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悩める一夜

今回は少し短め、前回に投稿した話のつづきです。


 あれから夜も更けていった。

 時間は深夜の一時を少し過ぎた頃、キャンプ地のすぐ近くに生えている一本の大きな大樹の上ではスレイがたった一人で暗闇の中に輝く満点の星空を眺めていた。


「さっきのアレ……なんだったんだろ?」


 そう一人で漏らしているスレイは先程、温泉の中でユフィに言われた事がずっと頭から離れずにいた。

 ちなみにスレイがこの樹の上にいるのは、その事があって眠れなくなったからではなく火の番をしている生徒たちの監視のためだ。


 一応男子と女子それぞれ二人ずつ、計四人で火の番をさせているとはいえ、先程の覗きの件もあるので女子たちに何かあったらいけないとノクトから提案されたからだ。

 どのみちいろいろあったせいで眠れそうに無くなってしまったスレイが、こうして樹の上で一晩だけ寝ずの番をしているのだった。


 一応誤解のないように言っておくが、悩んでいるだからと言って監視に手を抜いていることもない。

 今も他のみんなが起きてるのにも関わらず、サボって一人寝ようとしているロッドの頭に冷水と化したアクアレインを降らしてやったりして、ちゃんと監視の手は緩めずにしっかりやっている。


「ボクが鈍感なのは認めるけどさぁ……いったいなんなんだってのアレは?」


 一人愚痴りながら空間収納からポットとカップを取り出すと、ポットの中から暖かいコーヒーを注ぐと一息入れているが、頭の中には先程のユフィの言葉が巡っているので全く効果がなかった。

 誰か答えを教えて欲しい、そんな呟きの声に混じって小さな鳥の羽ばたく音が近づいてくる。


『どうしたんですか?そんな大きなため息をついて』


 聞き覚えのある声を聞いて横を振り向くと、そこには見慣れた小さな鳥とそこから色素の薄い、まるで幽霊のような美女が座っていた。


「アストライアさま。お戻りになったんですか?」

『はい。この子には無理をさせてしまいましたので、すみませんがメンテナンスをお願いできますか?』

「任せてください」


 スパローを停止させると、霊体となったアストライアがスレイの横に並ぶ。この一ヶ月アストライアが姿を表さなかったのには理由があった。

 実はこの大陸でなにやら不穏な空気が流れていると言い出し、少し調査のためにスレイたちとは別行動を取っていたのだが、その際にスワローの身体を持っていったっきり丸一ヶ月は姿を見せなかった。

 なのでその間にずいぶんと飛んでいたのか、羽の関節部分が磨耗して錬金術の補強が必要なほどになってしまっていた。


「アストライアさま、この羽でよくここまで飛べましたね?」

『無理をしたという自覚はありますが……直りますか?』

「羽の骨格を入れ換えればなんとか、回路の確認もあるので二時間くらいで終わります」


 そう言いスレイはモノクルを使い魔力回路の確認と、それと平行して取り外した翼の人工骨格に変わる新しいスワローの骨格を取り出し、それを新たに取り付ける必要もある。

 霊体のアストライアは、作業をするスレイの横顔を見ながらふと、こんなことを尋ねる。


『ところでスレイ、先程のため息。なにかあったのですか?』

「あぁ~……その、神様にこんなことを聞くのはアレなんですけど……一つ人生相談ってのしてもよろしいでしょうか?」


 作業する手を止めず、横目でアストライアの姿を見ながら尋ねると、アストライアはクスリと静かに笑った。


『おやおや、神である私に人生相談とは、なんとも奇妙なことですね?』

「今のボクには藁どころか、神にもすがりたい思いなんですよ」

『よほど追い詰められていると見えますが……いったい何があったのかを聞かせてください』


 スレイはアストライアに向けて先程、温泉の中でユフィに言われた話の内容を包み隠さずに話すことにした。

 話を聞き終えたアストライアは困ったようにうねるだけだった。


「あの……アストライアさま?」

『……すみませんがスレイ、こればっかりは私にはどうしようもありませんね』

「やっぱりですか……まぁこればっかりはボクが何とかしないと行けませんよね」

『いえ、そう言うわけではなくですね……お恥ずかしながら、私は恋などをしたことがないので……』

「あぁ~えぇっと……すみません」


 なんと言っていいのか分からなくなったスレイは、アストライアに謝ることしかできなかった。


『謝らないでください……ですが、ユフィの言いたいことは分かる気がします』

「そう、なんですか?」

『えぇ、スレイ。あなたは逃げてるのではないですか?』

「逃げるって……いったい何から?」

『今の関係が崩れるのを恐れて、彼女たちの想いを受け止めようとしない、私はそう思いました』


 アストライアの言葉を聞いてスレイは押し黙った。

 確かにアストライアのいっていることは正しかった。

 今の関係を崩したくはなく、二人の想いから逃げている。言われるまでは気付こうとしていての心のうちではその思いを封じていた自分がいた。


『まぁ、スレイ。あなたが逃げていても、あの娘たちは逃がしてはくれないのかもしれませんよ?』

「ユフィに言われましたよ。甘く見るなって、これは覚悟を決めておいた方がいいのかもしれませんね」

『それは、私にはわからないことですが、あなたがいいと思ったことをしなさい』

「はい。そうさせてもらいます……って言っても、まずはこの仕事を終わらせないといけないんですけど」


 だが話を聞いてもらえたお陰で、ずいぶんと気持ちが楽になったスレイは明日の朝にでもユフィにこの事を話してみよう、そしてこれからのこともしっかりと決めていこうと決めた。

 ただし、今はしっかり仕事をしようと思い、サボろうとしている生徒に向けて凍る一歩手前まで冷やされたアクアレインを放った。


 ⚔⚔⚔


 朝陽が登ったころ、スレイは樹の上から飛び降りるとみんなの分の朝食の準備をしようと思った。


「アレ、スレイ先生。何であんな場所に?」


 地面に降り立ったスレイを見て驚いたようにツルギが訪ねると、空間収納の中から大量の食材を取り出しながらその質問に答える。


「君たちがしっかりやってるか見てたんだよ。後、みんなの朝ごはんの準備だけど手伝ってくれないかな」


 そう言うとツルギだけでなく、他の三人も複雑な顔をする。その理由は至極簡単、ここにいる生徒全員全くと言って良いほど料理が出来ないのだ。


「君たちも簡単な料理くらいは出来なきゃ、ほら、マックスくんもユンちゃんもローザちゃんも、こっち来て作るの手伝って」

「「「「はぁ~い」」」」


 嫌そうにしている四人をなんとか手伝わせ、朝食の準備を進めていくと一つのテントの中からユフィが出てくるのが見えた。


「おはようスレイくん」

「おはようユフィ」


 挨拶を返したスレイは昨夜、アストライアと一緒に話ていたことを思いだしていた。


「あのさぁ……ちょっと話しがあるんだけど、いいかな?」

「なぁに~改まっちゃって?」

「……ちょっと二人だけで話させて」

「いいよ~」


 料理は出来ているので後は任しても大丈夫と判断したスレイは、ユフィと共にゲートで初めてここに来たときに一緒に見に行った花畑にやって来た。


「どうしたのこんなところの連れてきて」

「話があるって言ったでしょ?」

「うん。それで話って?」

「いや……その昨日のことなんだけど……あの後一晩考えて、アストライアさまにも助言をもらってさ」

「アストライアさま帰ってきてるんだ?」

「あぁ、それでさ、この仕事が終わったら一回ちゃんとノクトとリーフさんと話すよ」

「ふぅ~ん覚悟は決まったの?」


 なんだかすべてをユフィに見透かされているようだと思ったスレイは、頭をかきながら大きなため息をついた。


「あぁ、でもなんて切り出すかは解んないんだ、ってかどう切り出してもただの痛い奴にしか見えなくてさ」

「私ねスレイくん少し自信をもった方がいいと思うよ?」

「ありがとうユフィ……さて、戻ろっか」

「うん。あ、そうだスレイくん、ちょっと」

「ん?どうした──」


 前を向いてゲートを開こうとしたスレイをユフィが呼び止める。

 それを聞いて振り返ったスレイの両頬をユフィが挟み込むと、いきなりのことに驚いているスレイをよそにユフィはそのまま自分の唇を押し当てた。

 ただ触れるだけのキスだったが、本当にいきなりのことでスレイはしばらく動けないでいた。


「えっ……」

「スレイくんが自分で女の子の想いに気付いたご褒美だよ」

「あっ、ありがとうございます?」

「ふふふっ、何で疑問系なの?」

「あ、うん、そうですね」


 驚きすぎてそうな対応しか出来なくなってしまったスレイを、ユフィはただただ笑いながら見ていた。

 使い物にならなくなってしまったスレイに代わりにゲートを開き、みんなの待っている場所に戻っていったのだが、今日一日は全くもって使い物にならなくなってしまったスレイの代わりに、ユフィたちが頑張って生徒たちの指導を行った。


 スレイが全く役に立たなかったその日の夜、テントの中で休んでいたノクトとリーフはスレイがああなった理由を知っている、と言うよりもああした張本人であろうユフィを問い詰めていた。


「ユフィお姉さん、お兄さんにいったいなにやったんですか?」

「というよりも、いったいなにをどうやったらあそこまでスレイ殿がああなるんですか?」

「まぁまぁ二人とも落ち着いて」


 ユフィが二人を落ち着かせようとするが、そんな言葉は今の二人には関係ないようだった。


「えっとね、私はただスレイくんにキスしただけだよ?」

「なにそれズルくないですか!?」

「ユフィ殿!なぜ私たちを呼んでくれなかったんですか!」

「だって、スレイくんは私の彼氏ですから」


 口ごもりながら悔しそうにしているノクトとリーフ、そんな二人の姿を見ながらユフィはクスリと笑った。それはこの仕事が終わった後、この二人がいったいどんな反応するのか、想像したからだった。



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