対面
馬車は日が昇りきった頃には、王都の中に入っていた。
噂には聞いていたけど、本当に大きい町……。
それから大きな城の門を馬車ごとくぐった。
なにもかも、規模が違いすぎる。
城が大きいのは当たり前だけど、庭ですらとてつもなく広い。
私的には、森にある家の方が落ち着く気がする。
そんなこんなで、馬車が城の玄関の前に横向きで停まった。
馬車の扉が開けられると、お母さんとルジーナが先に降りたので、それに続いて馬車から降りる。
降りた先には、豪華な服装をしたイケメンな男性と、その両脇に綺麗に1列ずつ並んでいるメイドさん達がいた。
恐らく、メイドさん達が挟んでいる真ん中の男性が、お母さんと結婚した王子様なんだろう。
見るからにそんな雰囲気を醸し出している。
「お帰りサリア。ルジーナも」
「はい、あなた。ただいま戻りました」
「ただいま戻りました。お父様」
男の人がお母さんの名前を呼びながら腰に手を回し、お母さんは少し顔を赤くして満更でもない顔をする。
うわ、なんだろう……イラッとしたのも確かだけど、背中がゾワッとした。
お母さんが私の知らない表情をしてるからかな?
……今のやり取りで、明らかにこの男の人の私の中での評価が下がった。
絶対に痺れ薬を飲んでもらおう。
「お母様、お母様がイチャイチャしたせいで、リナお姉ちゃんがものすごく険しい表情になってます……!」
ルジーナにそう言われたお母さんが、我に返った様子で男の人からサッと離れる。
その様子を見て、お母さんがこの男の人に絆されていることを確信した。
「り、リナ? これは、イチャイチャしたわけじゃないのよ?」
「お母さん、本当は結婚生活が楽しかったんじゃないの? だから10年間、迎えに来なかったんじゃないの?」
そう訊ねると、お母さんの目が明らかに泳ぎ始めた。
「そ、そんなこと……」
「あるでしょ? ほら、目が泳いでる」
「うっ……」
「まあまあ、落ち着きましょう、リナお姉ちゃん。諸悪の根元ならここにいますから」
「ルジーナ、父に対して酷くないか?」
「それほどのことをしでかしたんですから、当然です。ほら、ご挨拶なさってください」
ルジーナに連れられて、男の人は私の前に立たされた。
間近で見ると、イケメンさが増す。
こんな人が旦那さんになったなら、お母さんのあの表情も、納得できないこともない。
「初めまして。クレベリア王国国王をしている、ルクリオ・クレベリアと言う。君のお母さんを10年も引き離してしまったこと、本当に、悪かったと思っている。どうか、許してほしい」
そう言って頭を下げるけど、私の怒りは収まらない。
なぜなら、引き離したことについてはどうでもいいからだ。
問題はそこじゃない。
「勝手に結婚したことについては、謝ってくれないんですね」
たぶん今の私は、とても冷たい声と目をしていると思う。
目の前の男の人が体をビクつかせたのが、なによりの証拠。
「す、すまない! その通りだ! でも、あの時はこの機会を逃したら、2度とサリアに会えなくなると思ったんだ!」
「だったら二人で一緒に迎えに来ればよかったんじゃないんですか? 8歳の頃の私なら、すぐに新しいお父さんとして受け入れられたのに、10年も経ってからじゃ色んな気持ちが邪魔して受け入れられないじゃないですか!」
「全くもってその通りだ。あの頃の自分がなぜそうしなかったのか、悔やんでも悔やみきれない」
「きれい事を言ったってダメです。許しません。あなたは私にとって父親ではなく、私からお母さんを奪った泥棒さんですから、一生その罪を背負って生きてください」
私が言い終えると、泥棒さんは暗い顔をしていた。
反省の色を見せようと、私が許すことは未来永劫あり得ない。
言いたいことは言った。
あとはアレを飲ませるだけだ。
――そう、私特製の〝痺れ薬〟を。