提案
「……よかったです」
あれからしばらく経って不意にそう呟いたのはルジーナだった。
「……?」
「私は最初、お母様からリナお姉ちゃんのことを聞いた時、8歳の女の子が10年間森で独り暮らしができるのか、そもそも今生きているのかと不謹慎なことを考えていました」
「あぁ、まぁ、これでも魔女だし、お母さんの娘だからね。一応家事全般は教え込まされてたし、ここでの生活には1年で慣れちゃったから、あとはもうひたすら薬作ってたね」
それはもう、お母さんのことを忘れるくらい必死に作ってたね。
早く上級薬を作りたくて。
結局達成したのは今日だけど。
「……すごいです。もし私がリナお姉ちゃんだったら、右も左もわからない森の中で一人で暮らすなんてできません」
「うーん、それは違うと思う。ルジーナは王族として育てられたからそう思うかもしれないけど、私と同じように育てられてたら、独り暮らしくらいできるよ。でも確かに、8歳の女の子がこんな森の中で独り暮らしは考えられないけどね、ハハハ……」
「リナお姉ちゃん……。あの、お母様は……!」
「ん?」
「……いえ、なんでもありません」
確かに何か言いかけてたけど、なんでもないなら気にしないようにしよう。
「それよりもリナお姉ちゃん。私から提案があるのですが」
「提案?」
「はい。リナお姉ちゃんも、一緒にお城に住みませんか?」
「おぉ、いいね、一緒に住もう、城に……城……って、城ぉぉぉぉぉ!?」
いやいやいやいや!
「むりむり、無理だよ! 私、魔女だよ? それに、王族じゃないし……」
「王妃であるお母様の娘なのですから大丈夫です。それに、この10年で魔女に対する偏見は、王家の名の下に修正済みです」
「で、でも、10年住んできたこの家を離れるのは……。色々道具も置いてあるし」
「それでしたら、城にお母様が使っていた魔女の道具がありますし、好きなときにここに来ればいいですから。ね? 一緒に住みましょう?」
そう言いながら私の手を取って上目遣いをしてくる。
あぁもう、可愛いなぁ。
「……わかった。持っていきたいものを整理したいから、明日また改めて来てくれる?」
「……! はい! 絶対ですよ!? では、私はこれで失礼します!」
絶対ですからね~! と言いながら、ルジーナは飛び出していった。
――さて、荷物整理するか。
◆
場面は変わって森の入り口。
馬車が止まっており、森から出てきたルジーナがその馬車に乗る。
「どうだった?」
「とてもお元気でした。例の件は、荷物整理をするからまた明日改めて、ということになりました」
「そうなのね、それはよかった。リナとは仲良くできそう? リナに限ってそんなことはないだろうけど」
「はい。リナお姉ちゃんはとても優しくて、お母様の娘だなと感じました」
「ならよかった」
「それより、本当にあのような説明でよかったのですか? リナお姉ちゃん、ものすごく怒ってましたよ?」
そう言ってルジーナは、リナが怒鳴っていた時の言葉を一字一句漏らさず話した。
「……と言って泣き始めてしまったんですよ? その時のリナお姉ちゃんがあまりにも不憫で可哀想で……思わず本当のことを言ってしまいそうになったんですからね! 『お母様は本当は生きています』って!」
ルジーナの言葉を聞き、対面に座る人物――リナの母の顔から血の気が引く。
リナの怒りが予想以上に強いことがわかったからだろう。
「自業自得なのですから、きちんと怒られてくださいね?」
「リナ、本当にごめんなさい……!」