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一日目の終わり、そして覗き

 日も傾き出した頃、ようやく剣を納めたスレイとアルフォンソ、お互いに過去のルクレイツア絡みのアレやこれを話ながらも、いい戦いができたことに感謝し固い握手を握りあった。


「スレイくん、いい戦いをありがとう。久しぶりだよ、ここまで楽しい立ち会いは」

「感謝するのはボクの方ですよ、アルフォンソさんのお陰で、ボクはまだまだだって身をもって実感することが出来ました。本当にありがとうございました」

「そんな歳から謙遜するものじゃないよ?今の君は十分に強い、それこそこれが立ち会いではなく実戦なら確実にやられていたはずさ」


 なにやらルクレイツア絡みでおかしな友情が芽生えかけているが、そんなことは知らないとばかりにやって来たユフィ、ノクト、リーフ、そこにプラスしてルルとトリシアがやってくる。


「スレイくん、終わったなら後でちょっと話あるから」

「お兄さん、生徒さん見てるっていいましたよね?」

「スレイ殿だけではありませんから、わかっていますよねお父様?」

「あなた、ロアのことほったらかしにしてなにしてるんですか?」

「アルフォンソ、自分の息子を放っておくなど、久方ぶりに母からもお話せねばならぬようですね」


 固い握手を交わしあっている二人の元にやって来た女性陣、そんな彼女たちの顔には笑顔が浮かんでいるにも関わらず、目からは物凄い威圧を感じている。

 それを感じた瞬間、二人は今まで戦いに集中しすぎてロアのことをほったらかしにしていたのを思い出した。


⚔⚔⚔


 結局お説教は一時間ですんだ。

 その理由は二人の戦いをみてロアが喜んでいたことが大きく、もしも途中で飽きてどこかフラフラと出歩けないように、レイヴンとアラクネによる監視網と結界が貼られていたので、情状酌量の余地があると判断されたようだった。

 ちなみに女性陣のお説教だが、一人一人がそれぞれ言いながら他はただ無言で睨んでくるという、半ば恐怖を覚えるようなお説教だった。


⚔⚔⚔


 ユフィたちのお説教から解放されたスレイは、帰ってきた生徒たち全員に有るものを渡していた。


「みんな一人一つずつ持ったね?」


 生徒全員の手には魔石付のペンダントが握られている。


「これは、魔除けのペンダントって言って、この死霊山では完全に日が落ちるとレイスが出現する。これは、それから身を守るお守りです」

「はい!質問です」

「なんだ?」

「レイスは死体に乗り移るって聞いたことあるんですけど、これ持ってなくてもいいんじゃないですか?」

「よく勉強しているが、それは間違いだ。実際にレイスは生きた人間への憑依も可能だ」


 スレイの説明に全員が意外そうな顔をしていると、今度はユフィが引き継ぐように話を始める。


「レイスが生きた人間憑依するとね、憑依された人間はレイスを取り除けても廃人になっちゃうの、さぁ誰か分かるかな?」


 全員がわからないと言った感じだったのでスレイがその答えを告げる。


「レイスには、死ぬ直前の感情が残ってると言われてるんだ。だから乗り移られた人間は、その瞬間を疑似体験することになるって言われてるんだ」


 断言できないのは、実際に乗り移られたら人格が崩壊してしまうため誰も知らないせいだ。スレイが生徒たちに向けて話したことも、どこかの偉い学者が書いたレイスに対する論文を読んだことがあったからだ。


「そういう訳だから壊れたり無くしたりしたら、すぐにボクかユフィ先生に言うこと」


 生徒たちの返事を聞いたスレイは、手を前に掲げると空間収納の入り口が開かれる。


「さぁみんなこれから夜営の準備だ。テントは二人で一つ、男女は別、さっさと作らないと日が完全に落ちるからそれまでに作れよ」


 テントの割り当てなどはしてないので、生徒たちが適当に決める。それ以外にもいろいろと決めなくてはいけないことがあるので、こんなことに時間はかけていられない。


⚔⚔⚔


 テントも張り終え、夕食はリュージュ家のシェフによるサバイバル豪華料理が出されたが、その際にスレイたちは疑問ができた。

 ちゃんとした設備もないのにどうやって?そんな素朴な疑問が出るほどの豪華な食事だったので、ついつい気になって聞いてみたところシェフ曰く、携帯式厨房などという魔道具の最先端の技術がふんだんに盛り込まれた物を持っているらしい。

 そんな有能なシェフの料理を堪能したあとは、生徒も教師も関係なく火の番をするためのくじ引きが行われたが、特に面白い話もないのでこれくらいにしておこう。


⚔⚔⚔


 くじを引き火の番を決め終わると、さすがに疲れたのかまだ夜の七時だと言うのにあくびをしている生徒がちらほらと見えだした。


「君たち、疲れてるのはわかるけど武器の整備は怠るなよ?」

「武器はあなたたちの命を守るもの、いざと言うときのために整備は必要ですよ」


 スレイとリーフの二人から怒られた生徒たちは、疲れている身体に鞭を打って自分たちの武器の整備を始めているのだが、その最中女子生徒たちの中からこんな話が出てきた。


「贅沢を言う気はありませんが、汗を流したいですわ」

「本当……だね」

「お風呂ありませんからね」


 騎士を目指していてもやはり年相応の女の子、いくらいつも一緒にいる仲間しかいないとはいえ、動き回ったあとに汗も拭けないというのはどうも嫌な気分のようだ。

 そのことについて女子の間で話を広まっていき、お風呂大好きユフィとノクト、そして同じようにお風呂が好きなのかリーフや、リュージュ家の女性たちがチラチラとスレイのことを見ているのだった。


「……ねぇ、なんでボクの方をチラチラ見てるんですか?」


 何を言おうかはわかっているので無視することも出来るが、それでもうるうるとした眼を向けているユフィたちの視線についつい聞いてしまった。


「いやぁ~スレイくんなら知ってるかなぁ~って」

「お兄さん、どこかにお風呂ありませんか?」

「あるなら教えてください……その生徒たちのモチベーションも上がりますので」


 三人が意見を言うが、すっぱりとスレイが答えることにした。


「風呂なんて有りません」

「「「えぇ~」」」

「えぇ~じゃないっての!第一なんだ風呂って、ここ死の山だよ?人工的に作られた風呂なんてあるわけないでしょ?」


 全くもってその通りだった。

 いくらこの山に一年もいたスレイだからと言っても、風呂なんて作っている時間はない、と言うよりも作る力がなかったと言うのが正しい。


「じゃ、じゃあせめて川は?」

「ヒルの魔物がいて入った瞬間に全身の血を抜かれるよ?」

「ダメじゃん」

「あっ、なら温泉はないのスレイくん?」

「あのねぇユフィさん、あなたちょくちょく来てるでしょ?ここに温泉があるなんて───あっ、あるわ」

「そうだよね~あるわけ……えっ?」


 スレイの呟きにユフィが驚き、ついでにノクトとリーフたちも驚きのあまりスレイを凝視する。


「えっと……確認だけど行きたい?」

「「「行きたい!!」」」


 そんなわけで行くことになった。


⚔⚔⚔


 視界のすべてが真っ白な湯気が立ち込めている。

 ここは死霊山山頂付近にある切り立った崖、その近くに存在する一角にある温泉だ。


「前に修業で来てた時、師匠にぶん投げられた時に偶然見つけたんだけど」

「話の腰を折って申し訳ないのですが、スレイ殿の師匠はいったい何を目的でスレイ殿を投げられたのですか」

「思い出させないでください、嫌な思い出だから……まぁそんな訳で見つけたんですが……ここ敷居もないし完璧な露天風呂だけどそれでも入るの?」

「「「入ります!!」」」

「あっ、はい。じゃあここには魔物来ないけど、念のためにゴーレム貸しとくからごゆっくり」


 ヒラヒラと手を降ったスレイはゲート使い、さっさと中腹の夜営をしていると場所に戻ったのだが、そこにはアルフォンソとカルトス、そして執事のブレッドの姿しかなく、他の生徒たちの姿どころか気配すらなかった。


「あれ?他のみんなはどこに?」


 ついそんな疑問を口走ったスレイに、アルフォンソが申し訳なさそうにしながらやってくる。


「すまないスレイくん、止めたんだがみんな温泉の方へ行ってしまった」


 それを聞いスレイは大きくため息をつきながら頭を押さえる。


「おいおい、んなベタなことやるかよ普通」


 そういったスレイはふとあることを思い出した。

 今温泉にはユフィたちがいる。念のためにアラクネたちも貸しあたえ、ついでに黒鎖と一緒に最近使ってなかった黒蛇も貸しあたえているので、万に一つも侵入の心配はない。だがもしも万に一つのことが起きてしまったらどうなるか。

 沸々と黒いオーラがスレイから溢れだしていた。


⚔⚔⚔


 温泉のある場所の近くには切り立った崖が存在する。

 そこに向かっている獣道に生徒たちは歩いていた。


「やっぱりやめようみんな」


 その声をあげたのは、始めっからこの覗きに反対だったベルリだった。


「なんだおじけずいたのかベルリ?」

「そうじゃないさ、でもこれはいけないって」

「大丈夫だって、崖の上から覗くんだ。気づかれるわけがない」

「いや、そうじゃなくてだな」


 他の男子たちに反論しようとするベルリだったがすぐに賛成派の声に遮られてしまっていると、ベルリと同じ反対派の男子が手をあげる。


「あ、あの……僕もやめた方がいいかなって」

「ユース、お前もか」

「なんだよ。お前も見たくないのか?いつもはガードの固いあいつらが一糸纏わぬ姿で湯に浸っているんだ!こんなチャンスは滅多にないんだぞ!」

「そ、そりゃあ……見たいけど、ヤッパリダメだよ!」

「ユースの言う通りだ!それと俺は恐ろしいんだ!」


 ベルリの言葉に賛成派の男子たちは首をかしげ、元々あまり乗り気でなかった反対派の男子たちは、ベルリの言っている意味を思って反対したため顔に緊張の色が見える。


「恐ろしいって何がだよ?魔物か?そんなの今の俺たちにかかれば問題ないさ」

「違うぞロッド!俺が本当に恐いのはスレイ先生なんだ!」


 その言葉に賛成派の男子たちがハッとした。

 そう、ここには一番恐ろしい先生がいる。一度怒らすと何をされるかわからない、この山にいるどんな魔物よりも恐ろしい存在だ。

 そんな化け物みたいな力を内に秘めた先生がいることを、それをなぜ忘れていたのか男子たちは戦慄する。


「あ、あんな奴怖がることねぇ!俺たちには、男には引けないときがあるそれが今なんだよ!」

「お、俺も行く!」

「僕だって!」

「行ってやるさ!」

「始めっから覚悟はできてるんだよ!」


 ロッドを筆頭にロビン、イルナ、デイル、エミールの五人が止める声も聞かずに進んでいく。


「勝手にしろ」


 そう言うと残ったベルリたち五人はスレイが来る前に夜営地に戻るのだった。彼らに背を向けたロッドたちの顔は、まるで魔王との戦いに向かう勇者のようであった。

 ……あのときまでは


「やぁ、みんなこんなところで何してるのかな?」


 生徒たちの目の前には黒い剣を抜いて、全身から沸き上がるドス黒い殺気を振り撒きながら待機していたスレイがいた。殺気を受けた生徒たちの顔が恐怖に歪んだ。


⚔⚔⚔


 場所は代わり温泉では女子生徒たちが、のんびりと羽を伸ばしていた。


「こんなところでお風呂にはいれるなんて思わなかったわ」

「ホントよね~」

「温泉、最高です」


 女子たちが口々にそう呟く。そしてその視線の先には、なんとも立派な物をお持ちの二人が湯に浸かっていた。


「ねぇみんな、どうして目が私たちの胸に行くのかな~」

「み、見世物ではないんですからね?」

「あらあらあら、こんなおばさんの見ても面白くはないでしょ?」


 そう言っているのはユフィとリーフ、そしてルルの三人なのだがどうもこの三人、他とは違いなんとも立派な物を携えているせいで、みんなから注目が集まっているらしい。


「お姉さんたち、なに食べたらそんなに育つんですか?」

「ノクトちゃん……またそれ聞くの?」


 ユフィがあきれてノクトのことを見ていると、上からパラパラとなにかが降ってきた。全員が上を見ると大きな岩が降ってきた。


「どうして落ちてくるのかな!?」

「みんな!頭を抱えて伏せて!!」

「ユフィ殿!剣を!」

「あらあらこれは不味いですね」


 このままが危ないと思い、身体をタオルで隠したユフィが空間収納から取り出した杖を構えると、みんなが落ちてくる岩の下で何かが光っているのを見た。


「あれって……もしかして」


 真っ直ぐ構えていた杖を下ろしたユフィは、眼を強化してそこをよく見てみるとそれが何かを悟ると同時に、真上から声が響いてきた。


「───イルミネイテッド・ヘリオース!!」


 聞き覚えのある声と共に、大きな岩をすべて包み込むほどの膨大な光の柱が岩を消し去ると、少し遅れてから何かが上から落ちてきて、温泉のお湯の中に何かが落ちていった。

 ザバァーン!!

 そんな大きな音と共に水しぶきが上がり、舞い上がったお湯が水の粒となって降り注いでいき、空中に舞い上がったせいで冷えたのか、少し冷たくなってしまったお湯の雨を受けて、全員がタオルで身を隠してから温泉の中にあった大きな岩の影に隠れて、その影の中から誰が落ちてきたのかを見ていると、ザバァーン!と大きな水しぶきを上げてその人物が起き上がった。


「あの勢いで落ちて無事って……ある意味奇跡だな」


 そういいながら濡れて顔に張り付いてしまった前髪をかき上げているのは、どこからどう見てもスレイだった。

 先程、上から落ちてきた大岩を消し去った魔法、そして魔法を発動する声を聴いてあれが誰なのかを察していたユフィたちは、そんなスレイの後ろに立っていた。


「ねぇスレイくん?」


 優しく発せられたその声にビクリと肩を揺らしたスレイは、ギリギリとまるで油の切れた機械のように首を動かし、背後にたっている三人の姿を見て顔を真っ青にしているのだった。

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