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マフラーと手袋

作者: 田久青

北風が吹く、冬の寒い日のことです。


よし子ちゃんは、ママから近くの町に住んでいる


おばあちゃんへのことづけを


頼まれました。



いつもなら、こんな寒い日は


おうちの中でコタツに入ってお菓子でも


食べていたいなあと思うところですが


今日のよし子ちゃんは


寒いお外に出るのがうれしくてうれしくてしようがありません。



よし子ちゃんは、昨日の晩、


お誕生日プレゼントとして


パパから新しいマフラーを


ママから新しい手袋をもらっていたので


早く使ってみたかったのです。



「いってきまあす」


「気をつけてねえ」


よし子ちゃんは元気よく


お外へ飛び出しました。



寒い寒い北風が吹いても


あったかいマフラーと


あったかい手袋で


気持ちまであったかくなってくるようです。


よし子ちゃんはついスキップしていました。



よし子ちゃんが大きな川にかかっている橋を


渡ろうとしたときでした。


橋の真ん中あたりで女の子が泣いています。


「どうしたの?」声をかけると


その泣いている女の子は、


泣きながら川を指差します。


川を見下ろすと、その女の子の手袋が流されています。


どうやら川のお魚に見とれて、女の子の手袋が手から外れて


川に落ちてしまったようです。



よし子ちゃんには、冬の冷たい大きな川に流れてしまった


その手袋をどうすることもできません。


女の子は、ワンワン、なかなか泣き止みません。


見ると、両手が真っ赤に冷たくなって震えています。



よし子ちゃんは、その手をじっと見ていいました。


「これあげる」


よし子ちゃんは、自分がしていた手袋を外すと


その女の子の冷たくなった手にはめてあげました。


女の子はやっと泣くのをやめておうちへ帰っていきました。


よし子ちゃんは、やっと泣きやんでおうちへ


帰っていく女の子を見てほっとしました。


でも次の瞬間


(ママにもらった手袋なのにどうしよう・・・)


急に悲しくなりました。



よし子ちゃんは、また、おばあちゃんのうちへ向かって歩き出しました。


しばらく歩くと小さな公園を通りかかりました。


ブランコのそばで男の子が泣いています。


「どうしたの?」声をかけると


その泣いている男の子は、


泣きながら木の上を指差します。


木を見上げると、高い高い木の上にその男の子のマフラーがひっかかっています。


どうやら近所のいたずらカラスが、男の子のマフラーをくちばしで


高い木の上に持っていっちゃったようです。


よし子ちゃんには、その木はあまりにも大きくて高くて


マフラーをどうすることもできません。


男の子は、ワンワン、なかなか泣きやみません。


見ると、首の回りが真っ赤に冷たくなって震えています。



よし子ちゃんは、その首の回りをじっと見ていいました。


「これまきなさい」


よし子ちゃんは、自分がまいていたマフラーを外すと


その男の子の冷たくなった首にまいてあげました。


男の子は、やっと泣くのをやめておうちへ帰っていきました。


よし子ちゃんは、やっと泣き止んでおうちへ


帰っていく男の子を見てほっとしました。


でも次の瞬間


(パパにもらったマフラーなのにどうしよう・・・)


急に悲しくなりました。



寒い寒い北風が、容赦なく、


よし子ちゃんの、首の回りと、すでに冷たくなった手にあたります。


やっとの思いで、おばあちゃんのおうちへ着きました。


よし子ちゃんは、ドアを開けてくれたおばあちゃんの顔を見ると


急に悲しくなって、わんわん、泣き出しました。



「あらあら、どうしたの?」


おばあちゃんが、聞いても、悲しくて悲しくてうまく話せません。


おばあちゃんに用意してもらったあったかいミルクを飲み干すと


やっと、よし子ちゃんは、今までのことをおばあちゃんに話しました。



おばあちゃんは、一生懸命、よし子ちゃんの話を聞くと


「よし子は、本当にやさしい子なんだね」と頭をなでると


「よし子、実は、おばあちゃんもお誕生日プレゼントがあるんだよ」


といって、なにやら隣の部屋から箱を持ってきました。



「よし子、その箱をあけてごらん。


  ・・・本当に不思議なことがあるもんだね」


よし子ちゃんがその箱をあけると


なんと、おばあちゃんが毛糸であんでくれた


あったかそうなマフラーと手袋が入っていました。



「よし子を驚かせようと思ってこっそり編んでいたんだよ。


パパにもママにも内緒で、だからパパやママがよし子に何をプレゼント


したかも聞いてなかったんだよ」


「おばあちゃん、本当にありがとう」


よし子ちゃんは、そのあったかい毛糸のマフラーと手袋を


つけてみました。


「うわー、あったかあい」



よし子ちゃんは、おばあちゃんへのことづけが終わると


おばあちゃんにもらった、あったかいマフラーと手袋をして


気持ちまであったかくなり、自分のおうちへ帰っていきました。



おうちのそばまで戻ってきたとき、よし子ちゃんは立ち止まりました。


「パパにもらったマフラーとママにもらった手袋のこと、どうしよう・・・」


また、急に悲しくなり、泣きそうになってきたとき


「よし子」


前を見るとママがそこに立っています。


迎えに来てくれたのです。


ママの手を見ると、何と、さっき女の子と男の子にあげたはずの


マフラーと手袋を持っています。


「よし子は、本当にやさしい子で、ママは本当にうれしいわ」


さっきの女の子と男の子のママが、お礼にうちへやってきたそうです。



よし子ちゃんは、迎えにきてくれたママにそのマフラーと手袋を


してあげ、二人で仲良くおうちへ帰りました。


さっきまで吹いていた、寒い寒い北風が


いつのまにかやんでいます。


どこからか、夕食のおいしそうなにおいがしています。


よし子ちゃんはママに聞きました。


「今日、パパ早く帰ってくる?」



おわり





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