初めの成果
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生徒数人を連れて下に降りて行ったスレイは、周りに魔物の気配がないことを事前に調べてから連れてきた生徒全員の持っている剣を腰から奪い去った。
ちなみに今回連れてきたメンバーの名前はベルリ、ロビン、ビーナ、ミサ、ルリアの五人だ。
スレイがこの五人を選んだ理由は後で説明しよう。
「先生!なんですかここ!?」
「武器もなしに、死んじゃいますよ!?」
剣を奪われた生徒たちはいきなりそんなことをしたスレイに食いかかったが、そんなことスレイには気にせずにルクレイツアのように声に怒気を込めて告げる。
「うっせぇんだよ、そんな騒いでっと魔物に食われるぞ」
その一言で生徒たちは黙ったが、武器もないこの状況で魔物に襲われてしまえば確実に死ぬ。
ましてや先程のようにユフィのシェルが守っていない。スレイがユフィに頼んで外させたため、生徒たちはスレイの言いつけを守り静かにするのだった。
生徒たちが静かになったのを見計らい、スレイが空間収納から生徒たちから奪った剣の代わりにとナイフを渡した。
「えっ、ナイフ?」
「これでどうしろと?」
だが突然ナイフを渡された生徒たちは、これでどうするのかと口々に思っている事を口にした。
そこに、スレイが生徒たちの疑問に答えるように話を始めるのだが、その内容は生徒たちにとっては恐怖でしかなかった。
「これからお前らにはこれで魔物を殺してもらう」
「「「「「はっ!?」」」」」
「はぐれでもなんでもいいから殺ってこい、それまでは街には帰さん」
「「「「「いやいやいや、ムリムリ!」」」」」
「ムリじゃねぇ、やるんだっての」
スレイが睨み付けると、男子生徒の内の一人のベルリが反論してくる。
「いきなりできるわけないだろ!?」
「そりゃそうだろうな、だからそのやり方を教えてやるっていってんだよ」
そう言うとスレイは生徒たちの前から姿を消すと、反論をした生徒の首にスッと鞘に収まったままのナイフを当てると、その生徒は背中に冷たい汗を流していたのだった。
目に写る恐怖を見たスレイはそっと首もとからナイフを離すと、そのまま後ろに下がった。
「始めに言うぞ、これは騎士道精神で言う正々堂々とはほど遠い、不意討ちや騙し討ち、もっといや暗殺に近い技術だ。やりたくなかったらゲート開いてやるから、上に戻れ」
「やります……やらしてください」
「お前らは?」
ベルリの肯定の意思を聞いたスレイが他の四人に視線を向けると、どうするかと、小声で話し合っているのが聞こえてきたが、すぐに全員がやると答えたので技術を教えることを決めた。
「よし、教える前にさっき上でしたオレの質問の答えだ」
結局、上では罵倒するだけ罵倒して終わってしまったのだが、上ではユフィたちがしっかりと答えを教えているはずなのでそれはいい、だがこの五人には実地で直接学ばせて先に教えることにしたのだ。
「答えは情報、敵の位地、敵の数それを知ってないとみすみす誤情報に踊らされ、部隊は壊滅することもある」
「……なら、俺たちは偵察役ですか?」
そう答えたのは少し根暗そうな少年ロビンだった。
「正解だロビン、だがなお前らにはさっきも言った通り、これからやるのは偵察役ともう一つ、さっき見せた技術を身に付けてもらう」
「暗殺……がですか?」
「そうだビーナ、お前らにこれから教えるのは剣技じゃない暗殺の技だ」
これから教えることはスレイが修行時代に教わった言わば暗殺の技モドキだ。
なぜモドキかと言うとスレイも師身も暗殺などしたことない。なので、ただの聞き及んだ技術を改良しそれに近い物にしただけで、本職の暗殺者等とは比べ物にならないほど幼稚な技だ。
「まずは魔物を探す、お前ら感覚を強化してみろ」
そうスレイが指示を出すとすぐに生徒たちが闘気による強化を自身に施した。
ちなみに今回連れてきたメンバーには一人も魔力持ちはいない。
全員が闘気しか持っておらず、そのため本来ならここで探知魔法を教えるのだが、そんなこと連れてくる前から知っているスレイ、そんなもの関係ない。
魔力がなく探知魔法が出来ないのなら、別の物で補えばいい、そのための強化だ。
「これから魔物を探す、まずは目をつむって音を聴け」
「えっ、それだけなんですの?」
「やりゃあわかんだよ、さっさとやれミサ」
「わ、わかりましたわ」
全員が目をつむったのを見て、スレイは周りの様子を伺いながら剣を抜いていた。
今の訓練におあつらえ向きのように魔物が向こうからやってきたが、全員がまだ気付いていない様子なので、このまま見殺しにする気はないので戦うしかない。
そう思っていると小柄な少女のルリアが手をあげる。
「向こうから、何か来ます」
「ほぉ~、よくわかったなルリア、数は分かるか?」
「えぇっと……十……ですか……」
「惜しいな、正確には十四匹だ。おいてめぇらこの距離ならもうわかっただろ!」
スレイがルリアに笑いかけると、すぐに未だに分かっていない生徒たちに怒鳴り声をあげると、全員が目を開けてうなずいていった。
距離的には後五メートル弱、ここまで近づくまで気付かないとは情けないとしか言いようがない。だがまだ始めたばかりなので仕方ないだろう。
そう思ったが明日にはもっと厳しく行くしかないかとも思ったが、その中でルリアの才能はいいものを見つけた。鍛えれば偵察として光るものがあるかもしれないと思った。
「お前ら、こいつをつけてその木の上に登ってオレがやることを見ていろ」
スレイは全員にネックレス型の魔道具を投げ渡した。
これは気配遮断の魔法を付与した魔道具で、これを着けてさえいれば魔物に見つかることもない。
簡単に魔道具の説明をしネックレス着けた五人を木の上に上げると、スレイは剣を持ったまま魔物の群れがやって来るのを待つこと数秒、現れたのはオーガの群れだった。
それもすべてが亜種で構成された群れで、探知魔法で知っていたスレイは、一匹くらいは残して後はスレイが一人で残りを相手取るつもりだった。
「そろそろか」
黒い剣を握る手に力を込めて大きく息を吐くと、いつもの構えではなく切っ先を地面に向けたまま、その場でジッとしているとオーガの群れがやって来た。だが、ここで少しおかしなことが起きた。
オーガの群れがスレイを全く相手にしないので、それどころかすべてが無視して、まるで障害物かのように避けてとおって行くのだ、それが群れの最後の一匹までもだった。
群れの最後尾がスレイの横を通ったときスレイが動いた。
まずは最後に通りすぎた最後尾の一匹の首を背後から落とし、それが倒れるよりも早く移動しそれと同時に空間収納から布を取り出すと、背後からオーガの口元に巻き付け声を出せないようにしてからオーガの心臓を貫くと、そのまま剣を捻り絶命させると横に一閃、そこで始めに斬ったオーガの倒れる音で群れの足が止まり仲間がやられていることに気がつく。
『グラアアァァァァ!!』
『ガアアァァァァ!!』
大きな叫び声をあげているオーガたち、だがすでにそこにスレイが動いていた。
一匹のオーガの背後に回りこみナイフで喉笛を切ると、吹き出した大量の血が飛び出した。
突然血を流しながら倒れる仲間に駆け寄ろうとした一匹とスレイがすれ違った。
その次の瞬間そのオーガが地面に倒れると二度と起き上がることは無かった。それはすれ違い様の一瞬でオーガの耳にナイフの刀身を差し込み殺したのだ。
瞬く間に十匹以上のオーガを殺したスレイ、しかもそのすべてが真っ向からに戦いではなく、相手に気づかれることなく倒した。その事に上で見ていた生徒たちは驚いた。
「降りてきていいぞ」
スレイがそう言うと木の上から五人が降りてくる。
「先生……今のは?」
「魔物が、自分で避けてみえましたわ!」
「あぁ、オレが気配を消していたからだ。この山の魔物は強い気配には敏感だ。だが逆に気配がない物はそこらに生えてる木のような、ただの障害物に見えちまうってわけだ」
「……それだけ?」
「おいお前ら、偵察には気配操作は必須だ、見つかっちゃ何の意味もねぇからか、それと後は足だな」
「足の形とか?」
「なめてんなら殺すぞ?足の早さ俊敏性だ」
そうスレイがこの五人を選んだ理由は俊敏さで選んできたのだ。
スレイが射った銃弾を避けるなかで他の生徒たちの中でとくに上手かったから、そんな理由で選んだのがこの五人だった。
「よし、ルリアお前が先導して魔物を探せ」
「はい!」
「それと全員、さっきみたいなことをやれとは言わん。だがなるべく息を潜めて気配を消して行動してみろ」
「「「「はい!」」」」
返事を聞くと五人が隊列を組んだのを見て、一連の動きからスレイは剣を鞘へと納めると生徒たちと同じように気配を消してその後ろを歩いていく。
⚔⚔⚔
茂みから覗いている先には七八匹からなる、この山では少し数の少ないゴブリンの群れを見つけたのだった。
「見たところ通常種、他にはいない……はぐれだなあいつらは」
「通常種以外もいるんですか?」
「亜種、変異個体、強化種この山じゃいろんな種類の魔物がいるぞロビン」
「変異個体?」
「帰ったら説明してやる。だが一つ言えるのがあいつらは強化種、同族のコアを食いまくってんなありゃ、あの魔物から感じる魔力がかなり高いぞ」
「そこまでわかるんですの?」
「目に魔力を纏えばな、後は経験則、ここにはよく来てるからな勘でもわかる」
スレイがそう言うと生徒五人の顔を見ると、全員がナイフを抜いて構えているのを見て、スレイはもう一度強化種のゴブリンたちの動きを見ている。
ちなみに強化種とこの五人を比べると、微かにあのゴブリンたちの方がどう考えても確実に強いだろう。
何せ同族のゴブリンとは言えこの山の魔物だ。
それに比べてこの五人は全く戦い慣れしていないので、このまま行けば確実に負けるだろうが、元々不意討ちからの奇襲で倒す予定なので大丈夫だろうと考えてうなずいた。
「気配を消して音を立てずに近付け、ナイフを首に突き立てるか喉笛を切るか、もしくは心臓にナイフを突き立てろ、それ以外は狙うな、そんなナイフじゃあのゴブリンの骨は断てないからな」
それを聞くとスレイは聖の魔力で姿を消すと木々を揺らさないように空へと飛び上がり、そこから五人の姿を見ていることにした。
ベルリがゴブリンたちの姿を見ながら、周りを警戒していたゴブリンの一匹が後ろを向いたのを見て茂みから飛び出すと、警戒をしていたゴブリンの背後からロビンがナイフを突き立てるが、わずかに刺す場所がずれたのか絶命にまでは至らなかったらしく、刺されたゴブリンが暴れて剣を振り回し始める。
それを見てロビンはゴブリンからナイフを抜き、何を思ったのか背を向けて逃げ出そうとする、そこにゴブリンがロビンにきりかかる。
「ぐがぁぁぁあああああ!?」
「ぅ、うわぁあああああっ!!」
「ロビンくん!」
間一髪で間に入ったルリアのナイフが剣を弾くと、パニックを起こしかけていたロビンが何とか建て直しルリアが剣を弾いたことで出来た隙に懐に潜り込み、今度こそ確実にその心臓にナイフを突きつけたのだった。
まずは一匹、確実に倒したのを見てスレイは空中で一人喜んでいる。
そんな視線の先に動きはあった。
残っていたゴブリンたちがロビンとルリアを取り囲んでいたのだが、その中で三匹が急に倒れた。
倒れたゴブリンたちの後ろには血のついたナイフを握ったベルリ、ビーナ、ミサの三人が立っていた。
「わ、私……魔物を倒せましたわ!」
「……やった」
「まだ残ってるんだ、油断しないで!」
初めて魔物を倒せたことに感激しているビーナとミサを叱ったベルリ、その後残った三匹のゴブリンを見ていて少し危ないところもあったがなんとか倒した五人は、とても喜んでいるのだった。
木々の生い茂る森の中から一転、そこは大きな川のある場所だった。
そこで顔や手についたゴブリンの血を落としてから、スレイによる先ほどの戦いに関する反省点や良かった点を話しているのだが、特にダメ出しはなく少し直すところだけを話すことにした。
「さっきの戦いルリアいい動きだったがもう少し自分でも前に出ろ、怖いかもしれないがそれも一つの訓練だと言うことを忘れるな」
「はい!」
「ロビンは少しパニックになったがよく持ち直した、だが厳しいことを言うがパニックになっても逃げ出そうとはするな、それだけは覚えておけ」
「はい!」
「ビーナとミサはまだ敵がいるのに気を抜くんじゃない、油断は死に繋がるってことをもう一度よく頭に入れておけ!」
「「はい!」」
「ベルリ、お前はもっと周りを使え、一人ですべてをやろうとするといつかは首が回らなくなるぞ」
「はい!」
生徒五人の注意点を話終えたスレイは、大きく息をはいてから笑顔を向けた。
「今言ったことはこれから直していけばいい、今日はよくやったみんなお疲れ様」
最後だけは師匠の真似ではなく、自分自身の言葉で告げることのしたのだった。
⚔⚔⚔
上に戻るとユフィたちが生徒たちへの講義は終わっていたようだった。
「どう?探知魔法の習得できたの?」
「なんとかね……及第点もいいとこだけど」
「そっか、じゃあ今日はもう帰ろうか慣れないことして疲れた」
そんなわけで今日は帰ることになったが、その中でスレイはユフィたちに向かって今日の戦いはいい収穫があったと話していたのだった。




