火
薪を放る。火は良いものだ。原初的な落ち着きをもたらしてくれる。そうして、その時私は確かに通常の数倍は歳を経たように感ずるのだ。不可思議なもので、激しく焚いているときは我が身は小学生の時のように力がわいてくるのであるが、こう落ち着いて料理が出来る熾火になったとたん歳をくったようになってしまう。夕に暮れては映える火を見下ろしつつ陶然として飯盒を火にかける。薪のはぜる音、川のせせらぎ、涼風に香るか木々に抜ける草の匂い。紅染まる火の香も、歌織りなすに相応しい。
火は良いものだ。さて、死ぬか。すらと刀を抜き振り返る。居るわ居るわ、おっかない者どもが。そちらへ向けて駆ける。銀の混ぜられた弾が幾重の弾幕を形成しかかってくる。この身がこうなってより一度も血を啜ったことがなく、力も出ぬこの状態で死ねる。歓喜だ。人間の意思のままに死ねるのだ。歓喜に頬が染まる。