肩慣らしの魔物討伐
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特訓を初めてからちょうど一週間、その間に生徒たちは確実に実力を伸ばしていった。
まずは闘気の練習をしている生徒たちは、スレイの教えた集中強化を実戦で使えるレベルのギリギリのラインまでは習得しつつある。
だが訓練を担当していたリーフ曰くまだまだ咄嗟なときに動けないらしく、こればっかりは実戦で鍛えるしかないと言うことだった。
次に魔法使いの一団はユフィとノクトの二人が付きっきりで指導し、身体強化以外にも対抗戦で使える簡単な魔法を教えている。
これに関しては担任のエリックに確認し、対抗戦で実際に使える魔法を聞いてそれぞれに適した魔法を教えた。
剣術だけでなく剣杖と呼ばれる剣型の杖で魔法を使えるように指導し、その中でもバインド系の魔法を何度も練習させた甲斐もありかなりのレベルになった。
嬉々としてスレイに語っていたユフィとノクトだったが、正直に言っても実戦で使えるかどうかと言ったら、まだまだ及第点もいいところらしい。
そして残りの魔力と闘気を持っている二人はというと、かなりにレベルで仕上がってきているとスレイは一人納得している。
「と、いう訳でそろそろあの子たちの指導のレベルを上げようかと思うんだけど、みんなはどう思います?」
そうスレイが昼を食べながらユフィ、ノクト、リーフ、そしてエリックの三人に向かって訊ねる。
余談ではあるが、今日の昼のメニューはアルミラージュの丸焼きにロックバードのから揚げ、そして付け合わせのサラダといった感じだ。
ついでなので説明しておくと生徒たちはこの一週間でかなり鍛えられたせいか、一週間前よりもかなり引き締まってきていた。
それに比べて、毎日毎日動き回っている生徒たちと同じメニューを食べているせいか、なんだかエリックの輪郭が少し丸くなって気が気がするのは、多分気のせいではないだろう。
その証拠にスレイ、ユフィ、ノクト、リーフからのあわれむ目に加え生徒たちが、健康のためにも動けよそろそろ、いやマジでさ、と聞こえてくるようなドン引きした目でエリックを見ていた。
まぁそんなどうでも良い話はおいといて、スレイが話したことを聞いたユフィたちは、少し考えてからそれぞれの意見を口にする。
「私はいいと思うよ~、そろそろ戦わせてあげたいし」
「実戦をさせないとわからないこともありますから、わたしも賛成です」
「自分もです。動きもよくなりましたし、後は戦いで勘を養わせる必要があります」
「私も同じくです」
「じゃあ明日は下に降りてみますか……」
そう言ってスレイは肉を頬張ったが、よく考えたら自分とユフィ以外は下で魔物と戦ったことがなかったな、そんなことを思ったスレイはノクトとリーフを見ながらそう思っていた。
⚔⚔⚔
午後からの訓練はエリック一人に任せた。
たまには仕事しろ、という意味では無いが多少は食べてる姿以外も見せてもらいたいものだ。
スレイはユフィ、ノクト、リーフの三人を引き連れて下層の魔物と戦いに来ていた。
「なんですかこの数!異常です、多すぎますよ!」
「下の魔物は集団で襲ってきますからね~、私も慣れるまでは大変でしたよ~」
「ボクなんて初日に中腹から投げ捨てられましたよ……はっはっはっ」
「ユフィお姉さん!お兄さんがまた目から光が消えてます!」
ただいまスレイたち四人は魔物との戦闘中です。
適当なところにゲートで降りた瞬間にゴブリンが団体で押し寄せてきたのだ。
スレイとリーフが前衛、ユフィとノクトがそれぞれ援護を担当していたが、ここの戦いになれているスレイはソロでも十分に戦える。
「ユフィ、ボクはいいからノクトとリーフさんの援護に回って」
「一人で大丈夫?」
「慣れてる。それより、数が増えてる。こんな乱戦、まだノクトが慣れないから頼む」
「了解、ノクトちゃん!エアーブロウでゴブリンの動きを押さえて」
「わ、わかりました!」
ユフィが行ったのを確認したスレイは、目の前のゴブリンを斬り倒しながら横目でリーフの戦い方を見ていた。
リーフは剣の扱いよりも盾の扱いに長けており、敵の動きを小型の盾で受け流しカウンターの一撃で確実にゴブリンを倒していた。
攻防一体の戦い方、それはスレイ的には一番やりづらい相手かもしれないと思いながら、次々と押し寄せてくるゴブリンを黒い剣と魔力刀の二降りで切り裂いていった。
⚔⚔⚔
ゴブリンの群れを撃退したスレイたちは、その後一通りの魔物と戦いをしてから、せっかくだからと山頂付近の魔物と戦ってみたい、と言い出したリーフを連れて山頂にいたウェアルフと戦って少し休んでいた。
「ここの魔物、とっても強いですね集団でも単騎でも」
「ここが特別なだけだから気にしない方がいいですよ~」
うんうんとスレイとノクトも頷く。
「まぁそれは置いといて、明日は生徒たちを連れて下に行くけど、とりあえず中腹辺りでいいかな?」
今更だが死霊山の中腹には、少ないとはいえ単体の魔物が存在する。
これは上層へと行けるレベルになってきた魔物で、強さで言うと上層以下、下層以上と言った感じだ。
それを聞いたユフィたちは肯定の意思を示すようにうなずいた。
「いきなり集団戦はさせられないですよね」
「それ以前に私たち大規模パーティー組んだことないから、集団戦なんて教えられないしね~」
それもそうだと、ユフィの言葉に納得しどうするかと間が始めるノクトにリーフが告げる。
「あの、スレイ殿……言いにくいのですがベスター隊長が……その」
「あぁ、あの吊目がSクラスに他のクラスの生徒引き抜いて集団殲滅の戦術を教えてるってことですか?」
「し、しっていたんですか?」
リーフが驚いた表情でスレイのことを見ていたので、スレイは笑顔でなんで知っているかを語った。
「いやぁ~実はですね、訓練場を使ってたときにゴーレムを出してまして、その中に偶然壊れた物が混じってましてね」
「わぁースレイくんたらぁ~、空自らしい」
絶対にわざとだという確信があってか、スレイを見るユフィの目がシラァ〜っとしていた。
「それでどこにあるのか確認したらちょうど訓練をしてまして、初めの日よりも生徒の数が多いなぁ~っと思ってたら、なんだか他のクラスと演習始めてね。様子を見てたんだけど数の暴力でしかない戦いでして、あぁ、こういうことしてくるんだなって思っただけです」
証拠として保存しておいた映像を見せるためにスレイは懐から改良型通信機を見せる。
改良点としてレイヴンとのリンク時でのオートマッピングを改良し、3Dマッピングを作成と通信機能の改善等々を盛り込んだ新型だ。
新しい機能として、映像保存と写真機能、録音機能などを新しく盛り込んだせいで見た目も相まって、なんだかスマホに見えてきたそれをリーフに向けると、映像機能を起動させ前に撮った映像を見せることにした。
興味を持ったユフィとノクトもリーフの横から映像を確認すると、そこに写し出されていたのは百人ほどの集団がたった二十人ほどの生徒を痛め付ける映像だった。
それを見せられたリーフがふるふると震えている。
「……自分も、噂では聞いていたんですが、これはひどいです!なんですかこれ!確実に関係のない生徒を巻き込んで!こんなのただのいじめじゃないですか!」
「スレイくん今から抗議に行こう、あの騎士絶対に許せない!」
「今からでも闇討ちします?わたし、どんなことでもしますよ?」
「お、おぉ……ノクトも大分ボクらに染まってきたな……」
なにやらビックリしているスレイは、三人のことを見ながら話を続ける。
「映像ならエリック先生にも見せて今は対応待ちだけど、多分改善はされないってさ」
「騎士団上層部の圧力……ですか」
「そう言うこと、んで腹立ったんでアラクネ回収がてらイタズラしてきました」
スレイは無言で赤色の液体で充たされた瓶を掲げると、すぐにユフィが親指を立てて微笑みかける。
「スレイくんグッジョブ!」
「いやぁ~バレるかもって思ったけど、意外となんとかなって良かったよ」
なにやら怖い笑みを浮かべたスレイとユフィ、その理由を聞くと次会う時にはその理由がわかると言っていたので、ノクトとリーフはこれは聞かない方がいいと思い静かにうなずいたのだった。
⚔⚔⚔
訓練を終えて生徒たちとエリックを学園に送り届けたスレイは、ユフィたちにちょっとだけよる場所があると伝えると三人ともついてくると言ったので、四人で向かうことにした。
「おっかしいなー、この辺りだと思ったんだけど……」
ボソリと呟いたスレイは辺りをキョロキョロと見回しながら手に持ったプレートを見て、また周りをキョロキョロ見回している。
要領を得ない独り言を漏らしながら再びキョロキョロして何かを探し出すスレイに、ユフィたちはいったい何をしようとしているのかわからずにただ後を歩いているだけだった。
「スレイ殿いったいどこへ行かれるのですか?」
「ん~、いやこの辺りだと思ったんだけど違ったかな?」
「ねぇ~だからいったい何を探してるの~?」
「アレ?イヤこっちであってるよな……やっぱり……」
「お兄さん?無視しないでください」
やはりどうあっても要領を得ないというよりも、完全に一人の世界になってしまっているので仕方ないと思いながら、三人がうなずき会うと先を歩いているスレイの耳元で声をかける。
「スレイくん!」
「お兄さん!」
「スレイ殿!」
「うわあっ!?っとと!」
女性陣三人からに耳に響く大声のビックリしすぎたスレイは、手から取りこぼしかけたプレートを両手で挟むように受け止めた。
ふぅ~っと息を吐いたスレイは、ユフィたちの方に振り返るとなんともムスゥ~っとした顔をして見ているのだった。
「えっ、なに?なんなんですか?」
「「「話聞いてください!」」」
「は、はい……」
みんなに怒られたスレイは、自分の手に持っていたプレートを三人に見せる。
どうやらプレートに写真とマップを写していたようで、そこに写っていたのは巨大な角をもった立派な雄鹿の姿をした魔物だった。
「これってたしかグレートホーンディアだっけ?」
「魔物でしたよね?なんでこんなの探してるんですか」
「あ、もしかしてとっても強いんですか?」
「強いっちゃ強いけど……動きはすぐに見切れるから、あの子たちでも倒せるんじゃないかな?」
「それでは……なぜこの魔物をどうするんですか?」
「この時期は美味しいから、明日の昼食にでも食べたいな~って……アレ?どうしたんですか?」
ワクワクと語っているスレイにユフィたちから、マジかコイツみたいな顔をしていた。
「えっ、それだけなんですか?」
「はい」
「お兄さん、ただ食べたいだけでこの魔物を探してるんですか……?」
「そうだけど……なんか引っ掛かる言い方だな」
眉をひそめるスレイに対して二人が当たり前だという表情で睨んだ。
ここは死の山と呼ばれる恐ろしい場所、住み着く魔物もそれ一匹で小さな村くらいなら滅ぼす力を持っている。
そんな山で、ただ食べたいからという理由で狩るなんてどうなんだと、二人が視線で訴えかけてきた。
「まぁまぁ、スレイくんだって美味しいものが大好きなんだし、私だって食べたいな~」
「それは自分もですが……そろそろ何とかしないとエリック先生の輪郭が……」
「……確かに、わたしたちと同じ量食べてますもんね」
今日もみんなから指摘があったとおり、エリックの輪郭が若干変わってきている。
昼食はこの山で狩れる魔物料理が中心となり、生徒たちはもちろんスレイたちもかなり動いているのでカロリー消費が激しいので問題ない。
加えて、成長途中の生徒たちやノクトのためにと工夫はしているが、肉料理メインなのがいただけない。
「スレイ殿、明日からはエリック先生を動かしましょう」
「一気に太るのは体によくないですよ!」
「スレイくん、明日からエリック先生には特製健康食を食べさせようね」
「ちょっと待ってユフィ……まさかボクにまたアレを作れってこと?あのめんどくさいのを?ヤだよ、めんどくさい!?」
辟易と語るスレイを見ながらノクトとリーフが首を傾げている。
ユフィが言っている特製健康食とは、村にいた事にスレイたち作った揚げ物のせいで太った母たちのために考案して作った健康メニューだ。
肉なし炭水化物なしの完全に野菜オンリーのメニュー、その代わり食べ応えを追求したあまり、量がものすごいことになってしまい肉がなくてもお腹だけは膨れるのだ。
「アレ……作るの面倒なんだよなぁ~」
「」
そう三人に向かって訴えかけると、ムッとした三人が一斉にスレイに吠えた。
「「「エリック先生の健康のため!」」」
三人からそう責められたスレイは、項垂れるように頷くと近くの茂みが揺れる音が聞こえる。
「「「「───ッ!?」」」」
音を聞くと同時にスレイは剣を抜き放ちリーフは即座に剣を抜けるように柄に手を触れ、ユフィとノクトもまた瞬時に杖を構えて宝珠に魔力を流す。
「ここに来るだ。気を引き締めて」
「はい!」
「了解です!」
気を引き締め音がした方を中止していると、突如何かが高い跳躍と共にスレイたちの頭上を飛び越えてく。
いったいなんだと思った四人が振り向くとそこには先程プレートに写し出されていた物とおなじ立派な角を生やしたグレートホーンディアだった。
それを後ろから見ていた四人はポカーンと口を開ける。
「アレですよね?」
「うん。あれだね」
「そうだね~」
「そうですよね」
四人がポカーンと口を開けてしばらくして。
「デカすぎじゃね?」
「大きすぎじゃないかな~?」
「大きすぎますよね?」
「大きいですよね?」
そう、スレイたちを飛び越えたグレートホーンディアは、まさかの全長三メートルほどの巨体で、前に見て実際に狩ったことのあるスレイでさえ驚くほどだった。
「「「「………………………………………」」」」
しばらく通りすぎていった巨大鹿の道を見ていた四人は、ハッと我に返ると声を揃えて大声をあげた。
「「「「あぁーーしまったぁああああっ!!」」」」
驚きのあまり逃がしてしまった獲物をあわてて追いかけるスレイたちだった。
結局上空からのレイヴンたちゴーレム三機と無数のアラクネによる地空からの大捜索の末、三メートル超えの鹿を狩ることができたのだった。
狩られた鹿はスレイとユフィそして手伝いを名乗り出たリーフの手によって、大きな枝肉に解体されたのだった。




