再会
「お母さん!!」
「リナ!!」
お母さんだ、お母さんの匂いだ。
「生きてる、お母さんが生きてる……なんで? 流行り病で死んだんじゃ……」
「リナお姉ちゃんに怒ってもらうためですよ。10年も独り暮らしをさせてしまったのですから、リナお姉ちゃんには怒る権利があります」
振り向けば、私が落とした風呂敷を持ってくれているルジーナがいた。
「なので、リナお姉ちゃん、城までの道のりは半日ほどあります。その間、馬車の中でじっくりとお母様とお話されてはどうですか?」
「ルジーナ……」
本当にルジーナは良い子だなぁ。
ここはお言葉に甘えよう。
「うん、そうだね。ルジーナに嘘をつかせたことについても、しっかりとお話しようね? お母さん?」
「そ、そうね、そうしましょう……」
途端に顔から血の気が引いたお母さんとルジーナと一緒に馬車に乗る。
私とルジーナが隣同士で、お母さんは向かい側に座らせた。
そして、馬車はゆっくりと走り出した。
◆
お話すると言ったものの、お母さんを目の前にすると色々な気持ちが出てきて何を先に言えばいいのかわからなくなった。
取り敢えず、10年間ほったらかしにしてたことについては言っておかないとだよね。
「お母さん」
「……! はい……!」
思っていたよりも冷たい声が出たため、お母さんがビクリとする。
「なんで10年もほったらかしたの? 私のこの10年間はなんのためだったの? 勝手に結婚してるし……私は邪魔だったの? いらない子だったの? 本当は自分だけが幸せだったらそれでよかったの?」
「そんなわけないじゃない! リナのことを想わない日はなかったわ!」
「だったらなんで、もっと早く迎えに来てくれなかったの!? あの時、約束したじゃん! 『話が終わったらお母さんも森に行く』って!」
「私だってそうしたかった……でも、」
「王様に王子様と結婚してくれと頼まれたから断れなかった?」
お母さんがコクりと頷く。
「でも、だったら結婚する前に私を迎えに来ればよかったのに、なんで来なかったの?」
「それは、私がお答えします。リナお姉ちゃん、その時の人々や貴族にはまだ魔女への偏見がありましたよね? なので、それを修正してから迎えに行こうと、お父様と相談した結果決まったそうです」
「10年もかかってしまったことには言い訳しないわ。でも、すべてリナを迎えに行くために必要なことだったの! 信じて!」
すがるように言ってくるお母さんを見て、私はなにも言えなくなった。
「……わかった。信じる。でも、最後に一つだけ言わせて……」
私がそう言うと、お母さんから唾を飲み込む音が聞こえてきた。
私は、息を吸って吐いた後、精一杯の笑顔を作った。
「生きててくれて、迎えに来てくれて、ありがとう。お母さん」
「リナ……!」
抱き付いてくるお母さんを受け止め、私もお母さんを抱き締める。
「そうだ、お母さん」
「なに?」
「私、昨日やっと上級薬全部作れるようになったんだよ!」
風呂敷の中から昨日出来上がった五種類の薬をお母さんに見せる。
「本当にできてる……。さすがリナ! 私の自慢の娘!」
「すごいです、リナお姉ちゃん! 上級薬って作るのが難しいのですよね? 本当にすごいです!」
「この10年間、毎日毎日薬を作ってたからね。それを考えれば、無駄ではなかったかな」
「リナ……」
「リナお姉ちゃん……」
それに、この10年間がなければルジーナにも会えなかったと思うと、複雑な気持ちだけど良かったと思う。
複雑な気持ちだけど!(大事なことなので2回目)
そう思っていると、お母さんがまた抱き付いてきた。
「ごめんね、リナ。本当にごめんね……」
「もう、いいってば。お母さんは悪くない。悪いのは、権力に任せてお母さんと結婚した泥棒の方だから。そうそう、その人にぜひ飲んでもらいたいと思って持ってきた薬があるんだ!」
そう言いながら、風呂敷の中からとある薬を取り出す。
「り、リナ、これ、どう見ても痺れ薬なのだけど? しかも、持続時間が倍の30分になってるし、これ〝ルクレン草の粉末〟の分量が違うじゃない」
「そうなの! 痺れ薬の主軸、〝ルクレン草の粉末〟を1グラムじゃなくて1.5グラムにしたらできたの。すごいでしょ? これをぜひ泥棒さんに……」
「まあまあ、落ち着きましょう、リナお姉ちゃん」
「そうよ、落ち着いて?」
私の言葉を途中で遮って、二人して、私を落ち着けようとしてくる。
「えっ? 私は至って落ち着いてるよ? 相手が王族だろうが関係ない。ルジーナを産んでくれたことに関してはグッジョブだけど、人様の母親と勝手に結婚して事後報告なんて、人としてどうかと思うんだよね。だから、お仕置きしないと」
だって、そのくらいしないと、私のこの気持ちは収まらないから。
「あの、リナお姉ちゃん、お父様は仮にも国王なので、あまり命の危険性があるようなお仕置きは……」
「大丈夫、副作用が無いことは鳥を使って立証済みだから。たかだか30分動けなくなるだけで留めてあげるんだから、むしろ感謝してほしいよ」
「……これはもう、お父様には覚悟していただきましょう。お母様」
「そうね。最悪、私が回復薬を飲ませることにするわ」
む、失礼な。
副作用なんか無いって言ってるのに……。
でもまあ、飲ませることは良いみたいだから、遠慮なく泥棒さんに飲ませることにしよう。
――この10年間の罪、払ってもらうから覚悟してね、泥棒さん?