午後のひととき
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この日の午前中には練習は魔力の引き出しと、身体強化によっての動きを実際に体験させるという肉体へ直接叩き込むように教え、そして昼からは魔力と闘気による守りについての講義を行った。
「じゃあ今から魔力と闘気による守りを教えるよ。………さて、ロッドくん君にお願いがある」
「お願い?なんだよ」
「全力でボクのこと殴ってみて」
一瞬、ポカンッとしてからニヤリと口元を釣り上げたロッドが再度の確認をした。
「おいおい。いいのかよ?」
「あぁ、いままで攻撃を受けてただけで結構鬱憤たまってるでしょ?ほら、憂さ晴らしも兼ねて、殴ってきていいよ」
「そんなら遠慮なく行かせてもらうぜ」
コキコキッと拳をならしてスレイから距離をとると、ユフィたちは他の生徒たちに危ないから下がるようにと指示をだす。
「はいはいみんな下がってさがってぇ~」
ユフィがみんなに下がらせると、準備ができたことを知らせるとロッドが全身に闘気と魔力をみなぎらせる。
「死ねやゴラァアアアアァァァ―――――ッ!!」
かなり鬱憤が溜まっていたのかロッドが地面を蹴ると同時に、そんな怒鳴り声を出しながら近づいてくる。
それを聞いてスレイも、ちょ~っとやり過ぎてしまったのかな?などと考えながら、ロッドが近づいてくるまで全く動こうとしなかったが、ロッドが目の前に現れ拳を振り抜くと同時にスレイが動いた。
振り抜かれた全力のロッドの拳を、スレイの人差し指で受け止めると風が吹き荒れた。
「なっ、なにッ!?動かねぇッ!?」
全力の強化した拳が受け止められたことに驚愕するロッドと、スレイたった一本の指でロッドの拳を防いだのをみて驚いている生徒たちの顔をみたスレイが説明をする。
「これは集中強化っていって、普通の強化とは違ってただ一点だけを強化する方法だよ。あっ、ロッドくん。もっと攻撃してきていいから」
「うっせぇ!」
もう一度叫んだロッドが一度後ろに下がると、再び勢いをつけて飛び込んでくる。
殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る!
今度は一発ではなく連打を放ってきたロッドだったが、それをスレイはすべて指一本で受け止めている。
拳を受けている時の顔は全く焦りもない涼しい顔だ。
「クッ、クソがァアアアアアァァァ――――ッ!!」
「おっと」
その涼しい顔を見ていてだんだんと怒りを募らせていったロッドくん、ついには蹴りまで跳んできた。
さすがにこれは指で受け止めるには高さがきつかったスレイは、魔力持ち組に今日中に覚えてもらいたいもう一つのことを見せる。
蹴りはローキックだったので、スレイは足元に小型のシールドを張って受け止める。
「こっちは魔力持ち子に覚えてもらいたいんだけど、これはシールドの応用で、攻撃に対してピンポイントにごく小さなシールドを張るものです。このやり方についてはユフィ先生とノクト先生に教えてもらってください」
その間にもロッドくんは必死になって攻撃を加えているが、スレイは全く防御の手を緩めようとはしない。
別に痛くもないのでいいのだが、いい加減に次の説明に入りたい。
「はい、ロッドくんもういいよありがとう」
「うるせぇッ!!」
お礼を言ったが無視された。
それどころかむきになったのか攻撃をどんどん加えてくる。いい加減、時間ももったいないので蹴りを払い除けたスレイは手を前に出した。
「うっとうしい」
「ぶげらッ!?」
スレイがロッドの頭部にデコピンをかますと、大きく後ろに吹き飛ばされたロッドは地面を三回ほどバウンドしたのち、地面を抉りながら進んでいき最後には地面に頭から突き刺さった。
ボロ雑巾のようになって気を失ってしまった。
「全く、まだまだ鍛え方が足りないね」
「スレイくんがやりすぎるのが行けないんだよ」
ユフィがスレイに呆れながら土魔法でロッドを掘り起こしてから治癒魔法をかけて放置した。
なんともひどい扱いと感じた生徒たち、だがそれ以上に生徒たちは疑問を覚えた。
「あの、身体強化で人間をあんなに飛ばすのって出来るんですか?」
「魔力の量にもよるけど、今はかなり押さえてるからね」
「押さえてアレって……」
生徒たちがなにやら驚愕した顔をしてスレイをみているので、ユフィが生徒たちに説明する。
「スレイくんは素の身体能力が高いから、それに比例して強化も強くなっちゃってるんだよ」
「そうですね。前に大きな岩を片手で持ち上げてたりしてましたからね」
素でそれという事実を知った生徒たちの顔が驚きに彩られた。
「あの、スレイ殿はいったいどんな鍛え方をしてきたんですか?」
「どんなって普通に鍛えてきただけですよ。なんなら教えますけど」
「参考までにお願いします」
リーフが真剣な表情でスレイに訊ねると、それと同時に生徒たちとついでにエリックも真剣な面持ちで聞き入っている。
ちなみにその内容を知っているユフィは、頭を押さえながらフルフルと頭を振っている。
「やることはいたって普通で、はじめはただ走るだけでしたね」
「先生、それだけなんですか?」
「いや、剣を下げて、後はグラビティーで体重を百倍くらいにして」
「「「「出来るわけないだろッ!!」」」」
リーフとエリックそして生徒プラスで話を聞いていたノクトからツッコミを入れられた。
いったい何を考えてそんなバカみたいなランニングをしていたのかと全員から聞き出されて、なぜそんなことをしていたのかをゆっくりと思い出しかがら説明しだす。
「えぇっと……初めはただ普通に走ってただけで、師匠にボクがグラビティーを使えることを知られて、小僧明日からグラビティーで体重増やして走れ、っていってきてね。その日から一ヶ月くらいだったかな、次は今の二倍、さらに一ヶ月したらさら二倍、そうして二年くらいたった頃には元の体重の百倍の体重で走らされってさ……はぁ、いやマジであのときはよく頑張ってたって自分でも思うよ、だってまだ六歳だったよ?百倍の時なんてまだ八歳、いや冗談じゃないのかって今でも思うね……それどころかさぁ~手を抜くと後ろからナイフ投げられるわ、マジであり得なかったっての───」
話を続けているうちに師匠に対する恨み言になっていき、最終的にはブツブツと小さな声でなにかを呟きながら、目は虚ろで全身からは真っ黒な負のオーラがかもち出されている。
その姿はユフィの胸を見て黒くなった時のノクトにも似ているが、今のスレイはそれ以上に病んでいると思わせていた。
こうなると始めっから思っていたユフィは、呆れたように大きなため息を吐いていると、だんだんとスレイの様子がおかしいと思ったノクトとリーフがユフィに詰め寄った。
「ゆユフィお姉さん!お兄さんが壊れてます!?」
「ユフィ殿!スレイ殿の様子がかなり変になってます!?」
「あっ、いつものことだから気にしないで~」
涼しい顔をして答えるユフィをノクトとリーフは驚いた顔をして見返した。
「師匠の話をするといつもこうだから、うぅ~ん……もうそろそろかな?」
「なにがですか?」
「ん?見てればわかるよ」
ユフィの言葉にノクトとリーフはスレイの方に見ると、いつの間にか負のオーラを振り撒いていたスレイが四つん這いになりながら絶望の淵にいるような顔になりながらうつむいていた。
「なんですかあのお兄さん!?スッゴいレアなんですけど」
「いったい何があったらあそこまで絶望の淵に行けるんですか!?」
「見てみる?前に撮った映像あるけど」
ユフィは、空間収納から映像クリスタルを取り出すと、ノクトとリーフが食い付きついでに生徒たちとエリックも、どうしてスレイがこうなっているのか気になるらしく。
みんなでスレイを放置しておりたった一人でそのままは酷いと思ったユフィがどうせならと一緒に見ることにした。
「ユフィ、これ以上ボクを落ち込ませてどうする気なの?」
「まぁまぁ、闘気の修行は全くわからないから、ほらほら、説明必要でしょ?」
強引だなと思いながらもノクトが闇魔法で辺りを暗くさせ、起動させたクリスタルに納められた映像を見ることにした。
『はぁ~い、これからぁ~ユフィちゃんとぉ~スレイちゃんの修行風景を撮影しようとおもいま~す!』
初っぱなに写し出されたユフィ、ではなくユフィの母親のマリーの登場に一同ポカーンと、口を開けて驚いてから笑顔で固まったまま映像を見ていたユフィに向いた。ついでにスレイまでも向いていた。
「ユフィ、もしかして映像確認してない?」
「……ノーコメントでお願いしまぁ~す」
いきなりテンションの高い母親の登場に、ユフィの顔は真っ赤になりかけていたが何とか耐えきった。
全員が一瞬少し年を取ったユフィの登場に、少し驚き顔になったがまずは映像を確認することを優先した。
『はぁ~い!まずはユフィちゃんの練習風景でぇ~す。あなたぁ~、ちゃんと撮ってるぅ~?』
『大丈夫だ』
顔は出てないがゴードンの声も聞こえてきた。
どうやらクリスタルを持っているらしい。そもそもなんでこの二人がこんなことをしているのか、スレイには全くわからなかった。
「ねぇ。これいつの?」
「修行を初めてすぐって言ってかたから……五、六歳くらいかな?」
そう話していると映像の中に桃色の髪の幼い少女が撮された。
「アレがユフィお姉さんですか?」
「そうだよ」
「可愛らしいですね」
この頃はまだ初級の魔法の練習をしていた頃で、映像の中のユフィが練習しているのは炎系統の初級ファイヤボールだ。
この頃は魔力の調整がまだうまくできずに、よく火が小さすぎたり逆に火が大きすぎて森を焼きかけたりと、今考えればかなり危険なことをしていた。
そして映像の中のユフィは、魔力を注ぎすぎて特大のファイヤボールを作りだし森を焼き払いかけていた。
その映像に生徒たちはポカーンと、口を開けて目を点にしていた。
「ユフィ殿……この頃からすごかったんですね」
「イヤだなぁ~、偶然だよ~」
「偶然って……わたしでもこんなのできませんよ?」
「…………………………………」
同じ魔法使いのノクトにそう言われて黙り混みそっぽを向いてしまったユフィ、それを無視して全員は映像の続きを見ることにした。
『もう、ルラったらぁ~ちょ~っと隠し撮りしたくらい、いいじゃないのぉ~』
どこか不満そうに膨れているマリー、どうやらユフィの放火した火事の鎮火中に隠し撮りをしていたのが見つかり、修行の邪魔だからと追い返したようだ。
『気を取り直してぇ~今度はスレイちゃんのところ行くわよぉ~』
そんな訳で今度はスレイの方の撮影に行くことにした。そこでスレイは、あることを思い出した。
「あっ、そう言えば……この時ってまさか」
顔を真っ青にして呟くと同時に、映像からなにかが爆発するような音が聞こえてきた。
「なっ………なんですかあれ……」
「ば、化け物……じゃないですよね?」
「……悪魔じゃないか?」
「そもそも人間じゃないですよ!?」
映し出された映像の中では片手で家一軒を振り回しながら酒のボトルをらっぱ飲みし、必死に逃げ回る小さなスレイを追い回す酔っぱらいの姿が映し出されていた。
その姿が写し出された瞬間、スレイは片手で目元を覆い顔を空へと向け、この事件のことを思い出したユフィの顔から笑顔が消えった。
二人はあのとき起きた事件のことを思い出している。
あれはルクレイツアが前日にスレイの父フリードと一緒に明け方まで呑んでおり、そのせいでまだ酔いも覚めていないときにスレイの修行をつけていた。
あった瞬間に迎え酒だとかなんとか言って酒を呑みだし、さらに深酒をして修行だなんだと言って家を破壊し続けた。なんともアホらしい事件であって、まずは全員の認識を正すために訂正をいれた。
「「あれはただの酔っぱらいです」」
あの後、酔っ払っていたルクレイツアを撮影をしていたマリーが逃げ惑っていたスレイを助け、騒動を聞き付けたジュリアとクレイアルラが何とかルクレイツアを捕縛た。
正確にはマリーが暴れるルクレイツアを相手取り、その間にジュリアとクレイアルラのバインド系の魔法で身体を動けなくしたのち、記憶が飛ぶまでマリーがぶん殴り続けた、
その後、破壊した民家をクレイアルラ監修の元、ルクレイツアが一月かけて修繕した。
スレイとユフィはなにも言わずに映像クリスタルを破壊した。
映像クリスタル一度使ってしまえば、映像を消すことが出来ないのでいらない映像クリスタルはこうして破壊するしかない。
「お母さんたら、なんでこんな映像クリスタル渡したんだろ?」
「知らないよ。それより、ボクは師匠の醜態を見られて恥ずかしいよ」
二人揃ってなんだか落ち込んでしまったため、きりもいいので今日の訓練はここまでにして帰ることにした。
ゲートで教室に戻ったスレイたち、時間はちょうど午後三時過ぎ、エリックに確認したら本来ならこの時間で生徒たちの授業は終わりで後は自由だそうだ。
「それじゃあ今日はここまで、明日は今日の復習とさっき見せた集中強化の練習ね。それじゃあエリック先生後よろしくお願いします」
「はい、ではみなさん、明日も頑張りましょう」
エリックが締めると生徒たちはカバンを取り出して帰る支度を始めたので、スレイたちは早々に学園を出ることにした。
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学園からの帰り道、スレイたちは武器屋へと足を運んでいた。
「ごめんなさいリーフさん、買い物に付き合わせてしまって」
「構いません、ですがなぜこんなに大量の剣を?」
「これからあの子達の杖を作るんですよ。ねっ、スレイくん」
「そう言うことです」
「杖の支給なら学園に請求すればもらえますよ?」
「まぁそうなんですけど、いきなり杖を持たせても慣れないですから」
「そうですね~、スレイくんも杖で魔法使えないし」
「ほっといて」
別に杖がなくても魔法は使えると、反論するスレイに魔法使いの少女二人がジトォ~っとしたような目をスレイに向けているのだ。
ちなみに少女二人の言い分からすると、あんな物で魔法が使えるスレイの方がおかしいと、まさかの魔道銃の製作者であるユフィにも言われてしまった。
「第一、宝珠もないのになんであんな強い魔法が使えるのよ~?」
「そりゃ、長年の鍛練の成果かな?」
「今日の話で思いましたけど、どうしてあんなにデタラメなことできるんですか!集中強化した指で拳を受け止めるのもどうかと思いますよ!?」
「そうですよねぇ!自分も思いましたけど、同じことをしろって言われても自分でもできませんよ!それにスレイ殿って結構ムチャクチャですよね!?」
いつのまにか話に入ってきたリーフが、集中強化のやり方について意見する。
「えっ、あれ全部師匠譲りのやり方なんですけど?」
「「そんな師匠、普通じゃありません!」」
なぜかノクトとリーフの言葉を聞いて、ユフィは小さく吹き出して笑い、スレイは首をかしげながら、師匠が普通じゃないのはいつものことだろ?と内心思っていた。




