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第三話『折角なら仲良く生きよう!』

「うーん。じゃあ私と一緒に行きません? 私さっき話した通り旅をしてるんだけど、まぁ危ないことも多くて。でも死なないから基本的にされるがままって言うか、殺されるなら殺されるままにしてきたけど、流石に夜盗の類をそのままにしておくのはなぁと常々思っていたので」

「我に代わりに食べろ、と?」

「えぇ、良いご飯になると思いますけど」

「ふむ。別に土地の神と言うかそもそも神ですらない我であるからな。良いか」

「神様じゃないんだ」


 なんか、ちょっと聞き流すにはあまりにもな事実があった気がするけど、まぁいいや。いい加減一人旅にも飽きてきてた所だし良い用心棒を手に入れたと思って、改めて化け物、基神様を眺める。

 沢山の轟く腕、触腕。太い蛇の胴体。口を開けば鋭い牙と太い舌。

 あー、これ、は。連れ歩くにはあまりにもビジュアルが。


「神様、可愛い兎とか、せめて蛇ぐらいにはなりません?」

「小型化なら可能だが」

「じゃあそれでお願いします」


 人間サイズから普通の蛇サイズにまで縮む神様をそっと肩に乗せると神様は居心地が良さそうにぐるりと私の首へとその胴体を絡め、さわさわと蠢く腕や触腕を頬へとぺたぺたと押し当てて来る。

 ビジュアルはそのままだが小さくなればまぁ、それなりに可愛いペット、かな。


「えっと、次はこの子起こして連れて行かないと」


 失神したまま地面に倒れている女の子を眺める。放置はあまりにも可哀想だし、だからってあの場では説明しますと言ったが、生贄になった筈の私がこの子を連れて村に戻ったら大事になってしまう。彼女には自力で戻って貰わないといけない。


「起こしたいのか?」


 にゅるりと首から神様が伸びて来る。そして私が答える間もなく、その腕がしゅるしゅると彼女の耳に入り込んで行って――この先は伏せておく。


「ひゃいっ!!?」


 なんとか起きてくれた女の子に改めて微笑むと、その顔からさっと血の気が引いた。それでまた気絶されてしまうとまた彼女があまりにも可哀想な目に遭うので、何とか持ちこたえて貰う。


「ごめんごめん。もう大丈夫だからね。神様は私が連れていくから、もう生贄は要らないって村の人に伝えて。恩恵とかはなくなっちゃうけど、生贄が無くなった方が村の人たちは有難いだろうし」

「、それは」


 私が状況を説明すると、若干気まずそうな顔で彼女は顔を伏せてしまう。これは、なんか、嫌な考えが頭に過るんだけど。


「……もしかして神様が生贄要求してないの、分かってた?」

「……はい。一度だけ、生贄が戻ってきたことがあったんです。彼女は貴方と同じように神様と対話をしました。そして、神様から生贄は必要ないと、伝えられたんです」

「神様、本当?」

「んん、そういえばそんな記憶が無きにしも非ず」


 首元からにゅるにゅると轟く神様に女の子はまた驚くが、それを一度掌で撫でて押さえて話を続ける。


「その、帰ってきた子は?」

「――生贄がなければ困る、と。次の年の生贄に」

「つまり恩恵目当てに続けてた訳だ。困ったな」


 これではこの子を返したところで意味はない。この子は次の生贄に選ばれるし、そして来年もまた生きて戻ってしまえば、その時は――下手をすれば村人の手によって殺される可能性もある。だってもう恩恵はなくなってしまうのだから。そうなれば責任は居なくなった神様にではなく、食べられない生贄の責任になりかねない。


「……君も、私たちの旅に着いて来る? 何処か落ち着けそうな場所を見つけたらそこに移住して良いから。もう村には、戻れないでしょう?」


 結局そんな打開策しか思い浮かばず聞いてみると、彼女は驚いた顔をした。まじまじと私を、首元でうねうね動く神様を眺め、問い掛けて来る。


「私は、何の力もありません。魔法も使えませんし、戦う力も……足手纏いでは?」

「まぁ、別に強いモンスター相手に戦うような旅はしてないからね。危なくなれば私が殺されれば済むし、今からは頼もしい用心棒も居るから」

「我に任されたし」


 えへん、とか聞こえてきそうな感じにえばる神様じゃない神様を撫でながら笑えば、女の子は小さく笑い出した。泣き過ぎたせいで真っ赤に腫れてしまった顔に、漸く笑顔が戻る。


「じゃあ、お世話になります。……私はチサトと言います。貴女のお名前は?」


 座り込んだままの彼女を支えて、私も最近使っている名前を名乗った。


「今は、フジ。死なないからフジ。覚えやすいでしょう?」

「安直過ぎる」

「良いの。どうせ元の名前なんて覚えてないんだし」


 そして、二人と一匹の旅が改めて始まったのでした。ちゃんちゃん。

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