でチサトの防具を一通り買い揃える。彼女は冒険者でもなんでもないので最低ランクのものしか装備出来ないが、それでも何もないよりはマシだ。そもそも服装だって元は生贄用の儀式衣装から私の予備を貸している状態なので、先ずはそこから着替えることになった。

 チサトの体格は私よりも小柄で、そして私よりも胸の辺りが控えめである。お陰で随分ぶかぶかと私の服を着ることになってしまっていたので、その辺りは動きやすく過ごしやすいようにぴったりとサイズを合わせて貰った。


「……フジさんは、色々経験されてきたんですね」

「そりゃあ、何百年も生きてますから。今よりもっと亜人種との関係が悪かった時代から知ってるよ。そういう私の感覚で言えば、今は平和だね。戦争も前より少ないし、亜人種たちとも大体は共存出来てる」

「……そうなんですね」


 チサトの感覚ではあまり想像出来ないのか、返事の声色が少しぼんやりとしていた。まぁそうだろうな。下手すると彼女のお爺さんお婆さんよりももっと前の時代の話をしているから。

 この世界にも、戦争ばかりの時代があった。亜人種たちと人間たちとの殺し合い。どちらかが滅ぶまで続くと思われたそれは、私が関与しない間に落ち着いてしまって、今の時代へと流れた。

 私は異世界転生したが、どうやら勇者だとか、そういう立ち位置には居ないらしい。不老不死という、割とチートな能力を与えられながら、戦闘面での能力値は平凡かそれ以下。レベルをどんなに上げても元々才能がある人たちには決して届かない程度しかない私は、知識にある物語の主人公たちのような輝かしい活躍なんて出来ることはなかった。

 だから今も尚、こうやって宛てのない旅を続けている。大体は見て回ってしまった、それでも何百年も二度目を訪れてない地域をぶらぶらと移動し続け、新しいものを見つけた気になっている。そんな、暇潰しとしか言えないような旅を。


「チサトはどんなところに移住したい? 今度はチサトの新しい家を探して歩こうと思ってるから、希望聞いておくよ。また山が良いとか、今度は海の近くで暮らしたいとか」

「そんな、私は、助けて貰ったのにっ」

「良いの良いの。目的があった方が私も楽しいし」


 一通りの装備に身を包んだチサトに笑いかけながら、代金を払った。これで後はこの街で過ごす宿代しか残ってないのでやっぱり一度は仕事を受ける必要があるなと思いながら、財布をしまって漸くまともな装備に身を包んだチサトを連れて外に出る。


「次はギルドかなぁ。チサトは冒険者登録は勿論してないよね?」

「は、はい。村から出た事もなかったので」

「なら私の付き添いって形で仮登録だけしておくね。クエストに参加するのに、所謂冒険職じゃない人の職業登録の必要はないけど、何かあった時に困るから名前の登録だけは必要なんだ。構わない?」

「か、構いません。私に何かお手伝いできることがあれば!」

「我も手伝うぞ。腹が減った」

「二人とも頼もしいねぇ。それならモンスター退治のクエストぐらい受けちゃおうかな」


 これぐらいの大きな街のクエストなら仕事の内容にもよるだろうが、一つか二つ受ければ次の街までへの路銀ぐらいは稼げそうだ。他にも色々と日用品なども買い足したいので少し多く見積もって、クエストを選ぶことにしよう。

 大丈夫。こっちには暴食とも言える神様がいるし、良い肉盾になる私が居る。


「出来れば大きいのを一匹倒すようなのが良いんだけどね」


 小さいモンスター相手は面倒だ。特にゴブリンなどは報酬が少ない割に手間がかかるので出来るだけ受けたくない。それならオークやオーガ辺りの討伐の方が断然楽なのだけれど、こんなにも栄えた街の近くにそんな大物モンスターがまだ残ってるとは思えない。居ればとっくにもっと上級の冒険者たちに倒されているだろう。

 ギルドへと向かうと、案の定人冒険者たちが集まっていた。等級は平均して中の上辺り。何人かは明らかに初心者といった見た目の子もいたが、この街の住人なのか。元手は相当あったらしく防具などはしっかりと整えられている。


「おや、フジかい? 久々に会うね。元気してた?」


 受付に向かう途中で、聞き覚えのある声に呼び止められた。見ればこの辺りでは滅多に見られないだろう、高価な魔道具に身を包んだ魔術師。――以前、何度かパーティーを組んだことのある女性がそこに居た。ええと、名前は確か。


「ユリーシアさん、でしたよね。お久しぶりです」

「全く。相変わらず人の名前を覚えるのが苦手なんだねぇ。あたしの事を忘れるなんて酷いじゃないのさ」

「すみません。こればっかりは治しようがなくて。でもユリーシアさんってもっと北の方が活動拠点じゃなかったでしたっけ?」


 腕が絡み抱き寄せられると、私よりも豊満な胸元に顔が埋まる。むぎゅっと、私の胸に隠れて居た神様が潰されてどうやら下の方から逃げ出したらしくそれが擽ったいが、私は私でユリーシアさんに捕まってしまったのでどうしようもない。


「それがね、うちの坊ちゃんがもっと名を上げたいってこっちに出て来たんだよ。全く、まだまだ実力不足だってのに、本当にしょうがない子でねぇ」

「それはそれは。相変わらず苦労されてますね」

「だろう? だからさ、フジが少しはあたしを労わってくれないかねぇ」

「すみません。今は自分も新しいパーティーと組んでるので」


 ユリーシアさんには随分と気に入られていたのでまたパーティーを組んで欲しいとの依頼だろうが、今回はお断りしておく。何せこっちには付き添いのチサトと、――恐らく、大体の人間には受け入れられないと思われる恐ろしい見た目の神様が居る。

 ユリーシアさんは私の身体の事は知っているが、だからって多分神様のことまでは受け入れられないだろう。彼女は亜人種差別などはなかったが、モンスターは徹底的に敵と見做しているタイプの冒険者だ。いやまぁ、冒険者はそういうタイプが多いのだけれど。


「おや、それは残念。ならまた機会があった時に頼もうかね」

「えぇ、その時は喜んで」


 漸く彼女から解放されて、別れる。思わぬ再会があったが、これで私たちは私たちで仕事を受ける事が出来そうだ。

 登録は問題なく。依頼も狙い通りの良いクエストがあった。金額も、難易度も申し分ない。


「……フジさんはお知り合いがいっぱい居そうですよね」

「まぁね。中々こうして再会する事は滅多にないんだけど。私は基本的に流れ者だから」


 ギルドから出ながらチサトとそんな話をしていると、またユリーシアさんと顔を合わせる事になった。向こうもこれからクエストに向かうらしく、簡単な会釈だけしてお互い歩き出す。


「あれの胸はダイナマイトであった」

「潰されてましたもんね、神様」


 これが彼女たちと最後の別れにならなければいいなと、少しだけ思いながら。

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