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一日目の終わり、星空の下で

ブクマ登録ありがとうございました。

これからも本作をよろしくお願いします。

 時は戻り、温泉のある場所、そのすぐそばに聳え立つ崖の上に生徒たちがたどり着き、スレイと出くわしてから少したった頃にまで遡る。


 覗きのためにやって来た五人は例に漏れずもれなくみんな地面に倒れていた。

 それを見下ろすような形で立っているスレイは抜き身のまま握られていた黒い剣を、そっと静かに鞘に納めると倒れている生徒たちに向かって話し出した。


「君たちさぁ、年頃だしこういうのに興味を持つなとは言わないよ?でもね、覗きはダメだと思うよ?人としてというか、男としても最低な行為だとおもうよ?後バレたら君たちみんな八つ裂きにされてたとも思う」


 スレイが倒れている五人に向けて説教を始める。

 ちなみに八つ裂きにされるというのは冗談ではなく、今の女子のメンバーの力と技術なら、確実にこの五人くらいなら力を合わせれば勝てる。

 さらには女子お得意の言葉攻めでもなんでもして確実に再起不能にまで追い込めるだろう、。

 なのでここでスレイに叩きのめされたのは、まだ良かったとも言える。


 そう言いながらスレイが頭の中で怒りに震える女子たちが、この五人に向かって武器を使って斬りかかったり、魔法を放ちまくる様子が目に浮かび恐怖に震えている。

 すると倒れていたロッドが片手をついて立ち上がるのを見て、まだやるのか?っと思ったスレイは剣を鞘に仕舞ってしまったので代わりに拳を構える。

 ふらつく足で立ち上がったロッドがキッとスレイのことを睨み付ける。


「お、俺は負けられねぇんだよ!」


 大声で叫ぶロッドの姿は、まるで物語に出てくる英雄が強敵に立ち向かっていくように思え、倒れていた四人がスレイに立ち向かうロッドの姿を見て、涙ぐんでいるものもいる。

 まるで物語のワンシーンのようにも思えるのだが、これほどバカらしいことはないと思ったスレイは、いちいちツッコミを入れるのもバカらしいとさえ思えた。

 だが、それでも一応はツッコミを入れておくことにした。


「あのねぇ、カッコつけてることろ悪いんだけどさぁ、やろうとしてること犯罪だからな?そこんところちゃんと理解してるのかな?」

「うるせぇ!男にはやらなきゃいけない時があるんだよ!!」


 そう言うと拳を握ったロッドが地面に振り抜こうとする。

 それを見てスレイはロッドが何をしようとするのかを察し止めるために叫ぶ。


「バカ!やめろ!」


 スレイが叫ぶがそれよりも先に振るわれた拳が地面を割った。

 バキッと言う音が聞こえ地面に大きな亀裂が走り、そこにいたスレイも一緒に落ちていく。


「はっはッはッ!落ちやがれアルファスタ!!」

「バカ!温泉があるのこの下なんだぞ!」

「……………………………へっ?」


 スレイの言葉にロッドの顔が絶望に歪む。

 ついでにこんなことをやってくれたロッドと、こんなバカなことを実行した四人に向けて魔道銃の銃弾──安全のためにゴム弾モドキだが、を頭に撃ち込んで昏倒させた。


「クソ!間に合えよ!!」


 キッと大岩を睨んだスレイはこんな物を下に落とす訳には行かない、そう思うと同時に落ちていく岩から飛び降りる。

 だがこれでは間に合わないと思い黒鎖を崖に突き刺し引っ張る。

 岸壁に足をつけたスレイは壁を蹴って速度をあげ、落ちてゆく岩の真下にまで移動すると片手を真っ直ぐと構えると、この大岩を一撃で吹き飛ばすべく、スレイが使える魔法の中で最高の魔法を展開させる。

 手のひらに描かれる魔方陣、そしてそこから現れるのは神々しい光を放つ球体が出来上がっていく。手の中で出来上がった球体を見たスレイは魔法の名前を叫ぶ。


「───イルミネイテッド・ヘリオース!」


 放たれた光の一撃が大岩を包み込み、その存在すべてを消し去ったがこの時、スレイはあることを忘れていた。

 それは魔法を放った時の反動をどうやって殺すかと言うことだった。

 岩の上から飛び降りたときのスレイは、飛行魔法を使っているわけでもましてや風魔法で身体を浮かしていた訳でもなく、ただただ落ちていっただけだった。

 そこに魔法を使ったときの反動が加わりさらに落下の速度が速まることとなった。


 ──まずい!?


 そう思った時にはもう水面ギリギリの場所だったので、なんとかダメージを少なくするために両手をバツに組んで、ダメージ防ごうと考えた。

 ザバァーン、次の瞬間にスレイはお湯の中に突っ込んでしまっていた。

 正面から落ちかなりの衝撃が身体を襲ったが、それでもあまり痛みはなかった。

 お湯の中から身体を起こしたスレイは、濡れた前髪をかきあげながら身体様子を確認する。


「あの勢いで落ちて無事って……ある意味奇跡だな」


 そう独り言を呟きながら内心では、まさか師匠みたいな化け物みたいな身体にはなってないよな?と、さりげなく師匠をディスりながら、内心で冷や汗を流したがただ単に水の上だったから衝撃がそちらに逃げたんだと、自分を納得させているのだった。


「ねぇスレイくん?」


 その声にスレイはドキリとさせられてしまう。それはここがいったいどこで、今ここに自分は居てはいけない場所なのだと、上にいるロッドたちに身をもって教えたはずなのにも関わらず、今こうしている。

 スレイは先程の比ではないほどの冷や汗を流しながら、声のした方に振り替えるのであった。


⚔⚔⚔


 裸体の上に大きなタオルで身を隠したユフィ、ノクト、リーフの三人がお湯の中に座り込んでいるスレイのことを見下ろし、三人に睨まれたスレイはだらだらと汗を流しながら後ろに後退していった。

 後ろに後退しながら、スレイは心の中で必死になってこの絶望的とも言えるこの状況を、なんとか打開して穏便に切り抜けられる切っ掛けを見つけようとしているが、この状況では何を言ってもダメなことにスレイはすでに気づいていた。


 ──素直に謝ったら許してくれるかな?


 もはやどう切り抜けるかよりも、潔く全てを自白して──ほとんど無実のうえ、全てはロッドのせいなんだけど──バツを受けるしかないのかもしれないと思っていると、ユフィから耳を疑うような言葉が飛び出してきた。


「スレイくん、そんなに私たちと温泉に入りたかったの?」

「……………………………………はい?」


 上から落ちたせいで耳がいかれたのかとスレイ思うのと同時に、心の中ではこんなことを思っていた。


 ──ボクの彼女はいったい何をいってるんだろう?


 ポカーンとしながらなにも言えなくなってしまったスレイに、さらにノクトとリーフまでもやってくる。


「わ、わたしも……お、お兄さんとなら………良いですよ?」

「んっ?」

「すっスレイ殿も男ですから……こんな場所ですので……仕方ないですよね」

「はっ?」


 もはや彼女たちが何を言っているのかが解らない。

 そんなことを思いながら固まっていると、ユフィがスレイの脱がしにかかった。


「待て待て待て待てっ!なにしてんのユフィ!?」

「なにって、お風呂はいるのにお洋服は邪魔でしょ?」

「イヤイヤイヤイヤ、ボクは入るなんて一言も──」


 言ってない、そう言いきろうとしたスレイだったが、それよりも先に遮るようにノクトとリーフが口を挟んだ。


「お姉さん!わ、わたしもお手伝いします!!」

「ユフィ殿!僭越ながら私も手伝わせていただきます!」


 ユフィに加えさらに二人が追加され、どうにか抵抗するために脱がされそうになる服を必死になって止めようとしている。


 ──いや、不味いだろこの状況!?


 そう思うと同時にここにはユフィたち以外にも人はいるので助けを呼ぼうとしたが、ここではみんな裸だと言うことを思い出し、人がいる場所を探して助けを呼ぼうと探索魔法を発動させるが、この場所にはというよりもこの近くには誰もいなかった。


「スレイくん、ここには私たち以外いないよ?」

「みんな……ゲートで先に帰りました」

「だ、大丈夫です……すぐすみますから」

「なにが!?」


 リーフが変なことを言い出した。

 それに同調してか、ユフィとノクトの目付きが変わり、スレイはその空気の変化に気付き後ろに下がった。


「み、みんな、なんか目が……」


 スレイをみる三人の目が、まるで獲物を狩る捕食者のような目だった。

 普通は逆じゃね?というツッコミはご愛敬ということで。


「こ、こうなったら!」


 三人がスレイに襲いかかろうとした瞬間、スレイは転移魔法を使いその場から消える。


「あっ!転移魔法使った!」

「お兄さん!?」

「どこ行くんですか!?」


 そんな彼女たちの声を聞きながら、温泉近くの木に背を預けたスレイはバクバクとうるさい心臓を押さえながら荒い呼吸を繰り返していた。


「なっ、なんだったんだよアレ……」


 ある意味、男としては願ってもない幸福の時間だったかもしれないが、あんな場所で初めてを行えるほどスレイの肝は座ってない。

 それどころか公共の場所で出来るわけ無いと言った方が正しい。


「ってか……今晩、ボクちゃんと寝れるかな?」


 先程はパニックになってよくわからなかったが、よくよく思い出してみると背後や両腕に押し当てられた柔らかな感触、それを思い出しそうになったスレイは太ももをつねって痛みで誤魔化すと、上で倒れている五人を黒鎖縛り上げると、全力で女子生徒たちには頭を下げよう、そう心に決めたのだった。


⚔⚔⚔


「この度は、私とこの五人がご迷惑をお掛けしてすみませんでした」

「「「「「ごめんなさい」」」」」


 スレイと横に並んだロッド、ロビン、イルナ、デイル、エミールの五人は、地面にそろって正座からの土下座を披露していた。

 そんな六人の目の前には、腕を組んで睨み散らしている女子生徒たちだった。


「スレイ先生は許すわ、あの大岩から私たちを助けてくれたんだしね」

「そうね、まるっきり事故だし」

「で、でもユフィ先生たちとのことは………」

「ちょっとユン!それは言わないでって!」

「と言うわけで、先生はもうこっち来ていいですよ」


 良かったと、胸を撫で下ろして安心していたスレイは立ちあがり、空間収納の中からタオルを取り出して髪の毛を乾かしていた。

 戻ってきてすぐに五人を正座させて謝らせたので、未だに服も乾いていない、それどころかいくら暖かい地方とはいえ、夜はさすがに冷えてくる。ちなみにユフィたちも帰ってきており、五人に正座をさせる前に冷静になった三人に頭を下げられたのだ。


「へくしゅーっ!……やっべぇ、これ完璧に湯冷めしてるわ」


 大きなくしゃみをしたスレイは、濡れて冷えた身体をさすりながらこのまま一人で温泉に行こうかな、そう思ってゲートを開こうとする前に、生徒全員にある物を渡すことにした。


「今さらで悪いけど、次からみんな温泉行くときはこれ着て行ってね」


 そう言うとスレイは空間収納の中から大量の水着を落とした。


「いろいろあるからサイズは多分大丈夫だから」

「スレイ殿、何でこんなに女性ものの水着をお持ちで……?」

「村にいた頃、夏になると川遊びするからって、村のみんなに頼まれていつの間にかこんな量に」

「スレイくんの作る水着、毎年スッゴい好評だったもんねぇ~」

「お兄さんてほんとに何でもできるんですね」


 男子用の水着は適当に人数分置いてスレイはさっさとゲートを開くと、先程の温泉のある場所に移動し、ついでなので簡易の脱衣場も作った。


⚔⚔⚔


 水着に着替えたスレイは温泉に浸かると、それから何かあるといけないのでそばに剣と魔道銃を置いていた。


「あぁ~いい湯だな~」


 まるでじいさんにでもなったかのような声が出てきたが、今は一人なので問題はない。ふと空を見上げると、黒い闇の世界をさまざまな光を放つ星が輝いていた。


「それにしても……なんか疲れたな」


 まだ一日目なのに行きなり事件が起きてしまい、なんだかかなりの気疲れを起こしかけている。

 そんなことを思っていると、背後からパキッと何かが踏まれる音が聞こえて来たので、側に置いてあった剣を手に取るとすぐに剣を下ろした。


「ユフィ……どうしたの?」

「ん~、私も入ろうかな~って」

「さっきみんなで入ってたでしょうが……」

「ふふふっ、いいからいいから~」


 ユフィが側にいつの間にか出来てた簡易の脱衣場を見て、その中で水着に着替えるとスレイの横に浸かった。

 そのまま二人でゆっくりとっくりと湯に浸かり、のんびりとしているとふとユフィが話し出した。


「ねぇ~スレイくん。ちょっと聞きたいことあるんだけどいいかな~?」

「内容にもよるけど、いったいなんだい」

「さっきの、何で逃げたの?」


 スレイが目を見開きユフィのことを見る。


「逃げたって……いや、だってさ……こんな場所で出来るわけないだろ?それにノクトとリーフさんだっているんだからさ」

「ふぅ~ん、なら今なら私としてみる?」

「滅多なこと言うんじゃありません」


 スレイがコツンと軽いチョップを喰らわせると、あぅ、っと小さな悲鳴をあげて下から見上げていた。


「じゃあさぁ~、ノクトちゃんとリーフさんに抱きつかれたとき興奮とかした?」

「あのねぇ、ボクだって男だ。魅力的な女の子三人に抱きつかれて興奮しない方が異常だ」

「ふぅ~ん……ねぇスレイくん気付いてる?」

「なにに?」

「だからノクトちゃんとリーフさんの気持ち?」

「………………あそこまでされてた気付かないほど鈍感じゃありません」

「スレイくん、それ違う。あそこまでしないとわからない鈍感なんだよ」


 ユフィからの真面目なツッコミにスレイはそっと目をそらす。


「でも、スレイくんも成長してるんだね~、私のときは長かったし」

「その節は大変ご迷惑をおかけしました」

「まぁ私のことはいいんだけど、二人のことはどうする気なの?」

「どうするって……今まで通り、何も変わらないさ」


 スレイのその答えに対してユフィは眉を潜めた。


「理由を聞いてもいい?」

「リーフさんはこの国の騎士でボクは旅の冒険者だから、依頼が終わったら次の場所に行く。そうだろ?」

「じゃあノクトちゃんとは?」

「ノクトはまだ子供だ。一時の感情で決めるのはダメだ」

「ふぅ~ん……そっか」


 呟くようにそう言うとユフィは立ち上がった。


「もうあがるの?」

「うん。スレイくんは?」

「ボクはもう少しはいっていくよ」

「そう、じゃあお先に」


 ユフィはそう言うと脱衣場に行こうとし、スレイは一人で星空を眺めながら一杯でも、そう思い空間収納から埋没してい果汁水──ここは酒と行きたかったが手持ちになかったので、しかたない──を取り出すと、脱衣場の方からユフィに声をかけられる。


「スレイくん」

「ん~、なに?」

「恋する女の子のこと、甘くみない方がいいからね」


 そう言い残してゲートで還っていった。

 ポツンと、一人取り残されたスレイは


「どういう意味なんだ?」

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