第四話『別に好き好んで死にたい訳ではないので!』
「だからね、神様。基本的に襲って来る人は、食べていいよ。まぁお話聞きたい時には困るから、そういう時は言うからね」
「うむ。ではこれは問題なく食べて良いのだな」
「うん、良いよ。出来れば骨も残さずに食べてね。後始末面倒だから」
村から離れて数日。早速街道で、女二人旅と舐めてかかって襲ってきた男だけの冒険者たちは漏れなく一人残らず神様のご飯になったのでした。
蛇のサイズから、元の大きさへ。心なしか山で見掛けた時よりも大きくなったようにも感じる神様は、遠慮なくその人の腕と触腕を使って五人の男たちを捕まえ、悲鳴を上げながら逃げようとするのを容赦なく口元に引き寄せて、一気に咀嚼し始めた。
ずるずるっ! ばりっ、ばりばりっ! ぐちゅんっ!
口の部分は大きく開き、山で私が一人が限界だと思ったのは間違いだったと思い知らされる。大の男五人はあっと言う間にばりばりむしゃむしゃ。食べられた。
「、怖くは、ないのですか?」
「味方だし、私は死なないからね。神様、私は食べても良いけどチサトは駄目だよ」
「今は腹一杯だ」
「お腹が空いてても、だーめ」
質量保存の法則を無視してまた蛇のサイズに戻り私の首に戻って来る神様を撫でながら、今までの光景にすっかり怯えてしまったチサトに笑うとチサトも取り敢えずは納得してくれたように男たちの遺留品を漁り始める。
その辺り、指示してなくてもやってくれるのは助かる。彼女もこうなったらどうすべきかは分かって居るんだろう。
流石、神様の恩恵に縋って生きてきた村の人か。
私も一緒に五人分の装備とか、備品を漁り始める。主に狙うのは食料品と、使えそうな日用品。あと小型で売れば高値で取引されそうな代物。
「次の街に行ったら換金して、チサトの装備品も整えないとね」
「有難うございます」
「神様は何か欲しいものある?」
「この寝床がふかふかだからな。問題ない」
「そこは私の胸なんだけどねぇ」
首から谷間へと入り込まれると若干擽ったいのだが、神様にはそんなのお構いなしに胴体を胸の下に巻き付け、谷間に頭部が収まる。うーん、シチュ的には結構エロイ感じになっているんだけど、まぁ神様あんまり動かないし良いか。
「そういえば神様って雄雌あります?」
「両性であるな。種を残す時は基本的に他種族の胎を借りるが。場合によっては他種族の種を孕む事もある」
「わぁ。まさかの異種姦系……」
そういう方向には私もチサトも持っていきたくないけど、どうなんだろう。神様の性欲とか、繁殖欲とかはいまいち分からないのでこれは今後聞いて行くしかないな。繁殖期みたいなものがあったらその期間中は絶対近づかないでおかないと。
「……その、フジさんは冷静ですね。今のお話を聞いても、神様が怖くはないんですか?」
「流石に自分が襲われるのは嫌だけどねぇ。だからって今の神様は心強い味方だし、要するにこういうのは付き合い方をきちんと考えれば良いだけの事だから」
お腹がいっぱいになってどうやら眠り始めてしまったらしい神様をそのまま胸に抱きながら、私たちも荷物を整理して寝床に入る。見張りは要らないだろう。さっきと同じように、何かが近づいてくれば誰よりも先に神様が気が付く。
「それに私、こういうのと旅をするのは初めてじゃないから。今まで色々な人間と旅をしたし、色々な種族と旅をして来た。その中にはモンスターも居たし、人間でもモンスターみたいなやばい人も居たよ」
「、どうしてそんな」
「不老不死で時間は山ほどあって、私は死ななくて。でも死なないだけだからね。一応剣とか、その他の攻撃手段も、魔法も覚えたのは覚えたけど、私が持ってる特別な力は不老不死だけだから。自分より強い者にこうやって守って貰った方が色々と便利だったんだよ。――私だって、好き好んで死にたい訳じゃないからね」
中には思い返せば死んだ方が楽な旅もあった。途中気が付いて、同行するのを止めた相手も居た。そう、例えば。さっきの神様のように私に雌としての役目を求めた相手だって。だから別に今更なのだ。神様だけ特別じゃない。要は付き合い方と、それに見合った対価が得られるかどうか。
今までの経験で考えればこの神様はずっと会話が出来るし、問答無用じゃない。そして用心棒としての能力は相当高い。接近者に気付いてくれる辺りも、本当に助かる。
「……軽蔑した?」
「いいえ、そんな事は……!」
「ふふ、無理しなくていいよ。それにチサトには同じような目に遭ってなんか欲しくないもの」
だからね、暫くの間だけだから。そう言い聞かせて私も意識を眠る事へと向ける。チサトが何か言いたげに、言い掛けていたけれど。それはどれも口に出される事なく、最後には小さくおやすみなさいとだけ響き、彼女ももぞりと動いて眠り始めたようだった。
「……よしよし」
どうやら話を聞いていたらしい神様が、私の頬を撫でる。別に今更悲しくもなんともなかったのだが、優しい気遣いに小さく笑って私は改めて神様を抱き締めたのだった。