出発
荷物整理を終えたのは、翌日の朝だった。
一日中あれも持っていきたいこれも持っていきたいとやっていたら、持てないくらいに多くなってしまい、選別を終えて気づけば朝になっていた。
選別したものを風呂敷に詰めて纏めたちょうどその時……
――コンコン。
扉をノックする音が聞こえてきた。
『リナお姉ちゃん、いらっしゃいますか?』
「はいはーい」
返事をしながら扉を開けに行く。
扉を開けると、ルジーナがにこやかに立っていた。
「おはようございます。リナお姉ちゃん」
「おはよう、ルジーナ。早かったね」
「早く迎えに来たかったので……」
照れながら答えてる……!
やっぱり可愛いなぁ。
「ところで、荷物整理は終わりましたか? 終わっていないのならお手伝いします」
「ううん、大丈夫。ちょうどさっき終わったところだから」
そう言いながら、持っていた荷物が入った風呂敷を見せる。
「そうですか……いえ、では、行きましょうか」
ちょっぴり残念そうな顔を見せた後、笑顔でそう言った。
なんか、悪いことしたなぁ。
森を出るまでお喋りでもして埋め合わせしよう。
ずっと気にしてたこともあるし。
◆
森の中を歩きながら、ルジーナに話し掛ける。
「ねぇ、ずっと気になってたんだけど」
「はい?」
「なんでまじないをかけてたはずのに、この森に入ってこれたの? それに、家の扉にもまじないをかけて開かないようにしてたのに、なんで開けれたの?」
そう、ずっとこれが気になってた。
「あぁ、それですか? それでしたら、このお母様からいただいたペンダントのお陰だと思います」
そう言って見せてくれたペンダントには見覚えがあった。
「それっ! お母さんが作った、持ってる人にまじないが効かなくなるまじないがかけられたペンダント!」
「はい。ですがもう私には必要のないものなので、リナお姉ちゃんに差し上げます」
「いやいや、ルジーナが持ってて! 王族だったら色々と危険な目にあったりするかも知れないでしょ? 持っておいた方がいいよ。お母さんも、それを見越してルジーナにあげたんだと思うし」
「……そう、ですね。はい。そうします」
急に歯切れの悪い返事をするルジーナに、私は首を傾げる。
「いえ、なんでもありません。そろそろ森の入り口ですよ」
そう言われて前を見ると、10年ぶりの森の外が見えていた。
途端に、本当に森から出ても大丈夫なのかという不安が込み上げてきた。
着ているローブのフードを目深に被りながら立ち止まる。
森に入った理由が理由だけに、本当は殺されることがなかったとしても、魔女に対する偏見がなくなっていたとしても、これからの生活の中で魔女だとバレたら……?
そう思うと、足がすくんでしまう。
「リナお姉ちゃん?」
急に立ち止まって震え始めた私に、ルジーナが心配そうに声をかけてくる。
「大丈夫です。ほら、見てください。リナお姉ちゃんが大好きな人が立ってますよ?」
私の大好きな人? 誰?
いや、そんなのお母さんに決まってる。
そのお母さんが立ってる?
死んだはずのお母さんが?
そんなことあるはずない。
そう決めつけながら、森の入り口の方を見る。
確かに、誰か立ってる。
というか、ものすごく見覚えのある人が立ってる。
嘘、嘘だ。
そんなことあるはずない。
そう思っているのに、体が勝手に動いた。
風呂敷を地面に落とし、森の入り口に立っている人――お母さんに向かって、一直線に走る。
そして私は、森の入り口で手を広げ、今にも泣きそうな顔で待ち構えているお母さんの胸に勢いよく飛び込んだ。