スレイ甘さを捨てる
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グレートホーンディアを狩った次の日、スレイたち四人は嫌がる生徒たちを山の中腹へと連れて行った。
もちろん誰もがおとなしく従うはずもなく、逃げ出そうとした生徒はスレイの黒鎖に縛られるか、あるいはユフィの風魔法で捕縛されて捕まるかの二択となった。
ちなみに移動中に生徒たちは何度も逃亡を図ろうとした。
ある者は鎖を外そうと暴れ、またあるものは魔法の解呪を試そうとしているがそう簡単に行くはずもなく、着々と目的地へと近づいていく。
「さぁみんな目的地はもうすぐだよ。特にエリック先生、頑張って」
「はっ……はい」
先頭を行くスレイは最近運動不足と不摂生が祟ってしまったエリックを心配する。
険しい山道を歩き続けるエリックの額には、大粒の汗が浮かび上がりすでにシャツの色が変わるほど汗を流している。
ここは年中が温暖なため、少し動けば痩せるだろうとスレイたちは目を逸らしながら生徒たちの声に耳を傾ける。
「おい!アルファスタ!放しやがれ!」
「そうだぞ!やめろ!ってか地面に下ろしてください!?」
「離しなさいよ!あっ、変なところ触ったら怒るわよ!それと早く下ろしなさい!」
「いやぁああああ、高いぃいいい!?」
「……ふぅあ」
「怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない」
鎖で運ばれていることに不満がある者、この状況に抵抗する気がなく気を失っている者、呪詛のようにブツブツと同じことを呟いている者、セクハラを疑ってわめき散らしている女子生徒たちなどなど、生徒たちの反応はマチマチだ。
その中でも鎖を引き千切ろうとしたり、魔法を撃とうとしているのは見込みがあるだろう。
ただし、真上から様々な言葉を投げかけられてはさすがにうるさいのでスレイが静かに振り向いた。
「みんな、一応ここも魔物もテリトリーだからね。ボクが殺気で魔物を追い払ってるけど、あんまり騒ぐなら縛ったまま放置するから」
スレイが少しだけ殺気を解くと、すぐ側の茂みから魔物が顔を出そうとしていた。
生徒たちが小さな悲鳴を上げる中、スレイは無言で抜いた魔力刀に魔力を流すと刀身を覆うように魔力が集まり、紅蓮の刀身が出来上がる。
紅蓮の刀身が伸びていき真っ直ぐ魔物の頭部を貫いた。
刀身に灯った炎が魔物の身体に燃え移り、一瞬にしてコアを残して燃やしつくした。
「「「…………………」」」
それをみた生徒たちはここにいる魔物のよりもスレイの方がヤバイんだと改めて理解した。
笑顔でこちらを見ているスレイが本当にそれやってしまうのではないかと恐怖を感じてしまった生徒たちはなにも言わずにただ身を任せることにしたのだった。
⚔⚔⚔
たどり着いた場所は五年前にスレイが、師匠のルクレイツアと共に一年ほどを過ごした洞穴のある場所だった。
懐かしく思ったスレイは、少しその場所を見回ってからぐったりと伏せている生徒たちの方を見る。
「一応聞くけどみんな大丈夫か?」
「「「大丈夫なわけあるか!!」」」
それもそうだなと思ったスレイは、これだけ文句をいえるのなら大丈夫だろうと思い話を始めることにした。
「じゃあこれから下層の魔物と戦ってもらうけど、注意することは二つ。まずは下の魔物は数が多い、囲まれて冷静さを失うと簡単に死ぬよ」
全員が生唾を飲んだ。ここに来て死を実感させられることになった、その事実に全員がここが恐怖の死の山であることを強く意識したのだった。
「もう一つは実際に魔物を相手にしてみたらわかるよ。じゃあ行くよ」
その一時間後、元の場所で地面に伏せている生徒たちを見下ろしながらスレイたちは困った顔をしている。
「まさか、ここまであっけなくやられるとは……」
「これは予想外だったね~」
「なぁ慣れない内は仕方ないですよね」
「自分としては少し不甲斐ない気もしますが……どうしましょうかこの子たち」
四人が揃って腕を組みながら、地面に倒れている生徒たちのことを見下ろしている。
それぞれが思っていることを口々に出して言い合っていると、生徒たちの中で早々に倒れスレイたちに救出された生徒、名前はエミルが身体をピクピクと痙攣させながら起き上がる。
「せっ……先生……なんなんですか……ゴブリンってあんなに強いんですか?」
「確かにここのゴブリンは強いけど今の君でも十分に勝てる、君たちも聞いてね?」
スレイが他の生徒たちに声をかけると、目を覚ましていたらしい生徒たちが起き上がり、まだ起き上がれるほど体力が回復していない生徒たちは顔を動かすだけで、スレイたちの話を聞こうとしているのだった。
「ここのゴブリンは大量に魔力で強化されて、確かに強いけど今の君たちなら簡単に倒せるよ」
「なら……なんで倒せないんですか?」
「ミアちゃん良い質問だね~。それはいたってシンプルな理由なんだけど、はい次ノクトちゃんね!」
「えっ、えっと……実戦不足ですか?」
「惜しいノクトちゃん、半分正解!はい次リーフさん!」
「実戦不足もそうですが、皆さん敵の殺気にのまれすぎですね」
「リーフさん正解!」
パチパチっとリーフに向けて大袈裟に拍手を送ったユフィは、今度は真剣な表情で伏せている生徒たちの方を睨み付けている。
「わかったみんな?今のみんなに足りないのは経験と恐怖に対する耐性だよ。人も魔物も、生きるために死に物狂いに襲ってくるの。慣れろとは言わないけど、飲まれちゃだめ、一瞬でも飲まれたら自分の命がない。それをよく覚えておいて」
実戦もまた命のやり取りもまだ。
魔物を倒したこともなければ命をもった生き物を殺したこともない生徒たちにとって、かなり酷な話しかもしれないがこの子たちが本当に強くなりたいと思っているのなら、これはしっかりと受け止めてもらわないといけないことだ。
「ユフィお姉さん、攻め立てますね」
「必要なことですからね………ところでスレイ殿、そこでいったい何を?」
リーフとノクトが端の方で腰を下ろしナイフで木を削っているスレイを見る。
「ボクが言おうとしたこと全部ユフィに言われていじけてます」
「子供ですかあなたは?」
「ほっといてください……どうせ子供ですよ」
「お兄さん、拗ねちゃいましたね」
「けっこうかわいらしいところがあるんですね」
「お兄さんかわいいです」
年上と年下の異性からかわいいと言われたスレイは、なんとも言えない表情で二人のことを睨んでいる。
「むむむっ、私だけ働かして三人でいい雰囲気になってる~」
「なってないなってない」
「あれ、ユフィ殿、あの子たちはどこに?」
「止めたんだけど張り切って下層に降りていっちゃった」
「ユフィお姉さん、ちゃんと止めてくださいよ」
「止めたけど、ムダだったよ」
両手を上げて降参のポーズを取ったユフィ、その姿を見たノクトとリーフは生徒たちを追うために武器を手に取った。
話を聞いていた三人の中で落ち着いていたスレイが手をそっと上げて二人を止めると、周りに視線を向けてからユフィに問いかけた。
「ちゃんと人数分のシェルは付けておいたんでしょ?」
「うん。ゲートシェルとシールドシェル、ついでにヒーリングシェルも付けておいたよ」
「なら安心だ……っと、はい、一名様早くもご帰還」
そう言うとすぐそばにゲートが開き、一人の生徒が地面に倒れた。
それからしばらくして生徒全員が同じように空から降ってきて、最終的には小さな小山が出来上がるのであった。
⚔⚔⚔
腕を組んだまま地面に正座させた生徒たちを睨み付けたスレイと、その隣にいたユフィは揃って大きなため息をついてから話し出した。
「あのねぇ、確かに私は実戦経験は大切だって言ったよ?でもね無茶と無謀は履き違えちゃダメ、これ絶対」
「君たちがやっったのはただの無謀、いや蛮勇だ。命を粗末にしようとしたね」
スレイとユフィによるダブル説教に生徒たちはすで涙目、それでもスレイもユフィもやめようとはしない。
「そもそもねぇ、私のシェルがなかったらみんな仲良く魔物のお腹の中に収まってたかもよ?」
「それかよくて手足を潰されてから食い散らかされて虫の息で見つかるか、どっちがいい?」
冷たい目で生徒たちを見下ろしていると、流石に不憫に思ったエリックが仲裁に入った。
「あの、お二人とも何もそこまで」
「あぁ?」
「いえっ!?なんでもありません!?」
すかさずエリック先生を殺気で黙らせるとスレイは、これだけでは生徒たちにちゃんとこの山の恐ろしさと、実の恐ろしさを理解させることが出来ない。
それにはまずは手っ取り早く恐怖を叩き込んだ方がいいと考えたが、どうすればいいかはわからない。
自分のときはどうだったかと思い返したスレイは、山の頂上で足がすくんだときに師匠が殺気で立ち直らせてくれたことを思いだし、ならばそれと似たようなことをやればいい。
それにはまずは師匠を真似なければならない。
時間もない今、生徒たちに対する甘さは要らない。
今のこの生徒たちに甘さは不要、心を鬼にいい悪魔や魔神に変えなくればならないと、瞬時に頭を切り替えたスレイは殺気を込めた目で生徒たちを見下ろしながら質問を投げ掛ける
「おい確認だ、騎士団で盗賊や魔物の討伐を行うときに何が必要か、お前らちゃんとわかってるだろうな?」
突然の口調の変化に全員がギョッとしていると、すぐにユフィが今のスレイの口調が誰の物なのかを察し、ここにいると巻き添えを食う可能性があると思い、ノクトとリーフを少し後ろに下がらせた。
「おい、さっさと答えねぇと脳天に風穴明けっぞ?」
魔道銃を抜いて本気で殺す気のスレイに生徒の一人が怯えながら手をあげた。
「はっ、はい!」
「ソンフォン」
「せっ、戦力です!」
「いっぺん死ぬか?あ゛ぁ?」
「ひっ、ヒィ~!?」
「次」
「はい!」
「メイリン」
「連携ですわ!」
「ちげぇよ、そんなん出来て当たり前なんだよボケが!」
もはや暴言を吐きまくるだけになったスレイに生徒たちはすでに涙腺崩壊まじかとなっていた。
「おい、泣けば許される、何て思ってんじゃねぇぞ?泣いたやつはオレがここからぶん投げてやるからな」
もはや暴言だけでは許されない、一人称まで変わってしまっているスレイにノクトとリーフはリアルに空いた口がふさがらない状態になっているらしい。
「なんなんですかあれ、悪魔か魔神の類いですか?」
「違いますよリーフさん……ちょっとだけ似てるだけです」
「まさか悪霊ですか!?わたし教会仕込みのお祓いやりますよ!?」
「それも違うから、そんな大きな十字架しまってねノクトちゃん」
ユフィが身の丈に迫るほど巨大な十字架を取り出していたノクトに、それを仕舞うように促してから、どうしてスレイがあんな言動をとっているのか、その理由について説明した。
「あれね。スレイくんの演技だよ?」
「え、演技って……嘘ですよね?」
「どう見てもなにかが取り憑かれてますよ!」
「そう見えるかも……あれってスレイくんのお師匠さんの真似だから」
本当の師匠ならば口と一緒に手も出ているので、今のスレイはまだ優しいと言える。
「分かったかてめぇら!死にたくなかったらな、もう一度オレがきたえなおしてやる!おい返事!」
「「「はい!」」」
「今から名前を呼ぶやつら!こっちこい!」
スレイが怒鳴りながら四五人を呼び寄せると、他の生徒たちはユフィたちに任せる。
「ユフィ、この子たちにアレ徹底的に叩き込んでおいて」
「わかったよ」
「じゃあ行ってくる。おいてめぇら!ノロノロしてんじゃねぇ!さっさと鎧脱いで来やがれ!」
一瞬の変わり身にもはやあきれを通り越して感心してしまうユフィたちであった。
今回、少しスレイの口調を変えました。当分はこんな口調でやっていくと思います。




